第16話 指南



シリアスは苦手ですぅ…

しかし通らねばならぬ!

なので次回も今日中に!


ーーーーーーーーーーー







翌日は朝一からの始動。


姉ちゃんは起きれなかったみたいで、それ以外のメンツが庭に集まってる。

女性陣は少し離れた所の木陰に設置されたデッキチェアに座って、使用人さんに紅茶を淹れてもらってる。




逆に父さんとじいちゃん達は、いつもの堅苦しい見るからに高価な服ではなく、動きやすい服に身を包んでいた。




「まずは軽くジョギング!」




そう言って広い庭を三週。


俺はその後、少し歩いて深呼吸だけし、呼吸を整える。俺もだいぶ体力ついたもんだ。



「で、次に準備体操!身体を解して怪我をしにくくするんだ。」



別に準備体操とは言っても屈伸などをする訳では無い。体の隅々の部位の筋肉を徐々に伸ばすイメージ。座り込んでの前屈や体捻り。これをゆっくりする。




「えぇ……父さん達硬いね。そんなんじゃ柔軟性に欠けるから俺のスキルは取れないよ?」




俺は笑う。

だってガチガチだもん。柔軟性もスキルを取るのに必要な項目の一種。


これが無いと初期スキルが手に入りにくくなるんだ。



「な、何故、だ、アルヴィス!」


「うぐぐ……じ、柔軟性と、スキルにな、何の関係が!」


「や、止めてくれアルヴィス!痛い!痛いんだ!!」




俺は今、父さんの背中を押してる。

うん、その気持ちは分かるんだけど、何だかあまりにも悲痛な叫びだよ。


爺ちゃん達も頑張って柔軟してるけど、どれほども曲がってない。




「ふ、ふぅ、死ぬかと思った……」


「実はね、俺もスキルが手に入っていく間に知ったんだけど。」




俺は父さんから離れてウィルザー爺ちゃんの背中に乗る。もちろんゆっくりだ。

いきなり伸ばすと怪我する可能性あるからね。




「あたただだだだ!!!」




「ガハハハハ!!ウィルザー、苦しそうだな!」


「次はビルガルド爺ちゃんだからね。」


「……やっぱり?」





俺は満面の笑みで返しつつ続きを話す。





「で、何が分かったかと言うと、スキルの獲得には条件があるって事。」



「「条件だと!?」」




ビルガルド爺ちゃんと父さんが被るけどウィルザー爺ちゃんはそれどころじゃないらしい。苦痛に顔を歪めておりますねぇ。




あと、木の下で見てる女性陣はこの光景に爆笑してる。しかしその中にも、何故か上品さがあるんだよねぇ。


流石は貴族の女性、って所だな。


まぁ、シュラナさんは気まずそうだけどね。




「うん、俺が手に入れてるスキルは鍛えて進化や昇華させるとすっごく強くなるんだけど、入手法は難しくないんだ。」


「それで、その入手法とは?」


「ただひたすら頑張る、これだけだよ。」






「「は?」」






ま、そんな反応になるよね。






「いててぇぇぇ!!!」




「はい、ウィルザー爺ちゃん終了ね。次はビルガルド爺ちゃん。」




そう言って俺はビルガルド爺ちゃんに近づいてく。「や、優しくしてくれ。」なんてあまっちょろい事を言う爺ちゃんには少しキツめでも構わないでしょ。




「ぎゃぁぁぁ!!!」




「で、頑張るってどういう事なんだ?」




爺ちゃんの悲鳴なんて無視して父さんが俺に聞いてくる。ウィルザー爺ちゃんも痛みの余韻はありながらも耳は傾けてる。




「必要なのは筋力、体力、柔軟性の三つかな。それが予め定まった条件を満たす一定以上に高められた時に発現するんだよね。

だからひたすら走って体操して筋トレして、そうやって頑張ったら俺と同じスキルが生えてくるよ。」




そう、簡単なお話だ。




「ぐぉぉぉ!!!い、痛い痛い!アルヴィス容赦ないってぇぇ!!」




「あと少し頑張って。」




「しかしアルヴィス、こう言うのもなんだが、爺ちゃんやお前の父さんはアルヴィスよりも体力や筋力はあるぞ?」




ウィルザー爺ちゃんの疑問も分かるけどそれは根本的に勘違いをしてる。俺が言いたいのは相対的な膂力の話だ。




「確かに爺ちゃん達や父さんの柔軟性がある一定以上になれば、スキルは手に入るかもしれないけど、それで手に入らないなら体力や筋力がその水準を満たしていないことになるんだ。」



