第11話 飯!




翌日、今日も今日とて庭での修行に明け暮れた俺。相も変わらずシュラナさんは俺に付き添ってくれてる。

何をするのでもないけど、安全上の問題だとか。流石は使用人でございます。



昨日の家族会議の結果、俺は週に2度の外出許可を勝ち取った。もちろん護衛をつけて、という縛りはあるが、これはもう大金星だろう。






「よし!今日はこれで終わり!」




「あれ?いつもよりもかなり早いですよね。アルヴィス様、まだ2時ですよ。」




「まぁね!」




実を言うと、アルヴィス最強への道、第二関門は既に通過している。



第一関門は操術スキルの獲得。

そして第二関門が身体強化の獲得。



まさか一年以内にここまで来られるとは思いもしなかったよ。もう少し、具体的には2、3年くらいかかるものだと思ってたから。



ここからは魔力量の底上げと上位スキルへの昇華が目標になる。

魔力量の底上げは別に日中じゃなくても出来る。時間を気にしない分、この修行はいつもより格段に厳しくしてくことになるだろう。




そしてスキルの昇華についても、急いだところで仕方がない。

確かにすぐに出来ることもあるが、一方で戦闘系統のスキルはある一定レベルで尚更上がりにくくなっている。


つまり、戦闘系スキルは、自主練では熟練度が一日に1しか伸びない所を、戦いの中では30上がったりするのだ。




目安だけど。




要するに短い時間で最低限の熟練度を稼いだら、他の上げやすいスキルに時間を割く方がよかったりする。










例えばーーーそう。


料理とか。





◇◇◇




「ち、ちょっと待ってください!」




現在、絶賛引き止められ中。


誰にって?もちろんシュラナさん。


何でって?俺が料理を作るって言い出したからです。



「何でなの!俺すっごい料理思いついたんだ!」



嘘である。

ただ懐かしの地球産料理が食べたくなっただけです。




「ダメです!アルヴィス様に包丁は危なすぎます!」




「んんんーーーー!!!!」




俺は頬を膨らませてシュラナさんを威嚇するが、どうやら全く効果がない。




「ダメなものはダメでーーーーー!!?」




「突破ァァ!!」




俺はスキル疾走を発動してシュラナさんを追い抜き、キッチンへとダッシュ。




「ちょ、とぉぉ!!アルヴィス様ぁ!!それはずるいですよ!!!」






俺は何も聞こえてませーん!




◇◇◇






シュタァァ!!






バン!






キッチンの部屋前で、まるでスケートリンクを舞うかのように足を滑らせ、そのままドアを開ける。




「あら、アルヴィス様じゃない。どうかしたの?」




ここの料理長はマッチおばさーーーー




「何を失礼なこと考えてる?」




「い、いえ!!滅相もないです!」




ーーーーその位の年齢と言うだけだ。これ以上は何も言うまい。






「で、何しに来たんだい?」




「俺も料理を作りたいと思ったんだ。料理道具一式貸してください!」




「アルヴィス様が?」




怪訝な表情やめい!


俺だってそこそこ料理はできるんだし、料理人スキルが出たらすっごい美味しい料理も作れちゃうんだからね!?




