第31話 ドラマかよ…でも!

いつものように喫茶店で、いつもの席で、いつものコーヒーを飲みながら、いつものように原稿用紙と向き合う。

これは仕事だし、日課だから構わない。


……最近はそこにが増えた。


奏さんのサイトが再開していないことを確認して、溜め息をつくこと。


こんな日課は要らん。

だから割りとツラい。

でもこれも仕方ない。

再開を望むから確認するわけで、結果としてまだ再開してないからツラいだけだ。

本当に嫌な日課なら、サイトをチェックしなきゃないいだけだ。


……それに、本当にツラいのはしていないことじゃなくしていないことだ。

あの日…、走り去るかなでさんを見ていることしか出来なかったあの日から1度も顔を合わせていない。


あの時の顔も、あの時の後ろ姿も、ハッキリと焼き付いている。あれを見て、改めて自分の気持ちが自覚出来たのも皮肉な話だ。


「不戦敗かよ」


無意識に呟く。


『御注文ですか?』


マスターに声をかけられ驚きつつ否定する。

他人に聞こえるほどの独り言かぁ、末期だなぁなんて思う。


いつもの窓の外の景色。

ゆっくりと流れる雲。

少しうつ向きながら歩く奏さん。


また溜め息をはく…。ん?奏さん?

いやいや、幻まで見出したらいよいよヤバいだろと首を横に振る。


『よろしいのですか?』


マスターがそうかけてくれた一言に


「マスター、ありがとう!」


自分でも驚くほどに勢いよく喫茶店を飛び出し、奏さんを探す。

でも現実はドラマみたいには行かないようで奏さんは見つからなかった。

そもそも本当に幻というか、見間違いだったのだろう。

空を見上げて「末期だなぁ」と思った。


───携帯のメール受信音が鳴る。


これが奏さんからのメールなら、ドラマよりドラマじゃないか!

急いで確認する。


『担当者打ち合わせと小説締切日程』


と、いう件名に改めて「末期だなぁ」と、

色々な意味で呟いていた。




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