「アルヴィス、そんな事があるのか?さっきもウィルザーお爺ちゃんが言ったように父さん達は柔軟性以外は大丈夫だと思うが。」



「父さん、正直言って俺には分からないよ。だって基準は俺じゃないもん。自分の年齢、体格に見合った基準が、個人に備わってるんだと俺は思うよ?

じゃなきゃ、俺が取れるようなスキルは誰もが簡単に手に入っちゃうよ?なのに誰も俺のスキルを知らないっておかしくない?」




そう、そもそもスキルを取るには熟練度が必要なのだが、それがどれほど必要なのかは個人の成長によって変わってくるものなんだよ。


だがら例えば、小さいうちは体重は軽いし体は小さいから必要熟練度は安上がりで済む。


しかしこれが父さん達みたいに成長してしまうとそうはいかないんだよ。もちろんショタジジィやロリババァの類だとどういう判定になるか定かじゃないんだけどね。


つまりこれが言わば、成長率、というものだ。






「……要するに、アルヴィスは大きくなったらスキルは手に入れるのが難しくなるって考えてるって事か?」



「まぁ一概にはいえないけどね。因みに俺でもスキルを手に入れるまでは、毎日胃の中のモノを全部吐くまで走ってたよ。

あ、爺ちゃん、お疲れ様。」




「うがぁぁ……痛かったァ……」




ビルガルド爺ちゃんを解放して父さんとウィルザー爺ちゃんの方を見ると顔の色が悪くなってた。



「アルヴィス、それ本気で言ってるのか?」




「うん。どうしたの?」




「……マジか。因みにアルヴィスはどれくらいでスキルを習得したんだ?」




父さんに応えると次はウィルザー爺ちゃん。どれくらいだっただろうか……随分と早く俺は修得できたし。




「だいたい……そうだね、あんまり分からないけど最低1年くらい?」




「それは、気が、遠くなるな。」




ビルガルド爺ちゃん、アンタは硬すぎだよ。もっと柔軟しないとね。




「つまり俺達だとそれ以上の負荷訓練しながらも、さらに年単位になる可能性が高い、か。」




ウィルザー爺ちゃんは最後に、ハードじゃの……と呟く。


そうなんですよ、この世界は本当にハードなんですよね。



今、俺がスキルの獲得してるこのペースは順調過ぎてなんか怖いレベルだから。




「さて!これから始めるよ。アルヴィス式の訓練開始だ!」




俺は拳を突き上げ、声を張る。


3人も、「よし!」とやる気は十分。




「まずはランニングから!行くよ!」





そうして俺達は走り始めた。




◇◇◇




訓練は一通り終わった。


いつもならあと三、四セット行くところだけど、今日は体験授業みたいなものだからしない。



「……いや、これを全力でやるとなるとかなりきついな。」


「全くだ。アルヴィスはこれを毎日何セットもしてるのか。」


「ハハハ……正直ストイック過ぎやしないか?」




とまぁ、三者三様の感想。


それはいいけど。




「まぁ、俺は体が弱かったからね。

あと、強くなるには色んな能力が必要だなぁって思って実践してただけだよ。

そしたらいいスキルに巡り会えたんだ。」




「「「……な、なるほど。」」」



何だろ、伝わってない気がするのは俺だけ?いや、細かいことは気にしません。



「所でアルヴィス、お前がお父さんとの模擬戦中で使ったスキルってのは一体どういうものなんだ?」




「まぁ、幾つか使ってたよ。

Sixth sense に疾走、瞬足、跳躍、一点衝波、操術、身体強化、瞬歩、堅くらいかな?他にも使ったっけ?

