第23話 ハンターギルド
いやぁ、めっちゃ美味かったぁ。どうして本物の料理人が作る料理ってあんなに美味いんだろう。
地球でいた時も散々思ってたけど、外食って美味しいよなぁ。何なんだろうな、あれ。
ちっくしょぉ。俺にも料理人スキルはあるはずなのに!
まだ熟練度が全然足りてないってことくらい分かってますけども!
でも悔しい……世界最強の夢がなければ俺は料理人になってたかもしれん!
という事で昼食を終えて、俺達は一番近い街の中央付近にあるハンターギルドへと向かっていた。
この街には4つの巨大建造物が存在してる。一つ目はアンバルレード到着と同時に向かった討論会会場。
2つ目はさっきまでいたアンバルレード国立図書館。3つ目は街の端に建てられた総合闘技場。
そして最後が街の中央に位置する、政治や財政などの街の様々な事を行う役所であるアンバルレード中央塔。
そしてその塔の横に、この4つの建物とは比にならないが、他と比べればかなり大きな二階建ての建築物、ハンターギルドが佇んでいる。
店を出て20分、俺達はそのハンターギルド、アンバルレード中央支部の玄関にたどり着いた。
「若、登録したら何か依頼でも受けるんですか?」
「はい、少し街の外の様子が見たいなと思って。」
そんな話をしながらギルドのドアを開ける。
向かって右側の突き当たりにインフォメーション、その横にランク毎のクエストボードがある。まあ、左には壁とそれに沿って上へと続く階段。
そしてあとのスペースは複数人がけの机と椅子がズラっと並んでいて、階段下では酒場が営業準備中らしい。
実物ってこんなに広いんだ……って驚いたよ。
「ひ、広いですね……」
あ、やっぱりシュラナさんもそう思う?
「だよね。俺も驚いちゃったよ。」
しかし、どうやら今は人が出払ってるようでギルド内には、受付の人達や酒場の準備をしてる人達を除くとたったの8人しか見かけない。
それも皆若いし、かなりの軽装だ。
依頼を受けに来たって感じじゃなさそうだね。
「じゃ、登録に行ってきます!3人は待ってて!」
俺は一通り周囲を観察し終え、登録費だけを片手にインフォメーションへと向かった。
「すみません!ハンター登録お願いします!」
「「……ん?」」
男女2人の受付は困惑した様子を見せる。
ああ、またこのパターンか、と俺は察したよ。だが推して参る!ここで止まるわけにはいかんのだよ。
「ハンター登録、お願いします!」
「君が、かい?」
「年齢制限はないでしょ?」
「いや、ないけど、ハンターは危ない仕事なのよ?それに君、お金に困ってそうもないし。まだ早いんじゃないかな。」
丁寧に宥めてくれるところ悪いけど、俺にも今後の予定というものがある。ハンターにならないと、このアンバルレードの東の森に入る許可が取れないんだよね。
今回の目的はそう、この東の森。ハンターライセンスを所持している人間の同行があれば庇護者にライセンスは必要ない。
なので昔ハンターとして暴れてたって聞くじいちゃんやばあちゃんが同行すれば森自体には入れる。
しかし十中八九、2人でも深層には付いてこられない。つまり俺が単独で行くしかないって事だ。
どういうことか分からない、だって?
