第13話 全開II



日曜…

休みたい…って事でどうぞ!







「灯火ーーーーーー大文字!!!」






ゴォォォ!!!!






放射れた炎は突如として膨張。

その形状は宛ら大の字。




出力、火力共にクラスは強化したfirsの中でもかなり高い方だ。

もちろん、咄嗟に発動した訳では無い。レオンとの会話の最中に既に構築を始めていた。






「ーーーッ!!炎剣!!」






グレオンは瞬間的に魔法を剣に纏わせ、高火力の炎上剣を振り抜いた。


が、予想外の威力に、灯火ーー大文字の相殺がほんの一瞬の時間を要した。




身体強化を伴った瞬足、そして跳躍で、僅かにあった距離はゼロになり、大文字の消滅と同時に木刀でレオンに切りかかる。


しかしレオンもまた、それを当然かのように対応して見せた。






「ノックバック!!」






その時、アルヴィスは剣術スキル、ノックバックを発動する。相手が攻撃を防ぐことを前提とし、その条件がクリアした時、受けた対象は後方へと吹き飛ぶスキル。



案の定、木刀同士は接触し、アルヴィスの攻撃は防がれた。


同時に、レオンはその重々しい圧力を受けて弾かれるように吹き飛ぶ。




「ーーーーッ!?」




受け切ったはずの攻撃、それにもかかわらず押されたのはレオン。その事実に目を見開く。





「カルティベイション!!」






しかしアルヴィスの攻撃はそれに終わらない。

畑起こしは桑スキル。木刀を桑に見立ててコロシアムのリングを土に対応させたのだ。


スキルの発動はステップを踏みながら。


振り抜かれた木刀はあっさりリングにぶっ刺さり、その持ち手を軸に、アルヴィスは浮かびあがる。




遠心力を伴って地面と水平に旋回してリングを抉りーーー






ドゴン!!






