第37話 やっぱ……そう思います!?
「ずっと待ってたのに。全然返事くれないじゃん! 既読スルーとかひどいよ」
「き……既読スルー?」
なんのことだ?
ぽかんとしていると、カツカツとローファーの音を響かせながら、相葉さんはこちらへ歩み寄ってきた。そのスタイルの良さに、堂々とした歩き方といい、スポットライトのごとくいい具合に夕焼けが差し込んできて、さながらモデルウォークを見ているよう。
「聞いてるの!?」と段差のとこまで来てぴたりと止まった相葉さんが、ムッとした表情で睨みつけてくる。ぷうっと膨らました頬は、幼い顔立ちによく似合って様になっちゃってる。「乙女心を弄ぶなんて。そんな人だとは思わなかったよ」
その瞬間、脳天まで電流が突き抜けたような衝撃が全身を走った。
もう一ヶ月も前なのに、耳にはっきりと残っている。そんな人だとは思わなかった――そう言う瀬良さんの切なげな声。
思わず、ちらりと瀬良さんを見てしまった。はたりと目があった瀬良さんは、やはり気まずそうに視線をそらす。
なんなんだ!? なんで、こんなに避けられちゃってるんだ? あの日、俺はいったい何をしたんだ?
堂々巡りのように頭の中をぐるぐると渦巻く疑問に、もう目が回りそうだ。
「じゃあ……私はお邪魔みたいだし、帰るね」
顔を伏せるようにして、ふいっと瀬良さんは身を翻して下駄箱のようへと向かう。
って、何も話できてない!
「あ、瀬良さん、ちょっと――」
「ちょっと待って!」まるで、俺の言葉を盗み取るように、相葉さんがすかさず瀬良さんを呼び止めた。「瀬良さんだよね? 私、相葉花音。話したことなかったけど、何回か体育のときとかで会ったことあるよね」
「う……うん。私も相葉さんのことは知ってるよ」
相葉さん、相変わらず、ぐいぐい行くな。瀬良さんもあきらかに戸惑っている。
「ずっと、話したかったんだぁ」と、瞳を爛々とさせ、あたり一面に花でも咲かせそうなほど、ぱあっと明るい表情で相葉さんは瀬良さんに詰め寄った。「よかったら、お茶でもしない? 今から!」
「今から!?」
「忙しい?」
「忙しくは……ないけど」
「じゃ、行こ行こ! 聞きたいこと、たくさんあるの」
あれ。この感じ、懐かしいな。屋上で、瀬良さんと万里がわいわいやっていたときを思い出す。俺、また蚊帳の外だ。
相葉さん、俺に何か怒ってたんじゃなかったっけ? 一言物申す、的な雰囲気で向かってきたような気がするんだけど。もしかして、冗談だったとか? 相葉さん的な絡み方?
「ね。決まり! ちょうどよかった〜。じゃ、三人でドーナツでも食べに行こ」
「三人で!?」
ぎょっとして、示し合わせたかのように俺と瀬良さんの声がピタリと重なった。しかし……単純に驚いた俺とは違い、瀬良さんの声からは明らかに拒絶の色がうかがえた。すごい、嫌そうなんですが……。
「だって、圭にも聞きたいことあるし」ちろりとこちらに視線をくれる相葉さんの目は、じとっといかにも不機嫌そうで、怒っていたのは冗談ではなかったことだけはよく分かった。「三人で遊びに行ったらちょうどいいじゃん?」
「ちょうどいいって……」
いや、確かに……相葉さんは、俺と瀬良さんの今のこの気まずい感じを知らないから仕方ないのだとは思うんだが……。
おそるおそる瀬良さんの反応を伺うと――、
「ごめん、相葉さん。私、やっぱり今日はやめとくね。二人で……楽しんで」
やっぱり!?
さっきまで、相葉さんの誘いにまんざらでもない様子だったのに、急に表情を強張らせ、瀬良さんは逃げるようにその場を去ってしまった。
さすがに、その態度の豹変に相葉さんもあっけにとられたようで、靴を履き替え、昇降口を足早に出て行く瀬良さんの背中を、相葉さんは呆然として見送った。
「なに、あれ?」
再び静まりかえった昇降口に、相葉さんの気の抜けた声がぽつりと響く。
「圭さ……もしかして、嫌われてない?」
無垢な少女のようにきょとんと不思議そうに俺を見つめ、相葉さんは容赦なく客観的事実を俺の心にグサリと槍の如く突きつけてきた。
こうなってしまったら、隠すようなものも取り繕うべきことも何もない。
「やっぱ……そう思います!?」
俺はもうすがるように、そう相葉さんに問いかけていた。
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