第21話 アンバルレード国立図書館
翌日の朝、俺達は高級宿での朝食を楽しんだ。流石は、高級と言われるだけのことはあったと思う。
しかしまぁ、それも貴族家にして見れば、いつもより少し豪勢だな、程度らしいけど。
俺としては未だに庶民的感性が抜け切ってないんだけど。
もちろん地球基準の庶民感性だから、お風呂は要求させていただきますけど。
当然、俺と姉ちゃんはこの朝食に大喜びした。
でも今思い返せば、確かに俺達、朝食をいつも喜んで食べてるし、豪華さ、という点も言われてみればそんな気もする。
まぁこれに至っては雰囲気が美味しくしてくれてるって言っても過言じゃないとの見解です。
と、言うことで今日からしばらくは別行動だ。
爺ちゃんと婆ちゃんと姉ちゃんの観光グループと、俺とシュラナさんの図書館グループ。観光、とは言っても街をぶらぶらするだけらしい。
あと、学校も見に行くとか。どんな感じなのか姉ちゃんが気になると。
俺の方はアンバルレード国立図書館という、この国最大の書庫に足を運ぶつもり。
そこなら膨大な量の本が集まってる。
なんと言ってもアンバルレードを代表する4つの建築物の中の一つだ。
ゲーム内ではNPCがそう言ってた。
しかし俺も行くのは初めてだ。
存在自体は知ってたけど、ゲームでは入場できないエリアだった。
これ、当初はバグかって騒がれたんだけど、この図書館の入口が隣接するエリアどうしの丁度間にあって、図書館の中には絶対に入れなかったんだ。
言わばあれだよ。
エリア移動の時にロードが入って、気づけば向こうにいる現象。
「おおぉ!!感激だぁ……!!」
「アルヴィス様、そんなに大声を出しては周りの方に迷惑がかかりますよ。」
「あ、ごめんなさい。」
シュラナさんから軽いお叱りを受ける。後ろでは俺を微笑ましく眺める護衛の騎士さんが2人。
俺はプクゥと頬をふくらませる。
「あ、若、すみません。」
とは言ってるけど顔が笑ってるよ!
ま、まぁいいや。
それより、今日から数日しかないんだ。いち早く精霊の記述を見つけるぞ!
「それでは行きますかアルヴィス様?」
「うん、入ろ!」
という事では俺達は図書館に入ったーーーー
バタン
「あれ?」
ーーーーのだが。
「あ、すみません。会館は20分後になりますので、暫しお待ちください。」
お仕事中の司書さんにそう告げられたのだった。
「あ、はい…」
◇◇◇
「あのぉ、もう会館しましたか?」
「はい、どうぞ。」
近くの喫茶店で時間を潰して20分後、俺達は再度図書館へと戻った。どうやら今度は問題ないらしい。
張り紙でもあればいいのに。
と、他ごとを考えていたけどそんなことは一瞬で頭から消えてしまっていた。
エントランスを抜けると沢山の机があって、その向こうには本棚の列がズラッと立ち並ぶ。
さらに二階にも無数の本棚、そして窓際にはテーブル席。
やべぇ、充実しすぎだ。
世界最高の蔵書らしいけど、確かにその通りかもしれない。こんな光景、某魔法魔術学校でしか見た事ねぇ。
これがリアルに見られるなんて…俺、生きててよかったよ。
「司書のお姉さん、ちょっと見たい本があるんだけど案内してもらってもいいですか?」
俺はホロリと涙を溜めつつも当初の目的を果たすために司書さんへと話しかけた。
「えぇ、何の本が読みたいの?」
「絵本でも文献でもいいから精霊に関する本を片っ端から見たいんだ。」
「……え、えぇ。そうね、でも流石に文献は難しーーー」
「ーーー大丈夫!ぜーんぶ、お願いします!」
全く、やっぱり小さい身体だと舐められがちだなぁ。仕方のない事だとは思ってるけど、それでもなんか、ねぇ?
「司書さん、この子は凄く賢いのです。きちんと読めるので宜しくお願いします。
それに私も少し気になりますので。」
と、シュラナさんがフォローを入れてくれる。ワァオ……流石はできる女性だ。
司書さんは若干困惑した感じではあったが、「複数冊ありますので少々お待ちください。」と言って行ってしまった。
俺達はエントランスすぐのデスクエリアで待つことにする。
もちろん騎士さん達にも付き合ってもらう。座ってずっと読書、きっと苦痛だろうね。でも護衛だからしょうがないよ?
がんば!
「ありがとねシュラナさん。」
俺はシュラナさんにお礼を言う。
だって円滑に進むんだもん。
「いえいえ、アルヴィス様は調べ物にご集中くださいね。何かありましたら私が対処しますので。」
「うん、ありがと。」
それから暫く。
この街住みのおじいさんやおばあさん、研究者、あと学生達がわらわらと入ってきて各々別々の席に座って作業をし始める。
学生が図書館で勉強か……どこの世界でも同じなんだなぁ。俺も高校の時はやってたし。
研究者の人は沢山の本を集めては読み漁り、あぁでもない、こうでもないって何かを書きながら唸ってる。
もちろん一人二人の話じゃないよ、そんな人が複数いる。
おじいさんやおばあさんは……本を読んでる人もいればいきなり寝始める人もいる。図書館で眠くなるのは分かるけど、それは図書館に寝に来てるよね?