まぁ、そのうち分かるよ。
「お金は払うよ。」
「返すわ。」
「……どうしたらハンター登録してくれるの?別に高ランクじゃなくていいんだ、登録とライセンスさえ貰えれば。」
「……き、君、少し内情に詳しい見たいだけど、誰から聞いたの?」
そりゃ、俺みたいなチビが、ペラペラとこんなことを話したら顔も引き攣るか。
自分で言ってからようやく気づいた。俺もヤキが回ってるな…フッ。
「いいじゃんそんな事。どうせハンターになれば説明受けるんだから。
ね、いいでしょ?」
「……」
受付のお姉さんは隣の受付のお兄さんに目をやる。するとお兄さんはため息をついて、「分かった。」と。
「なら少年、こうしよう。実はハンター登録の時には任意でランク認定試験というものを受けられるんだ。それが週に2度あるんだけど、それが今日に当たる。
君がそれでハンターランク2相当だと、試験官に認められればハンターライセンスを発行しよう。」
お、そう来たか。
と言うかここは今日が認定試験の日だったのか、タイミング最高じゃん。
なるほどね、エントランスでいた8人は試験待ちだったのか。
因みにハンターランク認定試験って言うのは、個人の力量を測る試験。
登録時には1から始まるランクをこの試験で最大4まで上げられる。
「分かった、それでいいよ。」
俺はニッと笑う。
「でもありがとね。俺の事を思ってくれたんでしょ?」
「ま、まぁ、そりゃ死人が出るなんてよくあるこの仕事を君みたいな子供にさせたくはないの。あと、夢見も悪いし。」
「あぁ、でもそれを分かっても試験を受けるんだね。」
「うん、大丈夫。だって俺、そこそこ強いから。」
「「そ、そこそこ?」」
そんな感じで聞き返してきた2人の受付を放置して俺は踵を返した。
という事で3人の元へと戻る。
「あれ?若、早いですね。」
「もう登録は終わったんすか?」
「いいや。俺みたいな年端もいかない子供にはハンターライセンスは渡せないって。」
俺がそう言うとシュラナさんが「ふふ。そうですね、普通はそんな反応をしますよ。私が話をつけてきましょうか?」と助け舟を出してくれる。
「大丈夫だよ、この後ハンターランク認定試験があるみたいなんだ。そこでランク2以上の実力があると認められたら発行してくれるって。」
「「……若は交渉まで出来るのか。」」
「流石ですね。となるとあちらの方達も試験待ちですね。」
「多分ね。時間とかは聞いてないけど、こうして集まってるからきっとそう遠くない内に始まるとーーーー」
その時だった。
「14時になりました。ハンターランク認定試験を受験される方々は先導する私に着いてきてください。」
と、先の受付のお姉さんがギルド内にアナウンスする。拡声魔法を魔道具に組み込んでるのか、凄いな。これもゲームじゃなかった。
意外とこの世界、俺が思ってるより進んでいるのかも。
凄いなぁ、自然科学なしでこれだからね。
俺達は他の受験者同様、その受付の人の案内について行く。階段を上って廊下を歩いて角まで行き、部屋が並ぶ方面へ曲がらず石で出来た枠を潜る。
その先は人4人が横になって降りられる様な階段になっていて、受付のお姉さんについて降りていく。
その階段はかなり続いていて、その下った先には扉と、別の方向に上がる階段。
「試験を受ける方はこちらの扉から会場に入れます。それ以外の方はこちらの階段を上がった先の観客席にてお待ちください。
試験終了後は観客席にて見学してもらいます。全員が終わった時点で解散になりますので。」
当然だけど俺はここを知ってる。
ここは地下闘技場。広さもちゃんと確保してるし、強度も折り紙付き。普通に訓練するなら十分すぎる施設だ。
アンバルレードはゲームのメインストーリーにガッツリ関わる重要都市の一つ。イベントの度にこの都市内のハンターギルドは立ち寄ってたからな。
「それでは最初の方からどうぞ。他の方は私と一緒に上に来てください。」
今回受験するのは俺を含めて9人。
まずは、このうちの一人の女性が扉を開けて闘技場へと入った。
俺達は観客席で見物というわけです。
観客席の出入口はこの階段だけだ。
会場を囲むように観客席は建造されているにも関わらず。まぁ、かなり広いのに出入口が1つってのは相変わらず良くないよ。
この点だけはマイナスポイント。
俺達は席について、その試験の様子を見る。今は何か説明中らしい。
試験官は男性だ。