「シュラナはなんて言ってるんだい?」




「……逃げてきました。」




「ハッ、なるほどね。じゃあ貸す訳には行かないね。」






やっぱりな。


ま、シュラナさんが俺の世話役だから仕方ないと言えばそれまでだがーーーー






「あれ?」




ーーーー視線の先には、様々な料理器具が布で巻かれて置かれていた。マッチさんはそれを察して。




「あれは新しい包丁さ。アルヴィス様には絶対に触らせられないね。」






が、それは逆にーーー






「なら、入れ替える包丁があるはずでしょ?家のことだから結構ボロボロまで使って、もう使えなくなってるんじゃないの?」




「ま、それなら確かにあるけど。どうする気だい?」




「それでいいから貸して?切れ味悪いならいいでしょ?」






マッチさんは大きく、はぁ……とため息をついて首を振る。






「……ケチ。」




口を尖らせて頬をふくらませる。

こうなったら刃物は自分で作るしかないか。



ま、どうせ魔法の制御訓練も魔力量を増やしたらしようと思ってたところだ。

ちょっと前倒しになっただけ。




「マッチさん!俺、またここに来るからその時は厨房の隅、貸してよね!」




「はいはい。何しにどこに行くかは知らないけど、それくらいならいいよ。」




イタズラ気な笑い。


マッチさんは俺が、どうせ何も出来ないと、そう思ってるに違いない。








俺は一言、「約束だからね!」と言い残して調理室から飛び出した。




















その1時間後、俺はそこへと戻ってきていた。




「……なんだい、もう来たのかい。」




「約束だよマッチさん。厨房貸して!」




するとマッチさんは、やれやれ、と言わんばかりの仕草と共に「分かったよ、使いな。」と。






この世界にはラクリマ、という便利グッズが存在する。特殊な宝石に魔力を付与する事で、決まった魔法を自動発動させられる代物。



故の冷蔵、冷凍庫の概念。



俺は冷蔵庫も冷凍庫も開けて中身を確認する。


一通り目を通して。








「よし!決まったな!」






作る料理は決まった。





◇◇◇





作る料理はカレー。

それと、少しミスマッチではあるが、天ぷらも。




野菜の方にはポテサラ。


マヨもカレー粉も天つゆもないけど、作れないことは無い。


何せ家は貴族、調味料、香辛料は潤沢なのです。




え?でもその作り方知らないだろって?




