第25話 このコーヒーの味

いつもの喫茶店で俺は原稿を書いている。

いつもの席で、いつものコーヒーを飲んで。


あの日から、奏さんとは会っていない。

メールをしようと思えばできる。

でも、出来なかった。


────サイトを御覧の皆様へ。

当サイトは諸事情によりしばらく閉鎖します。誠に勝手ながら申し訳ございません。


再開の予定・見込みは現状は未定です。

────────────────────


この文章を見て、どんなメールを送れるって言うのだろうか。

なのに、再会と再開をどこかで期待して。


ここのコーヒー、こんな味だったっけ?

ここからの景色、こんなだったっけ?


これが日常だった。

奏さんと知り合って、少し日常が変化して。

奏さんが居ないならまた日常に戻るだけだ。


『障害者なんです。健常者とは違うんです』


あの言葉が離れない。

どうしたら良かったのだろうか?

どうすれば良かったのだろうか?


その答えを探すかのように、難聴についてだけでなく障害について調べるようになった。


……そして


皮肉にも原稿は今までにない速度と、今までにない熱量で進んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る