第24話 誰のせいですか?

その光景は、俺を焦らせた。


「おい、危ないじゃないか!」


言われた男性らは不服そうに答える。


「道塞いでっからだろ。こっちは声かけたのにシカトしやがって」


その言葉に少しカッとなる。


「それなら女性を突き飛ばすのか!?」


自分でも声の大きさに気づく。

珍しく、俺は怒っているんだと意識する。

その声は奏さんにもしっかり伝わるほどで。


「彼女は障害を抱えてる。耳が聴こえにくいんだよ!そんな女性を後ろからあんたは突き飛ばしたんだ!それがどれだけ怖いか、危険なのかわからないのか!?」


「は?障害?知らねえよ知り合いじゃねえんだから。見てわかんねえし」


───今、なんて言った?


それを自分が理解するより先に、

俺は初めて人を殴った。


「何してんだよ!てめぇ」


そしてすぐもう一人の男性から反撃を受けてしまう。…殴られたのも初めてだが、カッとなってるからか意外と痛くない。


その男性にアクションを起こそうとした時だった……


『もうやめてください!』


悲鳴にも似た拒絶する奏さんの叫びに、俺も相手もそこで止まっていた。


『私が悪かったです。すいませんでした。だからもう許してください。どうぞ、この場から離れてください』


そう相手の二人に告げて、頭を下げる。


『周りを見てください、皆さん見てます』


周りには道行く人が大勢いた。

野次馬のようにこちらを遠巻きに見ていた。


二人はばつが悪そうにしながらも「行こうぜ」と離れて行き、俺と奏さんだけになる。


『…私は普通に生活したいんです』

「でも、あいつら…」

『こんなに目立つようなことになってるじゃないですか』

「……」

『人目を気にしちゃ、いけませんか?』


奏さんは、そこからは悲しげだった。


『障害者なんです、健常者とは違うんです』

「……」

『だから知られないようにしてるんです』

「それを言ったら悪いのはあいつらじゃないってことですか!?」

『そうです。悪いのは隠してる私。障害を抱えてる私』

「違う、それは違いますよ」


…なぜ俺は奏さんにまで強い言葉をぶつけているのだろう?


『美術館でも、本屋でも、貴方の優しさが嬉しくて……でも、その度にこの耳が嫌になるんです』


かける言葉が見つからない。

いや、俺にはそんな言葉がないんだ。


『……今日はもう帰ります、サヨナラ』


勝手に助けようとして、

勝手に劣等感を抱かせて、

勝手にカッとなって…。


なのにかける言葉も無くて、ただ走っていく奏さんを見ていることしか出来なかった。




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