反省とかしないのは分かってたから

三年生になっても、美智果は楽しく学校に通ってくれてた。この頃にはまだ、同じマンションの子達とも、『同じマンションだから』というだけの理由で遊んでたと思う。


その中に、モモカちゃんっていう子がいた。


モモカちゃんは美智果より二学年上で、美智果より一学年下のマサトくんっていう弟さんのいる子だった。


彼女はお祖父ちゃんお祖母ちゃんと一緒に住んでるらしかった。一応、お父さんやお母さんも一緒には住んでるらしかったけど、滅多に姿は見かけない。子供達のことはお祖父ちゃんお祖母ちゃんに任せっきりらしかった。


お祖父ちゃんやお祖母ちゃんが子供の面倒を見るっていうのは別にいいと僕も思うんだ。昔はきっとそういうことも多かっただろうから。


ただ、それはあくまでちゃんと見てくれてる場合ならっていう注釈付きになると思うけど。


モモカちゃんのお祖父ちゃんは、いわゆる昔気質の<頑固爺>って言われる感じだったと思う。自分の孫でも他所の子でも叱れるタイプだったんだろうな。マンションの敷地内で子供達が遊んでるとよく怒鳴ってる声が聞こえてきた。


でもその怒鳴り方に、僕は以前から違和感を感じてた。そう、あれは『叱ってる』んじゃない。単に『怒鳴ってる』だけなんだ。明らかに自分の思い通りにならないことに苛立って。


「大声を出すな!」


「敷地内を走るな!」


「挨拶をしろ!」


「言葉遣いをちゃんとしろ!」


言ってること自体は間違ってるとは思わない。でも、大声を出してるのはその人もそうだし、禁煙の看板のすぐ前で煙草を吸って灰を落とすし、挨拶しても相手によっては無視するし、『この糞!』とか『死ね』とか言葉遣いはお世辞にもちゃんとしてるとは言えないし。


そう、言ってる本人が言ってることを守ってないタイプだったんだ。


モモカちゃんとマサトくんは、そんなお祖父ちゃんによく怒られてた。だからか、この頃の二人はいつも上目がちで大人の顔色を窺って大人しい感じだったとは思う。


だけど僕は知ってる。モモカちゃんがマサトくんや小さな子をイジメてることを。特に、人目に付きにくいところでマサトくんのことをよく叩いてたのを。


この頃の美智果は割と外で他の子と遊ぶこともあって、それを見守る為に、ノートPCを持ち出して美智果の姿が見える辺りで座って仕事をしてたことがあったから、時々見かけたんだ。


お祖父ちゃんお祖母ちゃんの前では大人しくしてるモモカちゃんが、自分より弱い相手には横暴な態度をとるのをね。


ここで僕がモモカちゃんのことを注意するべきだと言う人は多いと思う。でもモモカちゃんが大人を信頼してないことも察してたから、敢えて何も言わなかった。


言っても、反省とかしないのは分かってたから……


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る