第28話 音は届かなくても(奏サイド)
サイトの更新はしていない。
図書館の仕事も休んでいる。
体調が良くないことにしてるけど、
どちらかと言えば気持ちの問題で。
あの人は、どうしてるだろう?
あの人は、どう思っただろう?
もう嫌われてしまったかもしれない。
だとしたらもう関係ないのかもしれない。
だから目を閉じると、もちろん真っ暗で。
耳から音は聞こえなくて。
独りなんだと自覚する。
まだ聴こえてた頃のことも忘れそうで。
気を紛らそうとネットを見たり、何か本でも読もうかななんて思ってみたり。
休止してるサイトのことを考えたりもしたけど再開する気にはなれそうにない。
……いつからだろうなぁ。
障害者として気をつかってもらうことが、
惨めに思えてしまったのは。
健常者として接してもらうことで、聴こえづらくて助けて欲しいと思えてしまったのは。
どちらにしてもどこか足りなくて、
ピースの欠けたパズルみたいで。
「…奏、ちょっといいかい?」
父が持っているのは資料の入っている封筒に見えた。
『また補聴器の資料?』
「奏宛てにポストに入っていたんだよ」
『?』
資料請求なんかした心当りもない。
ただ、そんな疑問はすぐに吹き飛んだ。
────奏さんへ
そう書かれた原稿用紙が入っていた。
すぐにあの人が書いたんだと思った。
それを見た父も気づいたようで、
「彼の書いた物、かな?」
『……多分、間違いない』
「……そうか、何が書いてあるんだい?」
『ちょっと待って。まだわからないよ』
実は読むことに
「読んでごらんよ」
見透かしたような父に反論しようか考える。
「……読んでからでも、遅くないよ」
諭すかのような言い方に、私は従う。
────奏さんへ
そう始まった原稿用紙には、彼の想いも、彼の苦悩も迷いも全てが書かれていた。
彼もまた、必ずどこかピースが欠けてしまうパズルに苦しんでいるのがわかった。
────どうして、あの時私は…。
原稿用紙に雫が落ちる。
渇いて消えるまでには次の雫が跡をつける。
簡単なことだった。
足りないピースは補い合えば良かったんだ。
私のパズルも、彼のパズルも。
気づけば父にすがり付くようにして泣いていた。声をあげて泣いた。
初めて耳から音が消えていった時に、
泣いた時以来だった。
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