でも分かる。俺も図書館に通ってた時、何人も見かけたからなぁ。世界が変わってもいるんだ。
ちょっと面白いかも。
と、そんな観察をしてると司書さんが十数冊の本を持ってきてくれた。
イメージ的にはもっとあるもんだと思ってたけど、意外と少なかったな。それにその中のほとんどが絵本だ。ちゃんとした文献や考察本は数冊しかないらしい。
「ありがとうございます。」
「はい、どういたしまして。しかしここにある精霊に関する書物はこれで全てですね。」
ん?
ここにある?
「すみません司書さん、ここにある、ってどういう事ですか?他の図書館に行けば別の本があるんですか?」
「いえいえ、この世界にここよりも蔵書の多い図書館などあるはずもありませんよ。」
そう言った司書さんはどこか誇らしげに語る。
「大好きなんですね、この図書館が。」
俺は思ったことを呟いた。
すると司書さんは一瞬フリーズし。
「そうなんです!この図書館は偉大なんです!私は本が大好きで、ここで働けてとても嬉しく思っています!」
と、興奮気味に語る。
うん、この人多分オタクだ。俺と同じ匂いがするもん。
「ーーーあ!す、すみません。少し感情が昂ってしまいました。」
「いえいえ、気にしてませんから。」
「実はこの図書館には禁書庫というものがありまして。検索した結果そこにもう一冊そちらにある様なんですが特別権限がないと入場出来ないんです。
あ、これ内緒ですよ?」
……口、軽くなちゃいましたね。
も、もちろん俺もこれを予見しての褒め言葉だったんだけどね!
いや。ほ、ホントだからね?
でも禁書庫ってのがあるのか。
もしかして論文コンペで優秀だったら禁書庫の閲覧権も貰えるかな?
「ではお客様、ごゆっくり。」
「ありがとうございます。」
そんなやり取りの後、司書さんは従業員カウンターに戻っていった。
俺は絵本を手に取り時間をかけて読み進める。
一方でシュラナさんは絵本ではなく文献を読み始めた。
騎士さん達は適当に本を見繕って近くの席で読んでいたけど、やっぱりつまらなかったんだろうな。
すぐに寝落ちしてた。
◇◇◇
『竜殺の英雄伝』
『魔導師の祖と精霊』
『2人の英傑』……
色々な題名の絵本。
が、内容はほとんど同じだ。
逆に違う点の方が少ない。
まずは主人公の名前だ。男性だったのは間違いないがその名前は本によって違っていた。同じ名前の本は1つとしてなかった。
そしてもう1つ。
それが主人公と共に肩を並べて戦うサブキャラ。それが精霊なのだが、これもまちまち。
完全支援型だったり主人公と共に攻撃してたり、両刀使いだったり。
まぁ、その、つまりですね、絵本からの収穫はなかったってこと。
俺が知りたいのは精霊が一体何なのか、ということ。あの森でのピクニックの時に俺が接触したのは精霊なのか、それとも俺の知らない死霊系モンスターなのか。
残念ながら、その事についての記述は一切なかった。
そして文献の方も最初の20ページくらい呼んだけど……これまた期待は出来そうになかった。
「あのぉ、そろそろ閉館なんですけど。大丈夫ですか?」
時間にして午後6時。
昼ごはんも忘れてずっと本を読み耽ってしまった。
「明日も来るのでこの二冊はとっていて欲しいんですけど……ダメですか?」
「もちろん構いませんよ、他の本は片付けても?」
「はい!読み終えましたので。」
すると司書さんは少々顔を引き攣らせ、「読むの、速いですね。」と言ってきた。
まぁ絵本だしね。1冊辺り100ページ近くあっても大した分量じゃないよ。
俺も「いえいえ、そんな事ないですよ。」とだけ言っておく。
そうして俺達一行は図書館を後にした。
因みに、後で聞いた所、騎士さん達はまるで地獄だったと語った。ずっと座ってるのは退屈で仕方なかったんだろうね。
シュラナさんは意外と楽しんでたみたいだ。どうやら本を読むのは好きらしい。
◇◇◇
夜、俺は姉ちゃんの横で寝てる。
宿の一室、割り当ては俺と姉ちゃんとシュラナさん。ベッドは2つあるけど身体のサイズの関係上小さな俺たちが同じベッドで寝ることになってる。姉ちゃんは爆睡だし、シュラナさんも多分もう寝てる。
けど、俺はどうにもすぐには寝付けなかった。
俺が昼間に見てた物語は、どの本も同じ内容だった。
主人公の名前はそれぞれ違うけど、とある国の優秀な魔導師の話だという事は変わらない。
その昔、とある国に、この世界で最高位の魔導師がいた。誰も到達できなかった領域に至っていた魔導師であり、あらゆる魔法を使いこなしたらしい。
