一章

第20話 学術都市国家:アンバルレード




俺と姉ちゃんの修行は日に日にその勢いを増していった。逆に、俺が姉ちゃんを心配するくらい、姉ちゃんのモチベは高く、能力値もうなぎ登り。




もちろんそれは俺とて例外ではない。




俺の組み立ててた、最強への道ロードマップが今では優に置いてけぼり。

絶対に姉ちゃんとの修行の方がスキルや魔法力の向上には向いていると判明したからね。




が、懸念もある。




それは実践訓練の不足。


戦闘の駆け引き、そしてここぞの正念場での一手、それは実践において感覚的に身につくものだ。現状では姉ちゃんとの訓練ばかりで魔物の討伐にはずっと出かけられていない。




つまり今、経験の方は非常に疎かになってる。






「さぁて!用意はできたかアルヴィス、エストリア!」




その声の主はビルガルド爺ちゃん。


あれから4ヶ月、大きなイベントは何も無く、無事にこの、アンバルレードへと出発する日を迎えた。


あったとすれば俺の誕生日くらいのもの。

その時ちょっとおねだりして面白いを買ってもらったんだけど、今回の遠征では出番が来ない事を願うとしよう。

確かに不安はあるけどね。




「アナタ、朝からうるさいですよ!耳に響くからやめて!

ごめんねアルヴィスちゃん、エストリアちゃん。おじいちゃんがうるさくしちゃって。」




「大丈夫だよ!」


「爺ちゃん、俺も姉ちゃんも準備は出来てる。」




とまぁ、そんな感じでセルタナ婆ちゃんの叱責を受けた爺ちゃんはシュンと縮んだ。

でも俺と姉ちゃんは空気が読めるんです。傷ついたじいちゃんを慰めるべく満面の笑みを浮かべて返答した。


俺氏、その辺りのケアは怠りません!




