第8話 隣人からのおすそ分け

マキがシロと同棲を始めてから一ヶ月が過ぎたある日のこと。

シロが宿題を終え、マキと一緒にテレビゲームで遊んでいる時、突然チャイムが鳴った。

マキは一旦コントローラーを置き、玄関へ向かって行った。

玄関のドアを開けると、そこには前に軽く挨拶を交わしていたお隣さんが立っていた。


「どうも、こんにちはー」

「こんにちは。急に訪ねて来てしまってすみません」

「いえいえ、大丈夫ですよ。それで、どうかしましたか?」

「先程、実家からたくさん桃が送られて来まして。流石に私一人で食べきれないので、良かったらもらってくれませんか?」

「え、いいんですか!?」

「はい、腐るよりだったら食べてもらえた方が桃も嬉しいと思いますし」

「で、ではいただきますね」

「はい、この箱に10個ほど入っているのでどうかお早めに」

「本当にありがとうございます。今度お礼に行きますね」

「お礼なんてそんな、たいしたものではありませんから。気持ちだけ受け取っておきますね。それでは」

「あ、あの!お名前を聞いても・・・?」

「私ですか?私は菜々、乾 菜々です」

「菜々さん、ありがとうございます!」

「いえいえ〜」


そう言うと、菜々さんはにこやかに手を振りながら帰って行った。

菜々さんからもらった桃入りの箱をリビングまで持って行き、早速桃を二つ取り出してキッチンへ向かった。

軽く水で洗って、皮をとって食べやすい大きさに切って、お皿に盛り付けたら完成。

今回は簡単に切るだけで済ませたけど、せっかくいっぱい貰ったんだし、何か料理にでも使おうかな・・・

お皿にフォークを添えて、リビングまで持って行くと、シロが思いっきりこちらに駆け寄って来た。


「マキちゃん、この匂いはもしかして!!」

「そう、桃だよー」

「や、やったぁ!!!」


シロ、もといエリは小さい頃から桃が大好きだった。

桃の新商品が入るとすぐに買って来ては食べていた。

どうやらそれは今も健在らしく、今まで見た中で一番目がキラキラしている。


「本当に桃好きだよね、昔から」

「桃は美味しいからね〜。桃の美味しさは止まることを知らないんだよ!」

「あはは、本当に変わってないねー」

「それにしても、さっきのなんだったの?」

「あぁ、私が白と同棲する前に隣に部屋借りてたでしょ?その時のお隣さんがね、桃をたくさん貰ったから受け取って欲しいって」

「へぇ、そんな素敵な隣人がいたのねぇ・・・」

「そうなの、菜々さんって人なんだけど・・・シロ?」

シロはマキから菜々の名前を聞いた瞬間、手に持っていたフォークを落としていた。

その様子にマキも困惑していたが、シロはそんなこと御構い無しにこちらに近寄って来た。

「その人の名字も聞いた?」

「え、う、うん。乾さんって言ってたけど・・・それがどうかしたの?」

「・・・なんでもないよ。後、あした早いからもう寝るね」

「え、う、うん」


シロはゲーム機を放棄して、何かを言いながら自分の部屋に戻って行った。

マキもあまりの出来事にしばらく動けず、シロの声も全く聞こえていなかった。

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