第10話 封筒
相変わらず彼女は本が好きなようで、サイトを覗けば新しく読んだ本の感想やサイト閲覧者との意見や論議を展開していた。
相変わらず俺は原稿用紙と編集者と戦う毎日で、今日はいつもの喫茶店へ。
───チリンチリン。
いつもの音色をくぐって店内へ。
会計中の男性が居たが、いつもの席は…空いている。
空いているが…飲み終えたコーヒーカップが置かれていた。会計していた人だろうなと思っていると
『すぐ片付けますね』
「ありがとうございます」
マスターが会計を終えて片付ける。
さて、頑張りますか!と自分を鼓舞しつつ、コーヒーを飲みつつ、筆を走らせた。
程よく時間が経ち、トイレにと席を立った時
「……ん?」
俺の向かい側の席に、封筒を見つけた。
テーブルで隠れてしまうから座っていた俺は気付かないまま執筆していたのだろう。
封筒には何も書かれていなかった。
会計していた男性のものだろうか?
はたまたそれより前からの忘れ物?
マスターに届けると
『一緒に中身の確認をして貰えますか?』
「なぜ?」
『誰のものか、中身が何かわからない』
「はぁ」
『拾い主には中身を知る権利がある』
「……わかりました」
札束だったりしたら、警察に届けなきゃならんし権利が発生するもんな…。
なんて、都合のいい俺の中の俺。
───中身を知らなきゃ良かった。
俺がこの先そう思うことは、
今の俺は知らない。
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