受付の人曰く、この人はハンター4らしく、今このギルドで仕事を受けてる人の中でかなり上位の実力だそうだ。
でも、確かに実力を判断するとなると、それくらいの実力差はいるよね。
「ん?」
最中、俺のSixth sense に人の気配が引っかかる。この場にいる人じゃない、また別の人の気配を察知した。
俺たちは無造作に座ってるけど、出入口からそれほど離れていない。が、その人は俺達の座ってる場所と真反対の観客席にいる、それは確かだ。
しかし如何せん目で捉えられない。こりゃ認識阻害かなんか使ってるな。
残念だけど今の俺じゃ目視はできそうにない。
ただ、認識阻害が使える人なんてそうそういないはずだ。魔道具で代替してる、もしくは認識阻害に似た別の何か、って線もある。
「ねぇ、受付のお姉さん。」
俺が呼ぶとその場の全員の視線が俺へと引き寄せられる。
これはこっそり聞くべきだったか。
「はい、なんですか?」
「あそこ、誰がいるんですか?」
俺は指さし受付のお姉さんに問う。一方で彼女は目をひん剥くほどの驚愕に晒されたらしい。
「もしギルドが把握してないなら、俺が見てきてもいいですよ?」
「いえいえ!!そんな必要はありませんから!」
慌てて静止する受付のお姉さん。
周りは、一体なんの話してんだ、みたいな視線を飛ばしてくるが、それはそれで置いておく。
「ふぅん。ま、いっか。もうすぐ始まりそうだし。」
新人ハンター、そしてランク4ハンターの実力がどの程度のものか気になるし。
「アルヴィス様、あちらに誰かいるのですか?私には見えませんが。」
俺が元の位置に戻るとシュラナさんから小さく声がかかる。そのシュラナさんの言葉に同意する形で他の2人も頷いていた。
「俺も目には見えないけど気配があるんだよ。きっと阻害系統の魔法で姿を消してるんだと思う。」
「……まじか、若ってそんなことまで出来るのかよ。」
「俺らって、護衛の意味無くね?」
お、おう…強く生きてください。
「ではこれから試験を始める!全力でかかってきなさい!」
2人の会話の最中、どうやら試験開始の合図が飛んだみたいだ。
さて、どれくらいの実力なのか。お手並み拝見といきますか。
「せぇやぁぁ!!」
新人女性ハンターが飛びかかる。
武器は槍を使用しているが……うん、なんで突っ込む?あれじゃ剣の間合いだ。リーチを生かす気ないのかな?
カンカン!
案の定、試験官の剣に、余裕を持って全て弾かれてる。
あの人がハンターランク4か、妥当だな。
「ほら!そんなものか?」
「はぁぁぁ!!!」
……なんだろこの気持ち。なんか見てるこっちが恥ずかしくなってきたんだけど。
俺もこの試験受けるんだよね?これが共感性羞恥ってやつ?
「はい、そこまで。」
「ハァハァハァハァ、ハァハァ。」
「その実力じゃランク2にはしてやれないな。1から始めて研鑽を積みなさい。」
「……は、はい。」
そうなるよねぇ、分かってたことだけどさ。
でも研鑽を積むと言ってもパーティとか組めるのか?友達とハンターになる、って人なら大丈夫だろうけど……
あ、なるほど。
それで、試験が終わっても全員が終わるまで帰らないように言われてるのか。
知り合いがいなかったり、実力が似てたりする人間同士が自発的にパーティを組める仕組みになってるんだ。
考えたね。これで死人も減ってるんだろうな。
「では次の人、準備をお願いします。」
受付の人の声で、今度は青年が立った。そして階段から降りて行き、その後さっきの女性が肩を落としつつ、入れ違いで上がってきた。
そうしてめぼしい成果もなく順番は進んでいく。これが後々、とある事件の引き金になるだなんて想像もつかなかった。
◇◇◇
とうとう俺の番が回ってきた。
今の今まで他の8人の戦闘を見てたけど正直大差ない。全員が終わった時点でハンターランク2になれたのは青年2人。
きっとあの試験官は、このランク認定試験の監督としてかなりのベテランなんだろう。
判断基準がしっかりしてた。
「じゃあ行ってくるね。」
俺はシュラナさん達にそう言って立ち上がる。
「頑張ってくださいアルヴィス様。」
「若、見せてもらいますよ。」
「俺も何かしらは学ばせてもらいます。」
「あ、そうだシュラナさん。これ、使わないから持っててくれる?」
俺は懐から短剣を取り出す。
この試験は素手でやるつもりだ。刃物なんて使ったら殺しちゃうよ。
「分かりました。程々に、ですよ。」
