第9話 異端Ⅲ


前書き!

お勤めご苦労様です。全国のお仕事されてる方々に感謝を!









ほんの2分。

来た道を戻り、ゴブリンの集団に追いつくまでの時間だ。


アルヴィスの速さならあと5分は要していただろう。


これだけでも父、レオンとの差が目に見えて窺い知れる。が、アルヴィスはこれに対して何も気にした様子はない。

終始そのレオンの速さに歓喜の声を上げ続けていた。





「ゴブリンだと!?」




森を抜け、レオンは視界に捉えたその光景に目を疑う。普段森から出てくることないゴブリンが、どうしてこんな所に、そう思わずには居られない。



彼はアルヴィスを捜していてその集団とは入れ違いになっていたため、この事態を知らなかったのだ。




「多分ゴブリンの集落にオーガが進行したんだよ。だから逃げてここまで出てきたんだと思う。」




初め、アルヴィスのオーガ発言を聞いたレオンは、まさかそんな事があるはずない、と考えた。


何せ周囲を見渡してもオーガらしきモノは見えなかったのだから仕方ない。




が、こんな事態になっていると話は違ってくる。


オーガ、とは断定できなくても何かが森で起きた、と考えるのは自然だ。










ザッ!!








レオンはゴブリンの前へと回り込む。


気づけば、正面からは外れたものの、レイティアの周りまで戻ってきていた。



ゴブリンの団体もレオンの出現に足を止める。




「父さん、降ろして!」




「いや、まずはゴブリンの処理からーー」




「ーー待って!俺に任せて!」




ゴブリンは飽くまでも魔物の一種、逃げて来たとはいえ生かしておく道理も、本来ならない。



が、アルヴィスはそんなレオンに静止を呼びかける。

レオンも今回ばかりは約束もあるために、あまり強くは言えないのだ。




まさかアルヴィスがとは思ってもなかったから当然ではあるが。










アルヴィスは二歩、大きく前に出て、そして僅かに、しかし相手を牽制できる程度の魔力を体表に纏わせる。






ーーー!!




するとゴブリン達はアルヴィスとレオンを警戒を更に強めながらも徐々に引いていく体勢を取り始めた。






「おいおい、ゴブリンが退いていくって……マジか。」




「ま、これで大丈夫だと思うよ。」




「アルヴィス、何をしたんだ?」




「簡単な事だよ。父さんはこの辺の魔物は比較的街へ進行してこないって言ってたでしょ?」




「あ、あぁ。」




「俺が思うに、きっと一部で知能が高めの魔物が統率してるんだ。互いの領分を侵さない、これは普通の魔物じゃ出来ない事だよ。

だからちょっと威嚇をね?実力差くらいはわかるんじゃないかなって思ったから。

折角生き延びて逃げて来たのに、ここで殺されるなんて可哀想だよ。」




「な、なるほど……?」




とは言ったものの、レオンにその発想はなかった。




レオンは森へと寄っていくゴブリンの集団に視線を飛ばす。それは人間で言うところの難民に近いものだ。


普段なら処理している。当然、魔物の侵攻など害悪でしかないからだ。

しかし時に、こういう発想も有るのだと、レオンは新たな学びを得た。





「ところでアルヴィス、どうしてここに近づいているのがオーガだと思った?」




「そりゃ、俺の感知に引っかかったから。」










感知?


そう思い、口にしようとした瞬間、それは姿を表した。














ドガァァ!!!