覚えてないや。」




「「「ま、待て待て待て!」」」




「何?」



別に変な事を言ったつもりは無いんだけどな。



「アルヴィス、一つ聞きたいんだが、お前はスキルを一体幾つ持ってるんだ?」




幾つって……




……




…………




………………幾つだ?そう言えば数えたこと無かったな。




「うーん、前までは70、80程度あったと思うけど今は20無いくらいかな。数えた事ないから分からないや!」




あれ?反応無いけど……どうしたんだ?





「おーい?大丈夫?」




「アルヴィス、何でそんなにスキル持ってんの!?」


「いや、そもそも身につけたスキルが減ることなんてあるのか!?」




な、なんて圧だ……


まさかこの時代じゃスキルの統合が知られてないの!?


それこそ驚きなんだけど。




「えぇと、スキルの数は減ったんじゃないよ。スキルが統合されたんだ。」




「「「統合?」」」




やっぱりそうなのか。


……こりゃ、今は俺が思ってるよりもずっとゲームストーリーに近い時代なのかもしれない。説明には骨が折れそうだ。




「そう、系統が同じスキルを複数獲得した時、そのスキルは統合されて一つのスキルになるんだ。

これはスキルの進化じゃなくて昇華の一種かな。」




3人ともが口を揃えて「そんなものがあるのか……」と驚きを隠せない様子。


が、ここでビルガード爺ちゃんから疑問が問われる。




「しかしその利点は何かあるのか?一見大したことでは無いようだが。」




「利点は大きいよ。」




俺は人差し指を立ててニッと笑う。




「俺を例にするね。俺は操術ってスキルをもってるんだけど、聞いた事ある?」




「「「いや、ないな。」」」




「これはね、道具を扱うスキルなんだ。道具を扱うスキルを50種類獲得すると統合されて操術になるんだ。」




「「「ご、50……」」」




うわぁ、気が遠くなるような表情だ。

頑張ってとしか言いようがないけど。




「で、操術の強み、それは使ったことの無い道具ですらすぐに使えるようになること。

本来持ってなかったスキルも、それが道具を扱うスキルである限り、すぐに順応できるんだ。

例えば、俺は弓を使ったことないし、そのスキルも持ってなかった。けど、操術があれば、すぐに扱えるようになるってこと。」




「マジか……」


「となると、たった50の道具を扱うスキルの獲得で、実質あらゆる道具を扱えるって事か。なんだそのイカれたスキルは。」




ビルガルド爺ちゃんが呟き、それにウィルザー爺ちゃんが続く。

俺もウィルザー爺ちゃんに同意だよ。

確かに、なんだそれってなる。




「しかしアルヴィス、50のスキルというと中々出来ることでもないだろう。どうやって手に入れたんだ。」



「ふふふ、それは実を言うとそんなに難しい事じゃないんだ。

覚えてる?俺が父さんに棒を2本おねだりしたこと。」



「あ、あぁ。」



「それを使い分けながら振り回すだけでなんと操術は手に入っちゃうんです。」



「……アルヴィス、つまりそれだけで50以上のスキルが手に入ると?」



「もちろんコツはあるよ。同じ振り回し方じゃ、当たり前だけど特定のスキルしか手に入らないんだ。」






俺はその言葉に、でも……と続ける。







「出鱈目に振り回してても複数のスキルは手に入るよ。」




「は?何故だ?振り回すだけでどうしてスキルが?」




「大切なのは棒って事。

剣を振り回せば剣のスキルしか手に入らないし、槍を振り回せば槍のスキルしか入らないけど、棒は棒だけのスキルでは終わらないんだ。

あの形状は色々な物に通じてるからね。

もちろん材質は木じゃなくてもいいんだけど、俺には鉄だと重いし値も張るから木にしてもらったんだ。」






少々矛盾があると自分でも思うけど、これはゲームの設定だった。


恐らくゲームを円滑に進めるための慈善策だったのだろうとも思ってる。



「なるほどな……まさかそんな抜け道の様な方法があるとは。」



「それでアルヴィスの持ってたスキルは操術スキルに統合された、と。」




ウィルザー爺ちゃんもビルガード爺ちゃんも納得って感じの顔だな。


今の説明で納得したのか……正直な話、俺自身はゲームの設定だからって許容してるけど棒と槍の違いなんてどこにあるんだよって思ってるよ?