実は、それがそうでもない。

ゲーム内での特殊イベントで調味料から作るものがある。ゲームにおいて食べ物は基礎体力を上げたり回復させたりするのに必須品。




中でもそういう特殊イベントで作る食料はコスパも最強。




それに作り方も地球でのそれとは違う。

この世界には地球産の料理は存在しないが、この世界の材料での代替が可能であり、別に作れない訳では無かったということ。



つまり、今、俺の家に貯蔵されてる物を何やかんやすれば出来てしまうのだ。










という訳で、ちゃちゃっとマヨと天つゆを作ってしまい、フライパンに火をかけてカレー粉もどきも先に作製。


久しぶりの料理に要領が悪く、なんと2時間もかけてしまった。




「な、なんなの、これ?」




マッチさんの困惑などはさておき、俺は懐から包丁を取り出す。

もちろん鉄ではないし、ステンレスなどそもそも存在すらしない。




「……木?」




そう、マッチさんの言う通り、この包丁の材質は木なのだ。


さっき丁度いい木を見つけて、風魔法で象ったもの。出来は自賛する程ですっごく鋭利。



「まぁ見ててよ。」



俺は、ニシシ、と笑う。


確かに、鋭利だとは言っても所詮は木。

しかしそこに俺のスキルが挟まることで材質なんて関係なくなるんです。






まな板の上には解凍されてない肉の塊。

あと、キッチンの横にはアグロブースタという海老に似た食材と種々の下処理済み野菜達。






まずは凍った肉の調理から。俺はさっき自分で創ったばかりの木の包丁を射し込む。

木、にも関わらずかなり切れ味はよく、あっという間に切れてしまった。


流石は操術スキル。まだまだ熟練度は低いためわざわざ包丁型に木を加工する必要があったけど、それでもこのくらいの成果が出るなら御の字だろう。




「これなら行けるな。」




一瞬のうちに全神経を集中させ、脳内で切り方をシュミレート。


刹那、俺の稲妻の如き速さの剣閃が肉を細切れにした。




様々な道具を高い技量で扱えるスキル、操術は伊達じゃないってことだ。






「ーーなッ!?う、嘘でしょ……」






さて、次は野菜。


プカッと水の塊を出して空中でまな板と木の包丁を洗いーーー












タタタタタタタタタタタタ










自分でも驚いてる。テレビで見たことあるよ、この光景。

野菜を切る速さが尋常じゃない。まるでどっかの一流シェフみたいなんだが……




マッチさんは、最早呆然である。




とまぁ、こんな感じで、カレーは煮込むだけだし、ポテサラはぶち込んで混ぜるだけ。


天ぷらも揚げるだけです。




という事で解凍のお時間。




俺は凍っていた海老もどきと牛肉もどきに触れる。






フシュュュ






解凍なんて魔法で十分。


本当ならこんな溶かし方は良くないんだろうけど、今回はカレーだし。


どうせ水の中に入るんだからいいよね。






「……そんなの有りなのかい。」






あと、熱の通りが悪い野菜も熱しておくが吉。ついでだし、ね。


そんなこんなでカレーには肉、人参、玉ねぎ、等などを投入して煮込む。




その裏でジャガイモも、ほっかほかにしてボウルにぶち込み、予め用意してた温泉卵と一緒に混ぜ混ぜ。


塩コショウを振りつつマヨネーズも豪快に。さらにその中に新鮮生玉ねぎの細切りも入れて、あとは味見。




「うん!意外といける!」




とまぁこんな感じでさらに一時間。


夕方6時を回った頃に、ようやくそれらは完成した。




でもやっぱり、天ぷらは出来立てが美味しいんだよね。油の用意はしてるけど、まだカボシャも海老もどきも、かき揚げ風の何かも待機中。




「マッチさん、俺は今から風呂に入りますので、この火、見ててくれたら嬉しいんですけど。いいですか?」




何だかんだでマッチさん、最初から最後まで俺の料理を見てたな。

と言うか、なんか知らない間に人が増えてるんだが?




もちろん料理人の方々だけども。




ところで厨房の皆さん、もう5時だよ?夜ご飯の時間は大丈夫?




「あ、あぁ。分かったよアルヴィス様。」




マッチさん、顔が引き攣ってますよ。




「ということでマッチさん、もう包丁使っちゃったし、次回からはちゃんとした包丁、貸してくださいね。」




「ハ、ハハハ……」




マッチさんの返事が煮え切らない。


ま、いっか。最悪また木の包丁使えばいいだけだし。








バタン






と、その時、ぐったりしたシュラナさんが大きなため息と一緒にここへと入ってきた。




「ぁぁ、どうしましょう……アルヴィス様が一向に見つかりませーーーん?」




「どうしたのシュラナさん?」




「あ、あ、アルヴィス様ァ!!」




と、がっちり捕まってしまった。




「もう逃がしませんよ!」




「な、ちょっ!!」




俺は身を捩らせるけど3歳の力では話にならないのである。身体強化も制御が甘い今ではシュラナさんに大怪我させてしまうかもだから無理。




「シュラナ。」




「え?マッチさん、どうしましたか?」




するとマッチさんまで、はぁ。とため息をついて一言。




「もう、後の祭りだよ。」




「え?」




クッ とマッチさんが背後のキッチンへと指を指す。シュラナさんもそれに釣られて俺の拘束を止めて覗き込んだ。




「うわっ!いい匂い!こんなの初めてです。なんて言う料理なんですか?」




その問いにマッチさんが。




「その子の考案だよ。」










「な、何かの冗談、ですよね?」




そうして狼狽えるシュラナさんにマッチは応える。




「アンタはアルヴィス様と入れ違いでやって来たでしょ。その後この子を探しに行ったけど、すぐに戻ってきたのよ。自分で木を加工して包丁を創って。

それからは一人で黙々と。で、この有様なの。」





「そ、そんな……自分で包丁まで作ったんですか!?」




バッと振り向くシュラナさんに。




「風魔法で、ね。次は食材を風で細切れにできる気がするから試してみるのもいいかな?へへへ!」




「やめてください!!そんな事したら厨房がバラバラになっちゃいます!アルヴィス様の魔法は異常なんですから!!

もう、包丁使っていいですから!」






俺はガッツポーズ。

ま、実を言うと、ちょっと前にスキル料理人は獲得したらしいけど。










「ところで……」




頭を抱えるシュラナさんにそれを見て苦笑いのマッチさん、その他の人達は俺達のことより俺の作った料理に目がいっていたのだが、ここで俺は爆弾を投じる。




「調理のほどは大丈夫ですか?」




空気が凍る、そんな気配に襲われたね。


だって俺の料理に夢中で何も作ってない状態。言わば仕事の放棄に等しいもん。




みんな揃って蒼白だよ。






「どうしよ!!」


「やっちまったよ!」


「ダメだ!今からじゃ間に合わねぇぞ!」


「……俺達、クビだよな。」






マッチさんもこれには焦りの表情。


ま、ここはスーパー4歳児に任せな!


……とは言うものの、原因の一端が俺にあると言っても過言ではないからな。






「なら、今回は俺の料理を出してもいいですか?父さんと母さん、それに姉ちゃん、シュラナさんにも食べてもらいたいんです。

もちろん、適当な理由をこじつけておきます。あと、味見程度なら多分皆さんにも廻りますよ。」






あえて一歩下がった提案。やはり相手もこの方が賛同しやすいでしょ。


駆け引きは大事なのです。






「……すまないねアルヴィス様。」




「いいえ!お構いなく!

