余所の子を叱れる大人というのを

美智果が六年生になった今、モモカちゃんは中学二年になってるはずだった。でも、今ではマンションの敷地内で遊んだりはしない。それどころか、小さい子が遊んでたりすると、時々、ゾッとするような冷たい目で睨み付けてることもある。それこそ、害虫か何かを見るような目で。


モモカちゃんの弟のマサトくんは、今でもすごく大人しい子だ。たぶん真面目なんだと思う。少なくとも、大人の目があるところでは。そうじゃないところでのことを見てないから何とも言えないけど、正直言って僕は不安も感じてる。何を考えてるか分からない子っていう印象もあるから。


今では二人とも、美智果とは遊ばない。と言うか、他の子と遊んでるところを見かけなくなった。モモカちゃんもマサトくんも一人で行動してることが多いみたいだ。もちろんそれは僕がたまに見かける時はいつもそうだっていうだけで、僕の知らないところではどうか分からないけどさ。


一方、モモカちゃんとマサトくんのお祖父ちゃんは、相変わらず余所の子相手でも怒鳴ってる。マンションの玄関ロビー近くで煙草を吸いながら。ロビー付近は禁煙ってことになってるハズなんだけどね。


だから、美智果もその人のことは苦手にしてる。美智果が外で遊ばなくなったのも、なるべく顔を合わさないようにする為というのも理由の一つだった。


余所の子を叱れる大人というのを持て囃す人がいるけど、<叱れる>のと<ただ怒鳴ってるだけ>というのとは全く違うと思う。ましてや自分ではルールを守らないのに子供達にはルールを守れと怒鳴るような人の言うことなんてどうして聞きたいと思えるんだ。


たぶんその所為なんだろうな。同じマンションの住人らしい人達と一緒にエレベーターに乗った時なんかには、モモカちゃんとマサトくんのお祖父ちゃんに対する陰口が耳に入ってくることもあった。それどころか、目つきが悪くなってるっていうモモカちゃんについては、


『いつか事件を起こすんじゃないかって心配』


『ほんとほんと。だから子供だけで外で遊ばせるのが怖いのよね』


みたいな言われ方もしてた。


その不安は確かに僕も感じてる。危ない目をしてると感じることもある。だけど、だからってこういう風にみんなで集まって陰口を叩くのも違うって気もする。


僕はモモカちゃんの家族でも親戚でもないから口出しはできない。したところで信用もされてない僕の話とか聞いてくれるハズがないのも分かってる。


僕は、他人の子を叱ったりしない。


だって、僕はその子のことをよく知らないんだから。よく知りもせずに頭ごなしに叱っても意味がないと思ってるから。


大人の見てる前でだけ良い子のふりをする子供には、それは通用しないと思うから。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る