俺はシュラナさんに、「うん!」と応えて小走りで降りていく。後ろで苦笑してた2人のことは、まぁ、見なかったことにしよう。
◇◇◇
青年は階段を上る。
その間、一人の子供が意気揚々と降りて行くのとすれ違った。それに対して青年は、チッと舌打ちをする。
上りきった先で青年は悪態を着いた。
「なぁ、ライセンス発行してくれ、俺は今すぐ帰りたいんだ。」
それは決まりに則っていない主張。
全員が終わるまでは待たなければならない。
その場の全員が、その一言に不快感を抱いた。
「失礼ですがそれは規定に反するので出来ません。」
「はぁ?知ったことか。俺はそこらの雑魚とは違うんだよ、この歳でいきなりハンターランク2に昇格する権限を得ているんだからな!」
歳は14と確かに若いが、その横柄な態度に、こめかみが痛くなる受付の女性。
コイツは稀にいる厄介者だと、一瞬のうちに悟った。
「お、そうだそうだ。お前、俺とパーティな。拒否権はねぇ。」
そう言った相手は、彼同様にいきなりハンターランク2になった青年だ。歳は16と、こちらも若い。
が、傲慢に告げられた彼は立ち上がると視線を向けてこういった。
「君みたいな奴と組むつもりは無い。
僕は君を除いたこっちの7人と、今から試験を受ける子でパーティを組みたいと思ってる。
僕は君みたいな自分中心な人間は嫌いだからね。拒否権がない?君はギルド職員の方の説明を聞いてないのか?」
「あぁ?ヤンのか?」
「いいか、僕も君も所詮はランク2だ。ランク1も変わらないし、君と違ってこの人達は自分の実力に真摯に向き合ってるからね。
観察させてもらったけど、僕は君とだけは合いそうもない。」
その言葉にこの言い合いを聞いていた他の6人が各々反応を見せた。
自分もいいのか、ランク1なのに、そんな意見を彼は、「みんなで切磋琢磨しよう!」と勇気づける。
「そうかそうか、ならお前もいらねぇ。まぁソロが一番だからな。
にしてもあんなガキまで拾うつもりなのか、滑稽だな!」
そう言って向かう視線の先はシュラナ達一行。
「見ろよ!保護者同伴の坊ちゃんだぜ!ここはガキの遊び場じゃねぇんだよ!」
「君!そのくらいにーーーー」
「うるせぇな!!」
厄介者は静止しようとしたその青年に剣を向けた。
静かになったのを確認すると3人が座っている席の最前列へと降りていく。
「おい、そこの女。あんなガキの面倒を見るくらいなら俺のところに来いよ。
楽しませーーーー」
「ねぇお兄さん。」
厄介者がシュラナに触れようとしたその時だ。
既に騎士2人は剣を抜いていたが、それよりも早く、その場にはアルヴィスがいた。
「ーーーーぁ?」
さらに厄介者の首には剣が突きつけられている。それも、厄介者が持っていた、自分の剣だ。
彼は自分の剣が奪われたことにも気づかず、ただただ、停止するのみ。
「へぇ、お兄さんって、優秀なんだ。
でも、本当にそうなの?俺の方が歳下だけどーーー」
厄介者の眼前。
アルヴィスは観客席の最前列の塀でしゃがみ込んだ姿勢で剣を突きつけている。
「ーーーこうしていつでもお前を殺せる。」
アルヴィスが悠々と話をしているがその瞳に光は無く、彼はその間動くことなど出来なかった。
情報量に頭が追いつかない。
ガキはさっきまで下にいたはずだ、ここまで高さ8m以上あるぞ、いつ剣を奪われた、なんでお前はそこにいる!
堂々巡り。
そして恐怖。
瞳孔が揺れる。
視点は定まらない。
死への直感。
「ほら、言ってみろよ?誰が優秀で、誰の女に手を出してるのか、さ。」
本気のトーン。5歳児から出る声ではあるが、貫禄が桁違い。
もちろんアルヴィス自身、シュラナの事は付き人認識だ。そしてシュラナ自身も心はレオンのところにある。
が、2人の間で共通理解があったとしても、この場でこの言葉のチョイスは誤解を招きかねないのは確かだが。
アルヴィスの身体から滲み出る魔力。
それは高密度で、魔力の修行をした事の無いものでもその計り知れなさを直感できるほど。
厄介者だけではない、受付の女性、他の受験者、そして試験官含め、全員が身体を強ばらせた。
一方でその威圧を脆に受けた厄介者はと言うとーーー
「ぁ、ぁ、ああああ!!!!!」
ジョロロ……
腰を抜かして漏らした。
アルヴィスは剣を厄介者に投げ捨て、冷たい視線を向けながら見下し、一言。
「惨めだね、自称優秀お兄さん。」
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