「アルヴィス、その事は大体分かった。今度はさっきのスキルの効果の続きを聞いてもいいか?」




俺は父さんに、「もちろん。」と笑顔で返す。




「まずは疾走だね、これは早く走れるようになるよ。身体強化使ってない父さんは追いつけなかったよね。」




すると父さんは遠い目をして、「あの鬼ごっこの時に使ってたやつか……確かに追いつけなかったな。」と。




「で、その進化スキルになるのが瞬足。これは特定の範囲だけ猛スピードで走れるようになるんだ。でもこの速さは異常だから瞬間移動に見えるらしいね。

そんなスキルも父さんとの試合中で進化して新スキルとして瞬歩に変わったんだけど。」




「あぁ、あの最後のやつか。確かに爺ちゃん達でも目で追えなんだな。」




「ま、訓練したらもっと早くなるんだけどね。」




「「「マジかよ……」」」






「あとは跳躍ってスキル。これは大ジャンプが出来るだけでなく、なんと空中も蹴れます。制限があるから、大体2、3歩だけど。

あ、そう言えばこれも歩法に昇華したんだった。歩法は大ジャンプに加えて、制限なく空中や水中を歩けるんだよ。」






俺は、「こんなふうにね。」と言いつつその場で空中を歩いてみせる。




「「「おいおい……何そのスキル。」」」




確かに意味わからんチートスキルだよ。俺もそう思う。これ一つで空中戦も水中戦も対応できるんだぜ。


だからこそ早い段階でとっておきたかったんだ。ま、ここまで早く手に入るとは思ってなかったけどね。


これも全部父さんとの模擬戦のおかげだよね、多分。






「次は堅だね、これは父さんの拳を脆に受けた時に、木刀に盾スキルのシールドブレイクをかけたんだけど、それと一緒に発動してたスキルだよ。

実は父さんの攻撃を防いだおかげで堅も進化して城になったんだ。」




「「「……どんだけスキル伸びてんの?」」」






俺も同感です。はい。








「あとはSixth senseかな。実はこのスキル、自力で手に入れてないんだ。」




「「……ん?どういう事?」」


「スキルは自分で手に入れるものじゃないのか?」




そりゃそんな反応になるよね。




「そうだよ父さん。本来スキルは自分で経験を積んで発現するもの。

そして俺もそのスキル発現の一歩手前まで行ってたらしいんだけど、それを強制的に発現させられたんだ。」



どうやらその俺の言葉に引っ掛かりを覚えたらしい。


父さんもビルガルド爺ちゃんもウィルザー爺ちゃんも難しい顔をする。




「どういう事だアルヴィス。」




「森にピクニックに行って変な声と会話した話はしたでしょ?その声がね、俺のスキルが開花前だからって強制的に解放したらしいんだ。まぁ、自力で発言させてない分、反動は大きかったけどね。

父さんは覚えてるでしょ、俺がいきなり苦しんみだしたあの時だよ。」




爺ちゃん達は。「そんな事まであったのか……」と呟く一方で、父さんは「……アルヴィス、そんな詳細、お父さんは聞いてないんだが?」と。



俺は軽く、「ごめんなさい。」とだけ。


やっぱり素直な方がいいよね。




「……それでアルヴィスは都市国家アンバルレードで調べたい事があると言ってたのか。」



「確かにそれほどの経験をすれば当然のアンサーではあるな。」



「それにしてもアルヴィスはもう文字を読む事が出来るのか?」




父さんは納得してくれたみたいだけど、今度はビルガード爺ちゃんからの問い。


普通、文字を使えるからと言っても大人でも難しい本を、こんな4歳児が読めるはずもないけどそこは黙秘します。当然だよね。



俺は、うん!と応える。




「まぁ、そのくらいだよ、スキルに関してはさ。」




「そのくらいって……」




父さん達がため息を着く。


何だろ、もしかして俺、呆れられてる?






