第97話 妙だな
「とにかく……俺、こんな感じだからさ」
二言三言、ドギツイことを早見先輩に言われてから……国平先輩はこちらを向いて、申し訳なさそうに苦笑した。
「確かに、見た目に騙された、とはよく言われるんだよね。こんな変な人だとは思わなかった――て。相葉ちゃん、見る目あるよ」
自虐――とは思えない爽やかな笑顔でそう言って、国平先輩は「だからさ」とひらりと手を振った。
「この話は無し、てことで。ナガサックも。歩くマッチングアプリじゃないんだから、こういうのはやめなよ」
歩くマッチングアプリ……すごい嫌だ。
でも、そうだな。実際、俺がやったことってそういうことか。かあっと顔が熱くなった。
「すみません」
花音も――と謝ろうと振り返ると、
「そう……だよね」とじっと国平先輩を見つめ、花音は張り詰めた表情でつぶやいた。「私も……同じことしちゃったんだ。国平先輩がイケメンだからって……そんな理由で、きっとロクデモナイ人だろう、て勝手に決め付けちゃって……。それって、同じですよね。私のこと『可愛いだけじゃん』て言ってバカにしてきた奴らと……」
ふっと呆れたような笑みを浮かべて、花音は俺のほうをちらりと見た。
「私も、外見しか見てなかったんだ。――だからこそ、分からなくて……気になっちゃったんだもんね。瀬良さんが好きだっていう『噂の彼』の魅力」
あ――と、思い出したのは、あの日の教室。屋上で、不名誉な噂から瀬良さんを守る、と誓ったあと……花音はいきなり、俺の前に現れて『君の魅力を知りたいの』と言ったんだ。
「なるほど。瀬良さんと相葉さんが永作の取り合いをしている、なんて荒唐無稽な噂も流れていたけど……そういうことね。話が読めてきたわ」
「荒唐無稽って……」
その通りだけども。歯に衣着せないなぁ……と、もはや尊敬の眼差しで早見先輩を見つめてしまった。
「それで?」と早見先輩はたれ目をうっすらと薄め、試すような視線を花音に向けた。「分かったの? 永作の魅力は?」
いや……ちょ……本人を前にして!? しかも、モールの通路、人混みのど真ん中でする会話!?
あたふたとする俺をよそに、花音はへへっと白い歯を見せて笑って答えた。
「瀬良さんに一途なところ……かな」
「妙だな」
「妙!?」と、俺と花音の声が重なった。
余韻もへったくれもない!
てっきり、こうして水を差すことを言うとすれば、早見先輩かと思ったのだが……意外にも、それは津賀先輩の声だった。
キラリとメガネを光らせ、特命でも受けていそうな刑事のごとく、津賀先輩はきりっと凛々しい顔で腕を組んでいた。
「瀬良が好きな『噂の彼』の魅力が、『瀬良に一途なところ』。それだと成り立たないだろう。まるで鶏が先か、卵が先か……だ」
「は……?」
俺も花音も……そして、国平先輩も眉根を寄せていた。なにやら、思わせぶりなことを言っているが……それの何が妙なのか。
しかし、それ以上、津賀先輩は語るでもなく、
「とりあえず、早見。ケツカッチンだ」
ケツカッチン? いきなり、何だ?
「ああ、そうね」腕時計をちらりと確認してから、早見先輩は国平先輩に一瞥をくれる。「国平、そろそろ戻るわよ」
「本当にまた観るの!?」
「当然だ」と津賀先輩が鼻息荒く言う。「次は3Dだ。メガネオンメガネだ」
「ビデオオンデマンドみたいに言わないでよ!」
なにやら、国平先輩が不満を垂れているが……。
また観る……3D……? もしかして――と先輩たちに訊ねようとしたときだった。
「もしかして……銀河大戦争シリーズの新作ですか?」
隣から、花音がさらりと流れるような口調でそう訊ねた。
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