あ、でもまだ調理も残ってるので、置いててくださいよ。それじゃ俺は風呂行ってきまーす!」




半ば強引に退場する俺。


このままだといつまでも話し込んじゃいそうだからな。





◇◇◇





風呂から出た俺は天ぷらを揚げ、トッピングしていく。平たい皿にカレー、その横の皿にはパン。またシソのような葉を添えたかき揚げ、カボシャ、海老風天ぷらは別の皿に。


あとはポテサラと天つゆの皿をそれぞれ添えて。




かんせーい!




この世界に米はある。


が、ゲーム通りならこの国での流通はない。残念だがパンで代用だ。




「それじゃ、配膳はお願いします!」




「は、はい……」




歯切れの悪い返事だが俺は気にせずダイニングへ。

その最中、背後で、「美味そ……アルヴィス様は天才かよ。」、「だな、俺も食いてぇ。」とか。






明日にでも使用人みんなの分作ってあげよっかな。




◇◇◇





「「「何、これ。」」」




父さん、母さん、姉ちゃんの反応が被った。シュラナさんは一度見てるためそこまで大きい反応はしてない。




「この茶色くて……スープみたいなやつ!めっちゃいい匂いだよ!」



「見た事ない料理ばかりね。馴染みと言えばパンぐらいよ?」



「まさかとは思うがアルヴィス……」




姉ちゃんと母さんの率直な感想に父さんが続く。もちろん、俺は胸を張って応えたよ。




「そう!俺が考えました!へへーん!」



「アルヴィスすごーい!!さっすがはお姉ちゃんの弟だね!」




父さんも母さんもシュラナさんもこれには困り顔をするだけで厳しい言及はなかった。








という事でフォークで一口目。




「んんん!!」



「えぇ、すごく美味しい。」



「……お、美味しい……」



「確かに……これは凄いな。サクサクとモチモチ、と言ったところか。」




最初に天ぷらを勧める。


基本、カレーはとんでもなく味が濃いから、やはり美味しく食べてもらうには天ぷらから、と思ったんだ。

だってカレーに比べれば天ぷらは相対的に薄味になるもんね。


なぜフォークか、と言うとそれは単純に箸が存在しないから。






それにしても姉ちゃんの、頬に手を添えて喜んでる表情は絵になるな。






「本当は、天ぷらはこの皿にはミスマッチだと思うけど、作っちゃったから一緒に出しちゃお、って思ったんだ!」




そして俺も一口。


サクッとしたころも、フカフカなカボシャに引き締まった海老、そして熱々のかき揚げ。




最高としか言いようがないね。


あと天つゆも優秀だよ、ホント。










その後はそれぞれの早さで食が進む。


地球でカレーもポテサラも超人気王道料理だ。


皆に刺さらないはずが無かった。






「このポテトサラダっていうのも美味しいよ!リタァと一緒に食べるとシャキシャキでもっと美味し!」




姉ちゃんはポテサラがお気に召したらしく、食べ終わってないのにおかわりを要求するほどだ、


ちなみにリタァとは向こうで言うところのレタス。確かにレタスとポテサラは美味いからな。




「一体、これ、どんな調味料使ってるのかしら。」




「わ、私も気になります!」




「じゃあアルヴィス、もし良かったらお母さんとシュラナに教えてくれない?」




という事で明日は母さんとシュラナにレクチャー予定が入った。


丁度いいタイミング。どうせマッチさん達にも教えるつもりだったし、使用人や警備騎士の皆さんに賄いも作るつもりだったから。


日頃の感謝を込めて、ね?


決して迷惑代などではありません。

そう、決して。












そんなこんなで今日の夕食も楽しんで頂いたんだけども。



「アルヴィス、悪いが3日後は予定を空けておいてくれ。」



ダイニングを後にしようとした時、父さんからそう告げられた。



「どうしたの?」



すると父さんはニィッと口角を上げる。














「お父さんと模擬戦をしよう。」








どうやら俺の実力が知りたいらしく、ちょうど休みを取れる時間が3日後だと言うことだった。




俺の返事?




そんなものは、問われた瞬間から決まってたよ。

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