第20話 調べたんだ俺なりに

映画は字幕派。

あの時はシンプルにそれを正面から受け取っていた。でも彼女の感音難聴について調べるうちに、それは彼女なりの映画のなんだと気づいた。


音楽フェスなんかに誘わなくて良かったと思ったが、そもそも俺も苦手だ(苦笑)


でも美術館なら会話自体が不要で、静かで、観に行きたいと言っていたことがあるから最適なはずだ。


───彼女は絵画に夢中だ。

チラッと歩いた拍子に耳には少しだけ大きなイヤホンのような物が見える。

あれが、補聴器だなんて初見じゃわからないだろう。…彼女の長い髪がを隠しているのは障害を隠したいからなのかもしれない。


ふと、目が合う。

咄嗟に気恥ずかしくて視線を絵画に逃がす。

美術館の絵画を逃げ場にするなんて、バチが当たるなぁ。


『すみません』


急な男性の声に振り返るとそこには警備員が居た。俺に…というよりは奏さんに声をかけている感じだ。


『館内は音漏れ防止のためにイヤホンやヘッドホンの使用はご遠慮下さい』


音楽なんて聞いてない…が、すぐにハッとなって奏さんを見る。

奏さんは周りの視線が集まっていることで慌てているようで返答できずにいる。

いや、警備員の声が小さいせいもあり聞こえていない。


「違うんです」


代わりに答えている自分が居た。


「彼女のこれはイヤホンじゃありません」


そして調成果を奏さんへ披露する。それを見た警備員が今度はハッとなり、


『…失礼しました。申し訳ございません』


と、バツが悪そうに巡回へと戻る。

振り返ると奏さんが俺に身ぶり手振り…ではなく、で返答してきた。


『手話…どうしたんですか?』

「ちょっとだけ勉強したんだ」

『びっくりしました』


音無さんに言われてから、俺は少しずつ手話を勉強していた。良かった伝わって。

改めてそれが自信になる。

俺は奏さんと二人で進んでいける、と。








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