第18話 新論ー適性ー
「姉ちゃんは今なんの勉強してるの?」
朝一、3時間程度の軽い訓練(俺にとってはね。)を終え、リビングにて勉強会を始めることになった。この場には昨日と違い父さんに母さん、シュラナさん、あとは滞在中の爺ちゃんと婆ちゃんが同席。
詰まる話勉強会であります。
ただ保護者達は傍観してるだけなんだけど。
「礼儀作法と算術、魔法基礎理論だよ。それで、今日は魔法基礎理論学の日だったんだ。」
魔法理論学は言わば魔法体系についての学習事項。姉ちゃんがやってるのはそれの基礎にあたる。
生物基礎、みたいなやつだね。
「なるほど。」
俺は頷いてみせる。
が、魔法理論学と言ってもそんなに大した話ではない。地球での学習内容に比べれば屁でもないから。
本気で勉強すれば、魔法理論学程度1年もあればお釣りが来る程度。
ゲーム内ではそんな学問は存在しなかったから、俺も産まれてから本で学んだ。
が、正直な話、もうほとんど全て知ってた。
なんなら俺の方が知識多かったよ。
確かにゲームで出てきてない内容も僅かに含まれていた。そう、僅かに。
でもゲーム内ではそんな内容よりもとんでもない事実の判明とか、よく起こってたし。
……ん?
今思えば、もしかしてこの世界って、ゲームの世界よりも前の時系列か?
確かに今まで気にしてなかったけど、あまりにも情報が古い様な気がする。
「ねぇアルヴィス、今日はどうしよ?」
おっとっと、どうやら思考が大分逸れてしまったみたいだ。
「姉ちゃん、なら今日は魔法を使ってみよっか。」
「え!?いいの!」
と、姉ちゃんは喜ぶ。
チラッと周りにも目を走らせるが、父さん達からも意義はなさそう。
「勉強にも色々な方法があるんだけど、一番良いのはイメージ出来ること。」
「イメージ?」
首を傾げる姉ちゃんに俺は、「そう。」と応えて続ける。
「例えば、今の姉ちゃんみたいにずっと勉強して知識を付けてるとするでしょ?それ、すぐ忘れない?」
「……うん。すぐ忘れる。」
「そう、ただ丸暗記するって言うのは難しいんだ。理由は簡単、それはただ文字として覚えようとしているからだよ。」
受験勉強で苦戦した俺も、このイメージを使った勉強をしてなかった時は話にならなかった。
ま、実際俺が狙ってた大学では、俺が編み出した勉強法なんて当たり前。むしろ一度見たことを忘れないみたいな奴もいたレベル。
その点、やはりこの世界での勉強は全くもって格が落ちる。
何と言うか、その、すごく優しいのだ。うん。
俺は、いまいちピンッと来てない姉ちゃんに「ま、とりあえずどれだけ変わるかさ、実践といこうよ。」と言って庭に誘い出した。
もちろん保護者同伴だけど。
昼をとっくに過ぎた午後。
「じゃあまずは火から試してみよっか?」
「……え?」
「「「「「「え!?」」」」」」
ん?何?
初手から困惑とは何事?
「あのねアルヴィス、私ね、火の適性はないの。ごめんね。お父さんもアルヴィスもすごい火の魔法を使うもんね。」
あぁ、そんな話もあったな。すっかり頭から抜けてた。ここにいる俺以外は皆そんなことを気にしてたから、こんな反応だったのか。
ったく、あんな変な適性論のせいで姉ちゃんが肩を落としてしまったじゃん。
なので、俺は思わず笑ってしまった、風に装った。
「アハハハハ!安心してよ姉ちゃん、適性論なんて意味ないから!」
驚愕の事実、適性は意味が無い!
大人達はシュラナさんを除いて首を傾げ眉を顰める。
そう、適性なんて所詮は適性。向いてるか向いてないかの違いだ。
つまり適性の無い魔法も、使おうと思えば使えるし、訓練すれば適性のある魔法よりも強くなる。
そういや、俺も高校の時にやったな、文理適性。
俺の場合、脆に文系適性だったのに理系進学だったんだよ。懐かしい。
つまり……適性検査?
