第27話 普通の人みたいに(奏サイド)

何もする気が起きない。

あんな態度のまま帰って来てしまったのは、今にして思えば間違いなく失敗だった。


……でも、仕方ない。


私は障害者であの人は健常者なんだから。

だから私の、障害を持つ者の気持ちはきっと理解出来ないんだろうな。


理解しようとしてくれる。

事実、あの人は優しくしてくれる。

困っていたら助けてくれる。

寄り添ってくれる。


────それが私を苦しめる。


理解してあげようと思ってくれることが、壁のような隔たりに思える。

その優しさが、哀れみに感じる。

なんて健常者の傲慢にさえ思う時がある。

寄り添う?私には介護が必要なの?


障害を持つことを出来ることなら知られたくない。知れば少なからず同情されたり、色目で見られるから。

なのに、あの人はあんなに大勢の前で私が障害者だとぶちまけていた。

それが親切心から来たのだとしても。

それが好意から来たのだとしても。


素直に受け止めることが出来ない。


二人で居た時に、ふと目にしたカップルが脳裏に浮かぶ。派手でも特別じゃなくても、ただ、普通のカップル。


……それが死ぬほど羨ましくて。


『……どうして?』


無意識に口に出てしまう行き場のない言葉。


『どうして!!どうして、私なの!?』


思わず壁に投げたクッションが、傍にあったゴミ箱を倒してしまう。

その音が聞こえたのだろうか?


「奏、大丈夫か?」


父が心配なのか、確認にくる。

ドア越しにも、私にも聞こえる声。


涙を見られたくない。

だから、返事をしない。

私は耳が不自由だから聞こえなくても当たり前なんだから。


少しして父が心配そうにまた声をかけてきたので、持ち直した私は


『ゴミ箱倒しちゃっただけだから』


とだけ答える。

都合のいい時だけ聞こえない振りをするんだな、私は。……自分で自分が嫌になる。


普通の人みたいになりたいなぁ…。


無理か、自分で自覚しちゃってる。

普通の人、なんて普通は思わないもの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る