「つ、次は魔法の事だよね!」




と、取り敢えず話を進めよう、うん。




◇◇◇




「firs、灯火。」




その一言で発生した火の玉は、宛ら弱いライターの様だ。


ま、これが本来の灯火だから仕方ない。




「これは確かに見慣れた灯火だな。」


「詠唱していないのは気になるがな。」




ウィルザー爺ちゃんの呟きにビルガード爺ちゃんも父さんも同意する。




「じゃあいくよ、これが改変魔法。」




するとみるみるうちに炎が大きくなり、全長は3mに匹敵する。


それを見てた3人は声を揃えて「お、おおおお!!」と。




「どうなってんだこれ……」



「こんなのfirsには収まらないだろ。」




「魔法自体の効果を自在に操れるのか。」




と、驚きを洩らしてるんだけど、実はこの改変魔法は万能ではない。もちろん強力だが。




「父さん、自在に効果を変えれる、って言うのは違うんだ。やっぱり限界はあるよ。」




俺は魔法を消す。




「俺、魔法自体はスキルの派生だと考えてる。実際、魔法はスキルと同じように、自分の成長と共に魔法の位階を上げられる。

だからもちろん、改変魔法も俺の成長と共に強化してるんだ。灯火の強化も、今のが限界。

けど、これからの訓練でもっと強く、大きく出来る。」



「……なるほど、その発想はなかった。教育による固定観念の無さ故か。」



「普通は魔法とスキルは別物として学ぶからな。」



「確かに魔法とスキル、魔力を介するだけあって繋がりの深い関係なのかもしれん。」




もちろん俺のゲーム知識あっての推論。

ゲーム内ではそれについての言及は無かったけど無関係とする明言も無かった。




「それで、俺は改変魔法で強化した魔法には階級呼びをしないようにしてる。

最早全くの別物だからね。」




俺、だけではない。

改変魔法については、そこそこプレイしているプレイヤーなら誰でも知ってる事だ。そう、プレイヤーなら、ね。

そしてゲーム内の表示も改変魔法を使用した場合、階級の指定は外されていた。


父さん達も遠い目をして、「確かに。」と呟くのだった。




「とまぁ、粗方は話したと思うけど、何か他に聞きたいこととかある?」




何だかんだ時間帯は午後3時を回ってるみたいだ。結構話し込んじゃったなって感じ。


それからは、父さん達から何個か問われたけど、どれもそつなく対応した。







そろそろ引き上げよう、そう思って視線を周囲に飛ばしたのだが。






「ん?母さん達、いつの間に居なくなったの?」




「「「……確かに。」」」




俺達は誰一人として女性陣が家の中に戻った事に気が付かなかったようです。




◇◇◇




この日は午前から、アルヴィスの公開授業が始まった。

クレスタ、ステイラ、セルタナ、そして強制的に同席させられているシュラナ。




彼女達は庭に生えている木の下で机と椅子を並べて、紅茶と共にその公開授業を眺めていた。




そんな折り、寝坊したエストリアが家から出てきてクレスタ達の元へ駆ける。


それは授業開始から二時間の事であり、女性陣はそろそろ中へと戻ろうとしていた頃だった。




「お母さん、おばあちゃん達、シュラナさんおはよう!」




4人はエストリアに、おはよう、と笑顔で返す。




「エストリア、遅かったからもうお母さん達は戻るところよ。」



「えぇ!なんでなんで!じゃあ私、アルヴィスのところに行く!」



「ダメよ。お父さんやおじいちゃん達、今夢中になってるから危ないのよ。」



エストリアは頬をふくらませてクレスタを睨む。しかし頭を撫でられ、「今日は本当ダメなの。我慢してね。」と言われるとエストリアはシュンとして「うん…」と一言。








それからは家の中での雑談。女性のお話は留まるところを知らない。

それはシュラナとて例外ではない。淑女達との話し合いに花を咲かせる。






しかしエストリアは終始浮かない表情。


確かに女性陣の会話に参加出来ない、というのも理由としてあるだろうが、彼女は心中でそれ以上の事を抱えていた。