あれね、無意味。
この世界では魔法を使うのに適性がいるって思われてるけど、それは直感的に魔法を使えるか使えないかの問題。
ちょっと勉強すれば誰でも使える代物。
「ほ、ホントなの!私、火の魔法使ってみたい!」
「よし、じゃあまずはイメージから行くからね。」
そう言って俺は手を擦り始める。
「いやぁ、今日も寒いね姉ちゃん。」
「……アルヴィス?」
「ほら、姉ちゃんも手を擦って。」
戸惑いながらも、「う、うん。」と言って手を擦り出す。
そしてしばらくしてーーー
「どう?」
と、聞いた。
「何が?」
ま、そうだよね。
分かってたよ、俺の説明が少なすぎるもんね。
「姉ちゃん、手がホカホカしてきたでしょ?どうよ?」
「あ、うん。でも普通じゃないの?」
「いやいや、違うね。こういった現象を直感的に捉えられる人には適性がでるんだけど、適性の無い魔法には多少の理解が必要になるんだ。
だから姉ちゃん、これをそういうもの、として捉えるんじゃ足りないんだ。火を使うには火に対する理解が必要になってくる。」
「な、なるほど?アルヴィスが授業してくれるってことだね?」
「うん、じゃあ早速始めるね。
まずその、手を擦って暖かくなった現象だけど、それは摩擦熱っていうんだ。」
「まさつ、ねつ?」
「そう。見てて。」
俺は手元に用意していた少し大き目の木と細い木に視線を移す。
細い木を、その太目の木に突き立てるようにして置いて魔法を使用する。
するとクルクルクルクルと気が回り始める。
「うわぁぁ!!凄い回ってるよ!」
「風魔法の応用なんだ。でも姉ちゃんに見てほしいのはここから。」
するのその先端から煙が上がり始めた。更にそのまま続けると火が発生し、燃え始めた。
「え!?ど、どうして!」
「火をつけるにはまずは熱が必要なんだよ。で、その熱って言うのはどうやったら発生するのか。」
「……擦り合わせる?」
「正解。でも物体によって擦りやすさは違う。例えば石と布。あれは手と比べると擦りにくくない?」
「うん!確かに!」
「そうやって出た熱が火の元になるん。まぁ、普通はこんなやり方で火は起こさないんだけどね。」
当たり前だ、魔法がなければ、木だけで火を出すなんて芸当はできない。発火剤になる燃えやすいモノを挟み込むのがセオリーだし。
あとは鉄の混ざった石の接触。
実験本とかじゃよくある話だったな。
「でね、そのイメージを持ってるだけで魔法は使えるんだ。
原理は簡単、自分の中にある無意識が魔力に作用して、その魔力が結果だけを抽出する事で魔法として発現するってものだよ。」
「……いや、その原理?は難しくてよく分からないかも。」
「心配しないで。要するにーーーー」
俺はピッと人差し指を上げて微笑む。
「ーーーーもう姉ちゃんでも魔法がつかえるってこと。」
すると姉ちゃんは「えぇ!嘘だぁ!」と、まるで信じていない様子。
少し離れた場所で父さん達も「流石にそれはないだろう」って笑ってる。
「まぁまぁ、いいから一度騙されたと思ってやってみよ?」
「う、うん。」
「じゃあ俺に続いてね。
覆われし瞳、写す影は闇夜、道を照らし標となれーーfirs、灯火。」
「覆われし瞳、写す影は闇夜、道を照らし標となれーーfirs、灯火!」
すると姉ちゃんの手の平の上に小さな火が灯る。その火の粒は吹けば消えてしまうほど弱々しい。しかし紛れもなく、姉ちゃんは確かに火の魔法を行使できた。
「う、うそ……これ、私が?」
「だから言ったでしょ?」
俺はそう言いつつ大人組へと顔を向け、してやったり、という風にニィッと笑ってみせる。
もちろん皆、この光景に愕然としてる。
それも仕方ないこと。
何せ従来の適性論が完全に間違っていたことの証明。衝撃を受けるのは最早必然だよ。
「ーーーウッ!」
そんな時、姉ちゃんがふらつく。魔力を初めて使った際、その感覚になれてないために、魔力酔い、と言われる症状を発症する人は多い。
俺が産まれてからすぐに使った封印魔法では、ならなかったけどね。
ま、痛みでそれどころじゃなかったとも言えるんだけど。
俺はすぐに姉ちゃんを支えた。
「魔力酔いと……多分魔力不足のせいだと思うよ。」
「あぁ、これが魔力酔いかぁ。それに魔力不足って、もう私は魔力切れなの?」
「最初はそんなものだよ姉ちゃん。まだ魔法行使に慣れてないからね。
でも魔力なんて使ってたら増えるんだから、あんまり気にしちゃダメだよ。また増やし方も教えるからさ!」
「え!ホント!?ありがとアルヴィス!」
ーーウグッ!!