「シュラナちゃんも準備はいい?」




セルタナ婆ちゃんが俺と姉ちゃんの後ろにいるシュラナさんに問う。


実はシュラナさん、半年前に俺だけでなく姉ちゃんの付き人も兼任しだした。



言うまでもないけど母さんの意向だ。



今まで姉ちゃんは家の中での指導が中心だったため専属のお付きはいなかったけど、俺がその全てを受け持った事を機にシュラナさんが姉ちゃんの付き人にもなったって感じだ。



「はい、もちろんです。」



「よろしい。

それじゃあ皆馬車に乗るのよ。」




そしてこのアンバルレードへの旅行、本当はシュラナさんは行くつもりなかったみたいだけど、母さんの一声で同伴になった。




……母さんや、魂胆は見えてるで。




まぁ、ビルガルド爺ちゃんとセルタナ婆ちゃんは父さんの両親。

多分だけど婆ちゃんの方も母さんから全部事情を聞いてるな、これ。



という事で俺達は馬車に乗り込んだ。




「楽しんでこいよ!2人共!」


「でもちゃんと気をつけてね!」




「いってきまーす!」


「行ってきます。父さん達も警戒しててよね!」




俺達2人は父さん達から渡された短剣を腰にかける。そして父さんと母さんに見守られながら都市国家、アンバルレードへと発った。












アンバルレードはレイティアから比較的近い。馬車で3日と半日だ。その間、俺は自身で書き上げた論文の最終調整をしつつ、爺ちゃん達へのちょっとした補足をする。


と言うのも爺ちゃんと婆ちゃん達には俺の未来視の話を既にしているんだけど、それが手紙でのやり取りだったんだ。


手紙の内容は、あの夜に父さんと母さんに話したままだけど、それでも直接聞きたいこともあるだろうからね。



そして今回の旅だけど、実は大きく予定を変更した箇所がある。




それはアンバルレードから帰り道。




俺と姉ちゃんはアンバルレードから出た後、レイティアを経由せずに直接王都に向かう算段をつけた。

レイティアから一週間、そしてアンバルレードからはそれ以上かかる。途中の街でウィルザー爺ちゃん達の馬車に乗り換えて王都に行く予定になった。


ウィルザー爺ちゃんとステイラ婆ちゃんには負担をかけてしまう事になるのは申し訳ないけど、2人は快く引き受けてくれた。






あと、この4ヶ月で姉ちゃんも、そして父さんと母さんも一通りの魔法を使えるようになってる。





元々適性上の理由で父さんは炎の、母さんは水の魔法に特化していた。姉ちゃんも適性は水しか無かったのに、今じゃ3人とも6属性くらいの魔法は使えるようになった。


まぁ熟練度はまだまだ低くて扱える位階はfirs相当だけど。




ここまで十分な成長だよ。ゲーム内でもここまで成長が早かったキャラはいないし。

やっぱり俺のスキル指導者がチート過ぎるってことか。












そんな感じで俺たちの旅は進んでいく。


流れる景色は美しく、木々が生い茂っている地帯、平原が続く地帯を抜け、ちょっとした山を過ぎると今度は森が続く。


そしてそれを超えるといよいよ都市国家アンバルレード。





もちろん、途中で町にも寄ったし、モンスターとも遭遇した。


俺と姉ちゃんは父さんと母さんから、出発前に短刀をもらってる。護身用、などではなく、脆に戦闘用。おまけに中々に高価でそれだけ業物。

道中襲いかかってきたモンスターでその短刀の扱いを慣らし、ちょっとした戦闘訓練も兼ねた。





街道は比較的魔物が少なく、弱い。


数が少ないのはハンターが定期的に狩っているから。弱いのは街道が整備される際にモンスターの分布を確認して、対処しやすい所に決めるから。




婆ちゃんは物知りでした。流石にゲームではそこまでの話は出てこなかったからな。


え?爺ちゃんは、「そ、そういうのは爺ちゃんの領分じゃないんだ。うん。」だって。








俺がアッカを3匹、姉ちゃんがアッカ2匹とストレイトン3匹を仕留めた。


アッカ、って言うのはボールみたいな形のもふもふモンスター。平原の雑魚と言えばこいつ、みたいな所はある。


が、そのフォルムは愛らしくアッカのキーホルダーなんかはかなり人気らしい。



ま、襲ってくる時は、まん丸でクリクリな目を真っ白にし、普段は小さい口も5倍に裂けて牙むき出し。普通に凶悪な化け物だったりする。






一方、ストレイトンと言うのはいわば豚だ。後先考えずにただひたすら突進、まさに猪突猛進って感じで攻撃してくる。

額には一本の角が生えていて、目は退化したらしく顔の肉に押しつぶされて外からじゃ何処に目があるか分からない。


しかし逆に嗅覚と聴覚が強くなり、夜に行動するとなるとほんの少し厄介になるらしい。


ま、弱いからな。





とは言え姉ちゃんは初戦だった。

昼に俺がアッカと戦っているのを見て、その夜にストレイトンとの戦闘。


結果は完勝。


それも、たったの一戦でスキル夜目も獲得。なんともまぁすげぇ成長度合いだよ。

一応俺も持ってるけどね。




修行中に分かったことだけど、姉ちゃんは魔法よりも近接戦の方が向いてる。

もちろん魔法も使えるんだけど、体を動かす戦闘スキルの方が成長が速いのだ。


かくいうストレイトンも、そんな姉ちゃんに、魔法無しの肉弾戦で負けた。



一方、その翌日のアッカとの戦いは炎で燃やしてた。ま、アッカは飛び跳ねて上下運動が凄いから魔法の方が倒しやすいんだ。

姉ちゃん、肉弾戦に向いてるだけで魔法が苦手ってわけでもないからな。











「……アンバルレード、だな。」


「すごぉーい!」




そうして俺たち一行は3日半の旅を終えてアンバルレードに辿り着いたのだ。


この世界では魔物が蔓延っている。

故に防衛線として、そこそこの規模の街は大抵''壁''で囲まれている。



しかし、皮肉な事にそういった大きな都市は護られても、お金のない小さな村や町では外壁を作れず、魔物の進行で滅びるケースも無くはない。


国の上層部なんてどこも腐ってるから地方にお金をばら撒く位なら腹の足しにする愚か共の集まりだし。


無駄だろうけど、本当にまともに機能して欲しいものだよ。






とは言え、ここアンバルレードは都市国家。つまりこの都市1つで国が成立してるから、まだまともだ。




加えて実力主義。




と言うのも、ここは研究者の都。月に一度の研究論発表コンペが開かれるのだがそこで非の打ち所のない新論を叩きだした人間がこの街の管理メンバーの一柱を担う事になる。




席に制限もないから、偉大な功績を残せば誰でもこの都市国家の政治に踏み入れられる。


現在は9人の最高権力者が治めてるって爺ちゃんが言ってた。




ま、逆に理に適わなかったり酷い研究論だとボロカスらしいから、何かを発表するには誰もが慎重になる。

そのため月一の発表会へのエントリー数は、実はそれほど多くない。


最高権力者とは言えその全員が研究オタク。半ば民主制の様な統治法を取ってるのがこの国の特徴。






そんなアンバルレードの門を検問を終えて抜けるとレイティアや立ち寄ってきた小さな村や町とは全く違った光景が目に飛び込んできた。


姉ちゃんは大喜び。もちろん俺も感動で胸いっぱいだ。アンバルレードも街並みはゲームと変わらないけど、その規模感は圧倒的だ。

これをリアルで体験出来る事がこの上なく嬉しい。








「おっきーね!」



そう、ここはレイティアなんて比にならない程の規模。なんと言ってもこの1つの都市で国だ、相応だろう。


俺達の国の王都でさえ、このアンバルレードの都市の広さには敵わない。






「さて、まずは5日後の研究成果コンペティションへの登録をしに行くか。」



「そうね、早めに登録しておくのに越したことはないわね。」



爺ちゃんと婆ちゃんの一声で馬車は討論会場へと向かう。

因みにこの馬車は、いつも爺ちゃん達が使ってるような豪華なものじゃない。


これはお忍びだから、気を利かせてくれた婆ちゃんが予め庶民がよく使う程度の馬車を用意してくれたのだ。





爺ちゃんは……はい、いつもの馬車を使うつもりだったようです。

が、そうは言っても警備をつけない訳には行かないのも事実。


おかげで快適な旅はできてるけど、普通の馬車一台に4人の警備。流石に護衛では違和感のある感じになった。


それに道中の敵も俺達が全部処理しちゃったしね。





そう言えば警備の人達、俺と姉ちゃんの動きを見て顎外してたなぁ。俺もその光景にはちょっと笑っちゃったのは仕方ないでしょ?