その力に耐えられなくなった部分が破壊され、リングの破片が無数に空中に浮び上がる。


ここまでほんの2秒。




「喰らえ!!投擲!!」




その破片を、アルヴィスの剣技で、まるでボールをバッドで打つかのように薙ぎ払う。


本来ならまともに飛ぶはずもないそれが投擲スキルを併用する事で、例外なく、レオンを狙って一直線に飛んでいく。






「ーーーチッ、やるなアルヴィス!」






流石の炎城壁であっても、この無数の石の塊を一瞬で溶かすほどの火力は無い。


そのため、レオンはその全てを撃ち落とさざるを得なかった。










その隙に、今のアルヴィスに出来る最強のスキルの発動準備が整う。








その構えをこの場の誰も見た事はない。








前屈みになり、目を伏せ、木刀は腰に添えられている。木刀はまさに、鞘に納められた刀に様を変えたが如く。



レオンも直感で気づく。


次の攻撃は気を張らねば、と。










ふぅ、と細く息を吐きーーーー






「抜刀……」






ーーーー刹那、リングにクレーターが生じ、その凄まじい速さは息をつく間もなくレオンとの距離を詰めきった。




「来い!!」




しかしその速さ程度ならばレオンも遅れを取らない。




「ーーーー龍牙一閃!!!」










が、レオンの見通しは甘かった。


その剣閃はレオンの炎を突破し、木刀を真っ二つに貫通。


そしてそのまま胴に、左下から右上にかけての傷をつけていた。




「ーーーッ!!」




その場に鮮血が舞う。








が、やはりアルヴィスとレオンには格の違いがある。




その傷は、先のランスオブアースでのモノよりは深いものの、戦闘という点ではやはり全然足りていない。








アルヴィスも内心で毒づく。


想像通り、今の俺ではこの程度か、と。






本来、抜刀ーーー龍牙一閃 は必殺技などでは無い。寧ろ普通の剣技の型の一つでしかない。


しかし、様々な点で熟練度が足りていない今のアルヴィスにとって、それはかなりの負担を被る。






骨の軋む音、筋繊維が切れる音、そして身体の悲鳴。

幻聴さえ今にも聞こえてきそうな、そんな状態。








が、それよりも、勝てずともここで終わりたくない、一矢報いたい、そんな気持ちが心を支配していた。


既にレオンからすれば、一矢所では無い報いを受けている気分なのだが、そんなことは関係ない。








アルヴィスは、そのガタツク体に鞭を打ち、退くのではなく、前へ足を進める。




「そろそろ終わりだ、よく頑張ったアルヴィス。」




そう言って拳を振り掲げるレオン。








しかし、彼の根性はこんなものでは無かった。






「しゅん、そ、く!!」






距離が近すぎて、今度はアルヴィスがまるで消えたかのように見える。


それでも背後からのアルヴィスの攻撃に余裕を持って対応してみせた。






一方でアルヴィスの剣撃も止まらない。


既に万策尽きたこの状況、高速でレオンの周囲を移動しながら止まることの無い剣閃を放ち続けるしか手段はない。


とは言え、それももう限界なのだが。
























そんな時、ほんの一瞬、アルヴィスの攻撃に隙が生まれた。


が、「……え?」と声を洩らしたのはレオンではなくアルヴィス自身だ。




もちろんレオンもそれを逃すはずもない。




「アルヴィス、気が抜けたな!」




レオンの右手には炎が纏う。


そして繰り出される拳はアルヴィスを捉えーーーー






「ーーッ!?」






ーーーーなかった。


そこにいるのに、捉えられなかった。




シャドウ、階級の低い魔法も要は使い方次第。アルヴィスは咄嗟にこの魔法を行使して仕切り直しに持ち込んだ。




が、それもギリギリである。かなり辛そうな表情をしており、ほぼ無呼吸運動を通している。魔力も体力も底を尽き掛けている。








ーーーしかし、それでもアルヴィスは押し通す。








パンッ








仕込みは完璧。


レオンの背後でシャボン玉が割れる。


咄嗟に構築した幻覚魔法、夢魔。レオンはこれに気づくことができなかった。






しかしアルヴィスの今回の幻覚魔法は不完全、リソースを戦闘に割きすぎていたからだ。




もちろんアルヴィスもそれは分かっていた。

事実、レオンの視界にはノイズが走り、直ぐに幻覚魔法にかかったことを悟ったのだ。







ただ、レオンがこっちに戻ってくるまでの一瞬の時間は稼いだ。








「一太刀!!」




アルヴィスはスキルと共に木刀を振り下ろーーーー






「ーーーーッ!!フレアバースト!!」




レオンもまた想定外だった。

まさかここまで追い詰められるとも思っていなかったからだ。


一瞬とは言え、幻覚魔法で意識を失ったのだ。今まで張りつめていた緊張感が絶たれ、身体強化や炎までもがきれた。




故にレオン、今度は逆に加減を間違えた。そう、咄嗟のことに最高火力を出してしまったのだ。






「ーーーーッ!!」






木刀より早くレオンの炎の拳が自分に到達する、それは一瞬で分かった。


完全にアルヴィスの想定外である。






「魔力結界!!カウンターシールド!!」




反射的にアルヴィスはその木刀の腹で炎を纏ったレオンの拳を受け止める。


結界魔法と盾スキルの同時発動でアルヴィスが対応するーーー








バギィィィン!!








結界はガラスのように、木刀は玩具のように、いとも簡単に粉々になる。


迫り来る炎を纏った拳、アルヴィスはその最中に、寸前で防御スキル、堅の発動に、奇跡的に間に合った。






しかしそれでも、レオンにとってみれば、取るに足りない紙耐久。アルヴィスは叩きつけられる形で吹き飛び、転がる。








「し、しまった!!アルヴィス、大丈夫か!!」






加減のミス、レオンは相当に焦る。




「治療班待機してるな!

今すぐ処置をたのーーーー」




レオンの言葉が詰まる。

理由は単純、アルヴィスが立ち上がろうとしているからだ。




四つん這いになり、肩で息をする。


口からは血を流しているが、アドレナリンで高揚した彼には大した事ではない。


耳鳴り、目眩、幻視、発熱、そんな症状さえ意に返さない。






ゆっくりと、ゆっくりと立ち上がり、ふらつきながらもレオンへと視線を飛ばす。






「ま、まだ!」




荒い息をそのままにアルヴィスは訴えかける。ここで終わる訳にはいかない、そう目が語っていた。








なぜなら今、あの瞬間に、自分の限界を超えたのだから。








「ダメだ、その状態ではーーー」




「と、うさ、ん……これが、最後だよ。」




右手を突き出し、体勢を低くする。


アルヴィスは既に戦闘態勢、こうなると最早止められない。




そのアルヴィスの真剣な目に当てられ、レオンは了承する他なかった。




「分かった。」




レオンは医療班を控えさせて、アルヴィスに承諾する。






「気を、つけてね、今まで、で一番の、攻撃にな、ると、思う、から。」




アルヴィスは身体強化を制御可能レベルから逸脱させて解放し、ただでさえ反動の大きい 一点衝波を構える。






スキル精神統一による自己修復速度の加速も、短時間では微々たる効果だが、それでもないよりはマシ。






一方で、レオンは本気の防御を展開する。

とは言っても身体強化だ。

が、さっきまでとはその強度は段違い。


守りだけならば本気を出しても問題は無い。








「行く、よ、父さん!」




「来い!!」




























刹那、アルヴィスが消えた。


と、同時にレオンは吹き飛んでいた。










ドゴォォォン!!!