「エストリア?そんなにお父さん達のところに行きたかったの?」



心配になったクレスタがそう尋ねる。

しかしエストリアは首を横に振った。








「お母さん、私はアルヴィスみたいに色んなこと出来ない。」






瞬間、場が凍る。


子供の比較、それは人格形成には天敵。アイデンティティを容易に崩壊させる地雷である。そんな物が今、エストリア本人の口から投下された。


流石のスーパー淑女メンバーであってもこれには動揺を隠しきれない。


エストリアには気づかれない程度ではあるが。




「ど、どうしたの急に。」




「そうよエストリアちゃん。」






別に気にしなくていい、とは言わない。

否、そんな事口が裂けても言えない。


エストリアの口からこんな事が出てくる時点で気にしないではいられない状態であることは明白なのだから。


その辺りを一瞬で察する辺り、流石は淑女達である。




「アルヴィスはずっと凄いの。一生懸命頑張ってるし、頭も良いし、料理も出来るし、強いし、魔法も使えるし、それにとっても凄いの。

私もアルヴィスが大好きだから凄く嬉しい。だけど……私はお姉ちゃんなのにアルヴィスに何もしてあげられない。」




だから、アルヴィスに近づいきたくて、今日教えてもらおうとした、なんて事を言外に素早く理解する淑女の皆様。


エストリアとて、子供なりの苦悩があったという事だ。





事実、アルヴィスは家庭教師を付けられた事もあったが、3日で家庭教師が泣いて逃げだした。




家庭教師が、である。




この世界と地球とでは発展した方向性が違いすぎるため、この世界の勉学など彼には子供騙し程度。





一方でエストリアは未だに家庭教師の授業を受けている。

エストリアが落ちこぼれている訳では無い、むしろかなり聡明なことは間違いない。



しかし産まれた瞬間から記憶の継承により、スキルを獲得しているアルヴィスと張り合おうとするのは、さすがに分が悪い。






何しろスキル探求者、これは学習や研究に関する経験、及び習得能率を通常の倍にする効果を持つ。


アルヴィス本人はこのスキルを生まれつき持っているため、このスキル自体に気がついてはいない。



同時にこのスキルもゲーム内では存在しないスキルだ。



獲得条件として、一定以上の思考力と、この世界に換算した場合のIQが200を越えること。




確かにゲーム内では条件の遂行できないスキルである。








「エストリア、お母さんをよく見て。」




クレスタは優しくエストリアの頬に手を当て、目を合わせる。もはや家族崩壊の危機だと言っても過言ではない。

エストリアとアルヴィスは共に大事な子供であり、当然そこに優劣などつけられるはずもない。




「エストリアはエストリアのままでいいの。お母さんはね、エストリアに気にしなくていいのとしか言えないわ。でも本当に思ってることなの。」




「……うん。」




「もちろん気にするなって言われても気になるのは分かるわエストリア。だからね、アルヴィスに沢山教えてもらえるように頼んでみましょ?」




「え!?いいの!!」




突如、エストリアは満開の花を咲かせる様に表情が一変する。




「えぇ。今日がダメだったのは危なかったから、これは本当よ。

お父さんやおじいちゃん達は夢中になると加減なんて忘れちゃうもの。エストリアが怪我したらお母さん達は悲しい。エストリアもアルヴィスが倒れて凄く心配したでしょ?」



そこまで聞くと、流石のエストリアでも気がつく。「そっか。」と。



「分かったよお母さん!後でアルヴィスに聞いてみる!」










その後の彼女は打って変わって幸せそうなそれに。悩みが吹っ切れたのだろう、と周りからでも分かるほど。




そしてその夜、夕食の席でこの話が上がり、アルヴィスはもちろん快く引き受けるのだった。

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