第23話 のぼりもくだりも紙一重

「俺と付き合ってください」


俺は勇気を振り絞った。もう一滴も残ってなんかいない。


『……少し考えさせてください』

「もちろん」

『前向きに考えてます。ただ…』


小説家は安定しないから悩んでるとか?

(それでフラれた過去あり)


『嬉しいんです、嬉しいんですよ?でも考えちゃうんです。障害のある私なんかで本当にいいのかなって』


───あぁ、そうか。

ずっとそんな不安と一緒に生きているのか。


『それに……』

「それに?」

『……教えてあげませんっ』


少しイタズラっぽく笑うと、すごく眺めがいいという場所へと続く坂道を登りだす。

道の狭さが二人の距離を近づけてくれた。

人生初めて、道に感謝する俺がいた。


「マジ、ウケるなあいつ!」


ふと、坂道を登ってくる男性の声が聞こえた。酔っているのか?


「あり得ねえって!」


速度は向こうの方が速いようだ。いずれ抜かれるだろう。

すると、急いでいるのか、あっという間に追いつかれ、道をあけるとすぐに抜かれた。


俺の前には奏さんが歩いているが、すぐに抜かれてしまうだった。


奏さんは後ろから来た彼らに気づいていないのか、彼らのために道を空けて居なかった。


「すいませ~ん」

「急いでるんですけど~」


奏さんは気づいていない。


「あれ?彼女可愛くね?」

「どこ行くの?これから暇?」


彼らの声は時折走る車の音で消されるのか、奏さんは全く返事をしない。


「何だよシカトかよ」

「返事くらいしろよな?」


俺は後ろから割って入る。


「悪いけど、彼女は」


すると彼らはすんなりと引き下がった。


「なんだ、男いるのか」

「行こうぜ」


奏さんを抜き去ろうとする。

そして……


────ドンッ


『きゃっ!』


俺が心配していた、避けたい事態に見事にたどり着いていた。

無理に抜き去ろうとした男性に突き飛ばされた形になり、奏さんは倒れた。


道の狭さは俺との距離を近づけてくれた。

そして皮肉にもその狭さがあだとなり、彼女を傷つけた。



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る