姉ちゃん上から抱きつかないで!死ぬから!腰折れるぅ!!
「あ、ごめんね?」
……あ、危なかった。咄嗟に身体強化してないと砕けてたところだよ。
「さ、さて姉ちゃん、本題に戻ろうか。
今日は魔法基礎理論学の勉強だからね。
ここからが本題だよ。」
「はいっ!アルヴィス先生!」
……先生て。
ま、まぁいっか。
と言うか、後ろが賑やかになったな。
ウィルザー爺ちゃん、火の魔法使ったこと無かったみたいだね。
ウィルザー爺ちゃんだけじゃなく、父さんもビルガルド爺ちゃんも大興奮です。
あと、意外なことに母さんや婆ちゃん達もこれには目の色を変えてる。
「じゃ、姉ちゃんには悪いけど最初から教えてくね。復習がてら聞いてて。
もちろん、分からないところがあればその都度質問してくれたら応えるから。」
「うん!よろしくお願いしますアルヴィス先生!」
そう言って姉ちゃんが俺へと向ける表情は明るい。魔法は楽しいからね、俺も姉ちゃんが楽しく学んでくれて嬉しい。
◇◇◇
夜、アルヴィスとエストリアは自室へ行って就寝している時間帯………実はアルヴィスは魔力を増やす訓練の最中で眠ってはいないが、紛れもなく子供達が眠る時間帯に差し掛かっている。
そんな中、魔導ランプを照らしたリビングでは、本日の新適性理論が話題として上がっていた。
「産まれてから4年、か。」
「適性という言葉の曖昧さ、普通ならば気にするものでもない。」
「全くアルヴィスちゃんには恐れ入りましたよ。」
「そうね、戦闘だけでも異常なセンスをしてるのに。」
爺、婆の4人がそれぞれの意見を口にする。
が、親のクレスタとレオンにとってみれば順序が逆だ。
「私達は元々アルヴィスが有り得ないくらい頭が良いことを知ってましたから。
あんなに戦闘ができる事の方が驚きましたね。」
「あぁ。だが、今回の件はそれ以上だったぞ。俺は驚きすぎて目眩までしてたんだが。
たとえアイツに神が宿っていると言われても、納得してしまいそうだ。」
そう告げたレオンに続いてウィルザーが。
「……これは早めにアンバルレードに連れて行ってやった方が良さそうだなビルガルド。」
「確かにあの新論……あの都市国家で発表すればそれだけで、我々全員に今後、何があっても安泰だ。
だが、そうは言ってもアルヴィスは半年後って言って聞かないぞ?」
そう、実は夕食の席でアンバルレードへ行く日時は決まっていた。
もちろんアルヴィスの提案である。
理由としてはただ一つ。
確かにアルヴィスとしては当初、早くアンバルレードに行って調べ物をしたいと思っていた。
しかし優先事項が変わった。
姉、エストリアへの指導である。
アルヴィスにとっては調べ物よりもエストリアの方が優先させるべき話であったのだ。
「難しいところ、でしょうね。あの子がエストリアを大切に思っているのは間違いないので。」
「だな、それに丁度良かったとも言えるーーーーー」
レオンが一呼吸置く。
「ーーーーー皇玉の話もしなければならないし、な。」
今回は短め!
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