あと、このアンバルレードでの滞在期間は一週間にしてある。色々することあるからさ。

もちろん明日から一週間だ。今は昼過ぎだからノーカン。そこまで考えてます。










そして会場にて。








「……が?」



「はい、そうですけど?何か問題でも?」




俺は受付のお兄さんとお話中。

後ろでキャッキャって爺ちゃんと戯れる姉ちゃんを差し置き、俺は一人で受付の人と対面していた。


後ろには婆ちゃんとシュラナさんもいるけど、俺が発表するから受付も自分でする、と提案したところそれが通った。






「いや、しかしなぁ。」



「年齢制限はありませんよね?」



「……確かにない、が、君みたいな小さい子がこのコンペティションに出るなんて前例がないし……それにーーー」



「それに、俺みたいな小さい子供が発表するなんて、子供に功績を持たせたい親類の画策ではないか、ですか?」




「ーーー!!」




俺が喰いつき気味に、受付お兄さんの言葉を代弁してあげた。すると目を丸くして驚いた上で面倒くさそうに視線をずらした。




「はぁ……ま、確かにそうですよね。

でもいいじゃないですか。」



「な、何が?」



「どちらにせよ、仕事である以上、お兄さんが俺の受付を断る事は出来ません。あと、お忘れですか?」



「何を?」



「このコンペティション、盗作、譲渡の不正を無くすためにきっちり設けられてるじゃないですかーーーーー」




俺はそれに続ける。




「ーーーーー研究者からの質疑応答が。」



「ま、まぁそうなんだけどさ、仮にも君がね、その質疑応答で、本人の研究論だと認められなかったら今後は研究者としての人生は絶たれるんだよ?分かってるの?」



「もちろん、というか分かってなかったらここに来て、ここまで説得してませんよ。」




ぽかぁん、とするお兄さん。


そんな受付のお兄さんに俺は笑顔を向けてもう一度、「登録、お願いしますね?」と告げるのだった。




◇◇◇




一悶着あったが無事にエントリーを済ませた。


受付のお兄さん曰く、今のところ俺が最後の発表者だとか。そもそもこんなに差し迫ってエントリーする人はいないらしい。


要するに当日も俺が4番目の鳳を飾ることになりそうだと言うこと。






エントリーが最後で、更には4番……どこぞのコンテストを思い出すな。






そんなこんなでアンバルレードに到着したこの日、実質半日だけど、俺達は市街地巡りに身を投じた。




ここは学術都市、遊ぶところなど少しはあっても観光スポットなんてありはしないんだよね。


ま、ちょっとした観光地くらいはあるけど直ぐに廻りきってしまう程度。行き交う人々は他の場所とほとんど変わらない。人間、エルフ、ドワーフを筆頭に様々な種属が共存している。



けど、決定的に違う点が2つ。




まず、研究者。


この人たちは白いコートで身を纏ってるからひと目でわかる。


街を歩いたら建物の一室が爆発したり、奥さんからの叱責を受けて家を放り出されて買い物行ってたり、公園でぼぉっとしてたり。





そして2つ目、それは学生だ。


アンバルレードは学術都市と言うだけあって教育には力が入ってる。婆ちゃんの話では教育方針も現統治者9人が決めてるんだとか。



この都市だけで学校は8つあり、生徒数もそれはそれは多い。すれ違う人の4人に1人は学生だもん。


もちろん学校ごとに出来の善し悪しはある。しかし他国との教育に比べると、この国で最下位の学校も他国ではトップクラス、もしくはそれ以上に位置する。



ゲームでも同じだった。



学校の情報は脆にストーリーに関わってたから多かったんだよ。言うまでもないけど、半日程度で廻れる程ここは狭くない。


一通り廻るとなると、最低でも5日はかかるだろう。






そして夕方、適当に宿をとって……


いや、流石は貴族。適当に安い宿、などのレベルではなかった。






「いやいや……」


「………」


「は、ハハハ。」


「キラキラしててきれぇ……」




姉ちゃんは素直に喜んでいたけど、俺は苦笑い、そして婆ちゃんとシュラナさんは頭を抱えた。


まぁお忍びで来てて、馬車まで偽装してるんだ。爺ちゃんはいつもの感覚で宿を選んだかもだけど、これは流石に目立つでしょ……








とは言え、結局ここに泊まることになりました。


正直、設備はかなり充実してたけど。

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