「ーーーッウァァァ!!」




アルヴィスは元々レオンが立っていた場所で、身体中に駆け巡る痛みに耐えきれず悲痛の叫びを上げてーーー








バタン……








ーーーそれを最後に気を失った。














何が起きたのか、それは別に難しい事ではない。アルヴィスはレオンの元まで行って殴りつけた、それだけ。


しかしそれがあまりにも速すぎて、レオンでさえ捉えられなかっただけ。






さらに許容オーバーの身体強化に速さの上乗せ。






それは凄まじい攻撃力に成り代わる。




が、代償は軽くはない。


アルヴィスが一点衝波を放った右腕からはかなりの血が流れている。


骨にヒビは入ってないが、それも最早奇跡的、まさに紙一重としか言いようがない程の差。




本来ならバラバラに折れていてもおかしくなかった。








しかし、何故アルヴィスは突如、ここまでの速さを手に入れられたのか。


それは戦闘中にスキル瞬足の昇華が起きたからである。




レオンに殴りつけられるキッカケにもなったあの瞬間だ。


スキル名は瞬歩、一定の距離を、タイムラグを殆どゼロにする。どちらかと言えば瞬間移動に近いほど速い。






あの時アルヴィスが「え?」と戸惑ったのは、こんなにも速く瞬歩が手に入るとは思ってもなかった為である。










「ッテテ……マジかよ、見えなかった。」




と言うか本気の身体強化じゃなかったらマジでヤバかったかも、とレオンも心中で肝を冷やす。




「キッつい一撃だった……我が子ながらこれで4歳なんだから末恐ろしい。」




へへへ、と笑うレオンの顔にはかなりの疲れが見て取れる。


まさかここまでとは、それがレオンの感想だった。






「医療班!アルヴィスの治療を頼む!

それと、今日の模擬戦はこれで終了だからお前らも帰ってくれ。

土魔法の使い手達には悪いが整備は頼んだぞ!」




レオンは埋まっていた壁から抜け出して指示を飛ばした。




と言うのもこの場にいるのは全て彼の部下に当たる。


アルヴィスがオーガを単独撃破した、そんな噂が職場内で一瞬で広がった為に模擬戦をする話が出た時点で、レオンの部下達がそれに興味を示さないはずも無かった。




コロシアムでの模擬戦という現状が出来上がった理由はこれである。










「全く、無茶しやがって。お父さんはお前の今後が心配だ。」




アルヴィスに向かって困り顔でそう呟いた。




◇◇◇




時は遡る。


アルヴィス、レオンとコロシアムの前で別れた母のクレスタ、付き人のシュラナ、姉のエストリアの3名は観客席へと向かう。




観客席はガラガラだが、寧ろ一人もいないわけではない。身内の話だと言うのに、そこには百人を超える騎士達が雑多に座っていた。




そして、そこには既にレオン、クレスタの親、つまりはエストリアとアルヴィスの祖父母が座っていた。




「おお、来たか!」




「ガッハッハッ!待ちわびたぞ!」




「お爺様!お久しぶりです!!」




「エストリア!大きくなったな!」




「全くだ!ほら、こっちに。」




爺同士、そして婆同士は共に関係良好であり、とても仲は良好。それは、それぞれが戦場を共に駆け巡った旧知の仲であったからだ。


エストリアは祖父の二人に呼ばれて向かうが、それより先に祖母の二人に挨拶してハグを交わす。






「久しぶりねクレスタ、それにシュラナちゃん。」




「あら二人とも、また美しくなったんじゃない?」




落ち着きのない面々とは対照的に、その一方で祖母達は淑やかである。貴族としての模範的な振る舞い。




シュラナは後ろに控えて頭を下げ、「ご無沙汰しております、ですが私に限ってはそんな事ありません。」と返答する。


そしてその返答は概ねクレスタも同じだった。




「私もよシュラナ。それに最近は雑務も多いし心労も色々あるしね。」




「え?そうなの?能天気なあなたには珍しい。」




「クレスタちゃんが心労ね。」




クレスタの母親ステイラは開口一番にクレスタを能天気呼ばわり。


だがいつもの通りであるためスルー。


他方、レオンの母親のセルタナも意外そうな面持ちである。




「えぇ、そうなんです。最近アルヴィスが張り切りすぎてて……」




「「あぁ、なるほど。」」




二人は得心がいったようだ。












そんな時、コロシアムのリングにアルヴィスとレオンが現れる。



クレスタやシュラナなどの心配が強い一部を除いて、誰しもがその二人の模擬戦を楽しみにしていた。






4歳でオーガを単独討伐、本来ではありえない称号。そんな領主の息子が、父親相手にどんな戦い方をするのか。






気にならないはずはなかった。








「アールーヴィースぅぅ!!」




「レオンなどやっつけてしまえぇ!!ガーハッハッハ!」




「頑張れぇぇ!!」




そんな声援を飛ばすのは爺達とエストリアの三人。


その横では婆達、そしてクレスタとシュラナがアルヴィスに手を振る。




それに気づいたアルヴィスも手を振り返した。


















そうして、想像を超えたアルヴィスの実力が、ここにお披露目される。




史上最強の4歳児が、今、大暴れする。


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