第9話 風邪、そして過去の相手

次の日、珍しくシロは体調を崩していた。

昔から一切病気にかからなかったのでマキも戸惑いを隠せなかった。


「だ、大丈夫!?」

「大丈夫だから・・・」

「で、でも!」

「ただの風邪じゃない・・・」

「そうは言ってもあなたずっと風になったことなかったじゃない。だから余計に心配なのよ!」

「でも、マキちゃんだって仕事が・・・」

「ま、まだ行かなくても大丈夫だから!!」


マキは仕事に行くギリギリまで看病していたが、仕事先に迷惑をかけるわけにもいかないので、薬や水など必要なものだけをシロの近くに置いて駆け足で仕事先に向かって行った。出る時もずっとシロを心配していた。

マキが仕事に向かってから数分後、家のチャイムが鳴った。

チャイムの音で目が覚めたシロは玄関に向かおうとしたが、動こうにも体が言うことを聞かずうまく歩くことさえできなかった。

すると、家の鍵が開く音が聞こえた。この時、シロは安堵していた。なぜなら、この家の鍵を持っているのはシロとマキの二人だけなのだからと。

しかし、実際に現れたのはマキではなく、昨日訪ねて来た菜々だった。

菜々を見た瞬間、シロの表情が一気に怒りへと変わっていた。


「あら、本当に風邪ひいちゃったのね」

「どうしてお前がここに入ってこれたの・・・」

「どうしてって、マキちゃんから合鍵を貰ったのよ」

「あ、合鍵・・・?」

「そうよ、あなたが風邪ひいたから仕事から戻るまで看病して欲しいって」

「看病なんていらないからさっさと帰ってくれない?」

「いやよ、だってマキちゃんの頼みよ?あなたが相手でも仕事はこなすわよ。ね、エリ?」

「・・・!え、エリ?誰の事かしら?」

「なにとぼけてるのよ、あなたのことでしょう?」

「私にはシロって言う名前が」

「架空の名前じゃない。周りは騙せても私は騙せないわよ」

「なにが目的なの」

「目的なんて前から変わってないわ。あなたから私のマキちゃんを取り戻す。それだけよ」

「そんなことさせるわけ・・・」

「その威勢がいつまで続くかしらね」


会話を終えると菜々はキッチンへ向って行った。

その間もシロは菜々から目を離さず、ずっと見続けていた。

キッチンの確認を終えると、菜々は部屋を移動しようとしていた。その先の部屋がマキの部屋と分かるとシロは重い体を起こしながら菜々の後ろを着いて行った。

そこで何か物を漁ろうとしていた菜々の手をシロは渾身の力を振り絞り、止めようとした。

しかし、シロの手は簡単に振りほどかれてしまった。そしてそのままシロは意識を失ってしまった。

数時間後、シロが目を覚ますとベットの前で菜々が座っていた。


「あなた、さっきなにしようとしてたのよ・・・」

「別になんでもないわよ」

「そんなわけはない・・・!きっと何かしたはずよ!!」

「はぁ、そんな事言ってないでとりあえずこれでも食べなさい」

「どうしてあなたから貰わないといけないのよ・・・」

「仕方ないじゃない、頼まれているんだもの」

「なにもしてないでしょうね?」

「してないわよ、これマキちゃんが作り置きしてたやつだもの」

「まぁ、それなら食べるけど」

「私が食べさせてあげましょうか?」

「絶対いやよ!!」

「可愛げがないわねぇ」

「そんなのいらないわよ」

「それじゃ、これで私の仕事は終わりだし帰るわね」

「二度と来なくていいわよ」

「近いうちにまた来るわ」


そう言い残して菜々は帰って行った。その数分後、マキが帰って来た。マキは帰って来るなりシロの元へ走って行った。

そしてシロの体温を測り始めた。ピピピッという音が聞こえたので確認すると、体温は平熱に戻っていた。

マキは近くに置いていた道具などを片付け始めた。その時鼻歌なども聞こえて来た。

・・・何かやけにいつもより上機嫌な気もするんだけど何かあったのかな


「ねぇ、マキちゃん。今日、何かあったの?」

「え、別になにもないけど・・・」

「そう・・・」

「あ、菜々さんに後でお礼言いに行かないと」

「ねぇ、どうしてあの人が家に来たわけ?」

「なんでって、私が見れない間に悪化したら困るでしょ?だからその時対処してくれるようにと思って」

「でも、もう大丈夫だから」

「うん、わかってるって。あ、桃食べる?」

「食べる・・・」

「じゃ、今持って来るね〜」


あの雰囲気、何もなかったなんてことは絶対にない。

マキちゃんは何かを私に隠してる・・・今までそんなことなかったのに

これは調査が必要になりそうね。

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