人形だということはちゃんと分かってる
美智果は、ドールを一目見て気に入ったようだった。しかも、すぐにそのドールをママに見立てて話し掛けるようになった
「ママ、今日がっこうでね、けんばんハーモニカふいたんだよ!」
って感じで。ママがいつも座ってた場所に置いたからっていうのもあるかも知れない。だからそう見立てやすかったっていうのもあるんだろうな。
それを気持ち悪いとか感じる人もいるかもだけど、僕は気にしない。美智果がおかしくなった訳じゃないのは見てれば分かる。この子は、自分が話しかけてるのが人形だということはちゃんと分かってる。分かった上でそうしてるんだ。
学校から帰ってきたらまず宿題をする。宿題が終わるまで一緒にいる。美智果の話を聞きながら楽しく勉強する。そうすると勉強に対する苦手意識が育ちにくいと妻が言ってた。僕も協力できることはする
その一方で、できないことで無理はしない。僕には料理のセンスがない。作るだけなら作れても、はっきり言って『食べられなくはない』レベルだから、惣菜とか冷凍食品の方がよっぽど美味しく食べられる
スーパーの惣菜や冷凍食品には添加物がとか細かいことを言う人もいるけど、僕は気にしない。元々あれこれ考えすぎる傾向のある僕がそこまで拘りだすとそれ自体がストレスになって逆に体に悪いと思う。完全な自然の食品にだってある程度は有害なものだって含まれてる筈なんだ。何でも過ぎれば毒になる。水だって飲みすぎれば水中毒で死ぬことだってある。酸素だって本来は毒だ。
生き物の体は、多少の毒や有害なものが体に入ったってそれを代謝によって排出することができる。それができないレベルで取り込まなければいいだけの筈だ。放射性物質を気にしすぎても意味がないのと同じだと思う。それよりは暴飲暴食の方がよっぽど体には毒なんじゃないかな。
僕と美智果は、食事以外では健康的な生活をしてると思う。ストレスを溜め込まない。夜は早く眠る。毎日笑顔で過ごす。そうやって代謝を活発にして取り込んだ毒や有害なものをどんどん排出する。それでいいんじゃないかな。
実際、僕はすごく体調が良くなった。妻の手料理を食べてたけど、美智果を寝かしつけた後に妻と一緒にゲームして夜更かしして寝不足になってた頃よりはよっぽど。結局、そういうことなんだろうって思うんだ。
妻が亡くなったことでそういうことに気付かされた。こういう点でも皮肉だな。妻が生きてた頃よりは食事の量も減った。でも僕の体質にはその方が合ってるみたいだ。
何が幸いするのかなんて、そうなってみないと分からないんだろうな。
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