第8話 本は人を選ばず

いつもの喫茶店、いつものコーヒー。

そして、いつもの1番奥の角の席。


最高にリラックスできている。


……そう、


目の前には、うつむいてコーヒーを混ぜながら緊張しているようで喋らない女性。

長い綺麗な黒髪で、少しだけ見えた限りでは綺麗よりは可愛いという印象を受けた。


おかしい。なんだこの状況は!?


俺はただ、本の趣味や感想が似ていて、俺の本まで読んでくれるような人と談義して楽しみたかっただけだ。

本は、読んでもらう人を選べない。

人が、読む本を選ぶんだ。

無数にある本の中から俺の本も選んでくれた人と話したかったんだ…。


コーヒーを口にすると、いつもと変わらない味に、少しだけ冷静になる。


…俺の本を選んでくれたのが、男性じゃなくて女性だっただけか?

僕の声っていうサイト名で勝手に男性だと決めていただけと言えば、何も言い返せない。


『…この間は、すいませんでした』


先手をとられて、しかも謝罪。

これはカッコ悪いな俺。


「全然気にしないで下さい!会って話してみたいだなんて、迷惑だったんじゃないかと思ってたくらいだし」

『迷惑だなんて、そんな!私も好きな本が似てる人と話せるの嬉しいです』


──あ、この人…間違いなくいい人だ。


「俺もあんなに自分の本の感想をしっかり聞いたことなんかなかった」

『……自分の本?』

「……あれ?」


記憶をフルに逆戻りする。

あ、作家だって言ったことなかったや(笑)

俺ったら、うっかりさん(テヘペロ)


『え?え!?本当ですか!?』


そしてまさかの反応。

今までこの喫茶店で聞いてきた中でも1番大きな声。本当に喜んでくれているようで、表情はパっと華やいだ。


そこからは言わずもがなで、たっぷりと好きな本、その感想や意見を話した。


そして、


今までで、1番コーヒーをおかわりした。







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