第56話 実験室

掛け軸の裏から出現した階段を下り、四人は地下の実験室へ向かう。

初めは暗かったが、地下室に近づくにつれ薄暗い明りが見えて来た。

辿り着いた先には扉があり、扉の両脇には明りが灯されている。

菜々の父親がポケットから鍵を取り出し、扉を開ける。

扉が開くとその先にはパソコンや手術台など様々な器具が並べられていた。

そして何より、掛け軸の裏から入れるとはとても思えないほどこの地下室は広い。

シロとマキが辺りを見回している間に菜々の父親がマキの資料を持ってきた。


「さて、あの子の体についてだが前にうちで実験をしていた時は体調の異常も無く、身体、精神も何も問題がなかった。そこはお前も知っているだろう。だが、今回奴らが完成させた機械にかけられていたせいで何か体の中で異常が発生したのだろう」

「まぁ、私もそんな感じの考え方なんだけど、元に戻る?」

「どうだろうな、一回分析にかけて見ないと何も分からないからな」

「じゃあ今からしちゃおっか」


そう言うと、菜々はマキとシロの元へ足早に向かって行った。

実験室のいろんな備品を見て回っては二人で話している事を繰り返していたマキ達の元へ菜々が歩いてきた。

シロも以前のような警戒はなく、菜々と向き合っていた。


「ねぇマキちゃん、ここで身体測定やって行かない?」

「えぇ!?」


その言葉を聞いた瞬間、シロが菜々の事を引っ張りながら部屋の奥の方へ連れて行った。


「菜々、一体何をやろうとしているの?」

「今からマキちゃんの身体の状態とか精神状態を調べて見て何処かに異常が無いか確認したくて」

「あぁ、なるほどね・・・」

「それができれば今回の原因もわかるかもしれないし」

「でも、あなたの父親がいるのよ?その前でなんて・・・」

「あぁ、お父さんならもういないよ」

「え!?」


シロが菜々の体の隙間からこっそり顔を出すと、確かにさっきまでそこにいたはずの菜々の父親がいなくなっていた。

扉の開く音さえ何も聞こえなかった。


「これなら心配ないでしょ?」

「え、えぇ・・・」


シロはずっと菜々の父親の部屋の移動方法を考えながら菜々と共に歩き出した。

一人で待たされていたマキは若干怒り気味だった。


「なんか最近二人だけで・・・ずるい」

「あはは。ごめんねマキちゃん」

「つーん。私はどうでもいいんですね」

「あぁん。そんな事ないわよ!マキちゃんも大切よ!!」

「え、えへへ。そうですかね?」

「それよりも、さっき言った通り身体測定するからね」

「は、はい!」

「と言っても、やるのはレントゲンだけなんだけどね」


そう言うと、菜々はマキを近くにあるレントゲンの機械まで案内した。

大きさは人がちょうど一人入るくらいの棺桶のような箱だった。


「これが、レントゲンの機械・・・?」

「うちの特製品よ。そのまま入ってもらえればバッチリ写真が撮れるわ。さ、入って入って」

「わ、わかりました」


多少ビクビクしながらも、マキは棺桶の中に入っていった。

それを確認すると、菜々が蓋を閉じ撮影を開始した。

1分後、マキの体が映されたダミーのレントゲン写真が印刷されると、そのすぐ後にマキの身体情報の紙も印刷された。

棺桶の蓋を開け、マキに棺桶から出てきてもらった。


「ど、どうだった?」

「うん、異常はなしだね。バッチリ健康だったよ!」

「よ、よかったぁ・・・」


マキがほっと胸をなでおろしてる間にシロが菜々の元へ行き、菜々の元へ向かって行った。


「あっちの方はどうだったの?」

「うん、今完全に分離しちゃってるみたい」

「やっぱりそうなのね」

「しかもこれ厄介なのよね」

「どう言う事?」

「今片方を取り除こうとすると、そっちの記憶は完全に消えることになるわ」

「え・・・?」

「だから、今マキちゃんの精神を一つにしようとすると、昔からあなたと居た記憶すらも消えてしまうかもしれないのよ」

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