第21話 俺が勇気を出す番だろ
美術館を出て、今は本屋に向かっている。
普通のカップルと変わらないデートだ。
2度と会わないで欲しいと頼んできた音無さんに見せてやりたいくらいだったり。
……まぁ、2度と会わないで欲しいと頼んだはずですよ?とか言われそうだけど。
音無さんに話しているのだろうか?
親に反対されてると、その、なんだ…。
この先、関係が進展するのに最大級の障害になるじゃないか。
…障害か。
彼女は難聴を抱えてる。それは後天性だから戸惑いもあったはずだ。今まで聞こえていた時とは違う不便さや不安もあったろう。
だから、俺が支えればいい。
「奏さん」
『何ですか?』
振り返った奏さんは、見た目からは障害を抱えてるなんてわからなくて。
それが少し悲しく思えたりして。
「…あ~、えっと」
情けないことに言葉に詰まってみたりして。
『父から聞いたんですよね?私のこと』
そこに全てが含まれている気がした。
後天性感音難聴という障害になってから。
それからの苦悩や葛藤。
理不尽な世間の在りかた。
この先に待つ未来。
もしかしたら、そこまでの意味なんかなかったかもしれない。でもそう思えたんだ。
『……驚いたでしょ?』
「正直言うと、ね」
『なら、どうして今日……』
そこで奏さんも言葉に詰まる。
だから俺も聞こえない振りをして
「あ、奏さん。ここの本屋」
『……わぁ、大きな本屋ですね』
言いたくないことを言わなくていい。
勇気を出すのは俺の番だから。
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