ただ、周りからは少し頭のネジが外れているように思われていたと。どうやら時々独り言で、まるで誰かと話しているような素振りがあったらしい。
そんなある時、彼の耳に一報が入る。
厄災四神柱のうちの一柱、竜神メディオディザストが、周辺各都市への凄まじい被害と共にその国の王都へと向かっている、と。
「厄災四神柱、か。」
もちろん"厄災"のことは知ってる。
何かの動作をするだけで周囲に多大な被害をもたらし、歴史上何度も討伐隊が組まれたが、もちろん討伐する事は適わなず、むしろ傷をつけることさえ一度も出来ていないと言われている化け物達の総称。
その、あまりに圧倒的すぎる存在に人々は為す術もなく、厄災が過ぎるのを待つか、厄災に呑まれて死ぬかの二者択一。
厄災たる所以はそこにある。
が、ゲームでは厄災三神柱として登場していた。まさかもう一体いたなんて事初めて知ったよ。
もちろんその魔導師も人々を護るために立ち上がった。人類最強として決戦の地へと足を運ぶ。
メディオディザストは竜だったらしい。全長は20メートルとも30メートルとも表記があり、羽ばたけばそこには竜巻が起こり、叫び声だけで何もかもを吹き飛ばす。
奴からしたら我々は虫けらだ、と誰もが口を揃えた。地域によれば風の神、風神なんて呼ばれ方もしたらしい。
そんな相手に、人類史上、誰一人として歯が立たなかった魔物に、彼は唯一、傷だけでなく致命傷までも与えた。
同時に、それは彼自身の生命を削った故の功績だった。
満身創痍、人間の彼は、最早地に這いずるしかなく、しかし竜は、瀕死とは言えど最後に辺りを灰燼に帰すくらいの事は出来る余力があった。
絶望的な状況。
今まで頭を悩ませていた厄災の一柱の討伐は成される。確かに偉業だ。だが、自分たちはこの場で、このドラゴンに呆気なく殺される、それが市民の悟りーーー
ーーーだが、その結果は起こらない。
地に伏した男が呟く。
後にも先にも、その内容がなんだったのかは分からない。
しかし、刹那。
その身体から光が溢れ、波が押し寄せる様に一帯に広がる。彼の遥か後方の都まで広がると、さらに都の全てをその金色のオーラが覆い隠す。
周囲の街に被害を出さないために離れた場所で戦闘をしていたが、メディオディザストの最後の攻撃はそんな距離をも諸共しない最強のブレス。
放たれては地形は変わり、海、山は割れると言われていた。
そんな凶悪な攻撃、なんと黄金のオーラが完璧に防いでみせた。邪竜もそのまま力を使い切り、地に没す。
その最中、都の中の人々は天からの声を聞く。
我が主が邪竜を倒した、だがその邪竜の悪足掻きによりこの街が攻撃されたのだ。そして彼は自身の生命を代償にし、我にこの街を護る命令を与えた。
オーラが形を成し、人影が現れる。
人々はそれを神か何かかと、思ったそうだ。
生命力を消費し、立ち上がることさえままならなかったその魔導師も、黄金のオーラを纏い、肩で息をしながら立つ。
生命を代償にする、と言うのは人が一時的な死から這い上がる程度の事は優に出来る。
それでも尚、彼が消耗しているのは金色の魔力に、精霊だけでなく彼自身の捨て身の魔力までもが上乗せされていたからである。
そうして、最後の嵐が巻き起こった。
全ては相殺され、被害は出なかったが、そこから遥か離れた地の地形は変わり、見る影もない程。
都を護っていた黄金の魔力も消えた。
我は主と契約を交わした精霊である、そう言って最後に人影が消滅したらしい。
これが100ページ近くもの分量で描かれていた絵本の内容だ。漫画、とはまた違って挿絵が複数あった感じ。でもまぁ中々文字も多かった印象ではある。
もちろん他の絵本も内容は同じだが、細かい所が違ってはいた。
精霊が見えていた設定だったり、完全に2人で戦ってたり、なんなら生存ルートまで描かれていたものもあったし、さらにはお姫様との結婚なんてとんでもエンドまで。
主人公の年齢もまちまちだったし。
詰まる話、絵本からは精霊に関する情報は皆無。結局何なのか不明だよ。
正直、残りの文献漁りも徒労に終わるだろうな、って思ってる。
だから今気になるのはーーー
「ーーー禁書庫、だよねぇ。」
重要情報が眠ってそうだよね。
ま、どうやってその許可を取るかが問題ではあるんだけど。
いっその事潜り込む?
……いや、犯罪者になってまで調べることでもないな。うん。
取り敢えず、今日の所は寝た方がいいよね。……まだ眠くないんだけども。
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