第13話 え、なに言ってんの?
「じゃあ、何してたんだよ?」
決して、瀬良さんに遠くから手を振ろうなんておこがましいことをする気など毛頭ない。俺はそんな勘違い野郎ではない。
しかし。
じゃあ、何してたんだ、と聞かれれば……。
俺は気まずくなって、身を縮めた。こういうとき、持て余した無駄に高い背丈が恥ずかしい。
「瀬良さんに……こっそり、連絡先を書いた紙を渡そうとしてました」
「え、なに言ってんの?」
そうだよね。そうなるよねー。
真顔で怖いほど真っ直ぐに見つめてくる森宮の視線から逃げるように、俺は目を側めた。
「瀬良さんから連絡先、聞かれたわけ?」
「いや、聞かれてはいないんだけども……」
「聞かれてもいないのに、いきなり連絡先を書いた紙を渡そうとしてたの? しかも、こっそり? なんで? 気持ち悪くない?」
「気持ち悪いよ! でも、そうしないと、瀬良さんが心配するらしいんだよ。俺もさっぱり分からないんだよ!」
「落ち着け。とりあえず、早まるな。若気の至りにしてもアホすぎる。なぜ、そんな恐ろしいことをしようと思ったんだ?」
心底心配した表情を浮かべ、森宮は若干背伸びをして、俺の肩に手を置いた。
友達というのは、いいものだ。じーんと胸が熱くなるのを感じた。
二年になり、瀬良さんが編入してきて、それからすぐに悪ふざけのような噂が立ち、俺は瞬く間に『セラちゃんの想い人(笑)』として有名になり、クラスで思いっきり浮いた。おかげで、未だにクラスに森宮のように腹を割って相談できるような友人はいない。隣で何かというと絡んでくる幼馴染はいるが。
そういえば、今回のことも、事の発端はあいつだったな……。
「実は、万里が……」
とりあえず、一呼吸置いて自分を落ち着かせてから、そう切り出した瞬間だった。
「やっぱ、万里か」
早くね!?
まだ何も説明していないのに、森宮は「ああ、そういうことね」と何やら納得した様子で鼻で笑った。
「お前、からかわれたんだな」
「か……からかわれたのか!」
「ああ、そうに決まってるじゃねぇか!」と、森宮はくわっと目を見開いて、鼻息荒く力説を始めた。「万里なんて、いつもお前にちょっかい出して遊んでんじゃん。一年のとき、『圭と一緒にいると面白いんだ』ってクラスの女子とニヤニヤしながら話してるの聞いたことあるぞ」
「ニヤニヤとそんなことを……!?」
万里め。失礼な。
「冷静に考えてみろ。瀬良さんはいらんだろ。お前の連絡先なんて」
「だよな」と俺は深々と頷いた。「やっぱ、迷惑だよな」
「逆に心配するわ。なんで、あの人、急に連絡先渡してきたの? て」
もっともだ。ああ、よかった。このタイミングで、森宮に話せて助かった。とんでもない過ちを犯すところだった。
俺はジャージのズボンのポケットに手を突っ込んで、そこに折りたたんでおいた紙をぐしゃっと握り潰した。
「あ、連絡先といえばよ。永作、お前、また変な噂たってんぞ」
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