木々をなぎ倒し、森から現れたのは体長3mを越える巨体。赤みを帯びた肌、額から浮かぶ2本の黒角。




「嘘だろ……マジでオーガじゃねぇか。」




「……来たか。」




アルヴィスはそう言うと大きく息を吸って、そしてゆっくりと吐く。





レオンはそんなアルヴィスを横目に見た。その手は少々震えている。

アルヴィスは戦闘がしたい、とは言ったものの、怖くないとは言ってない。


むしろ初戦闘、怖くないはずがない。






「どうしたアルヴィス、震えてるぞ?さっきまでの威勢はどこに行った?」




レオンは口角を上げて浮かべた笑みをアルヴィスへと送り、向かい合う。




「怖いか?」




「いや、武者震いだよ。」




もちろん怖い気持ちはあった。日本で生まれ育った記憶を引き継いだ彼の初めての殺し合いなのだから。



それでも、これを越えなければ、いつまで経っても次のステップには進めない。


いずれ、この世界の人間ならば踏み込まなければならない状況。






ならばーーー








「ーーーここで超えるのみ!!」








アルヴィスは走り出した。














グォォォ!!!!






森から出てきたオーガの視線が最初に捉えたのはゴブリンの群れだ。



オーガは襲いかかり、ゴブリン達は逃げ惑う。そしてオーガはその手に持っている棍棒を掲げーーーー








ーーーー!!!!








停止した。




ゴブリン達も何が起きたか理解が追いつかずその逃げを一時的に止めてしまう。



「どうだ、効くだろ!」



オーガは膝を付き、棍棒を振り上げた左腕もそのままダラりにと力が抜けたように地面へと下ろしてしまう。








そのオーガの左腕と左腿には木の串が一本ずつ刺さっていた。



スキル釘縫い、自分の魔力を物体に纏わして敵に刺すことで、自身とは性質の違う魔力が流れ込み一時的に筋肉を硬直させるスキルだ。



そしてこれには長い効力はない。


が、戦闘においてはほんの少しの停止は命取り。




「せりゃぁ!!」




アルヴィスの飛び蹴りが、オーガの顔面を脆に捕らえた。


4歳児の蹴り、もちろんだがそれはオーガにとっては羽虫ほどの感覚。体格の差からもそれは言うまでもないだろう。



事実として、アルヴィスの蹴りはオーガにダメージを与えられない様子だった。














が、次の瞬間。








ドガァン!!!!








時差を置いてオーガはダメージを受け、宙に浮き、数度バウンド。




これは体術系スキル、殼衝乱波。


攻撃の衝撃を増幅させ、相手の身体全身へとその波を波紋させる。その上で確定ダメージを入れられる優れもの。



「さて、始まりのゴングだ。」



そうしてアルヴィスは地面に這い蹲るオーガに、宣戦布告するのだった。




◇◇◇




アルヴィスが駆け出したほんの少し後、シラを筆頭としたレオンの部下が追いついた。


それはまさに、アルヴィスがオーガという巨体を数メートル吹き飛ばしたシーンだった。




「おいおい、あんな小さい体で……」


「どうなってんだよ。」


「オーガって宙を舞うのかよ?」


「いや今、なんか変な飛び方してね?」




そんな反応の騎士。


一方でシラはそんなアルヴィスの事が心配であった。






「レオン様!!息子さんを一人で戦わせて大丈夫なんですか!?」




「いや、正直俺にも分からん。」




「ならば加勢に入るべきでは!」




その問いにレオンは唸る。


いま、アルヴィスは地に伏したオーガと睨み合った、均衡状態。しかし間もなく戦闘が始まる事は自明。






「シラ、俺も加勢に入るべきだと思う、本来ならばな。」




「それは、どういう?」




「魔物との戦闘がしたい、アイツは朝、そう言い出した。そして騎士達から逃れ家から出れたら許すと、そう約束した。

アルヴィスもまだ4歳だ。だからこれで問題ないと思った。

が、想像とは裏腹に、アイツは家を飛び出し、あろう事か役所まで来てしまった上に、俺でさえアルヴィスを捕まえられなかったんだ。」




「ま、まさかレオン様が!?」




「今回、俺がこうして側にいる。危険だと判断した時点で割ってはいるつもりだが……それまではお手並み拝見と、垂れ込むつもりだ。」






シラは難しい表情のままレオンからアルヴィスへと視線を移す。


まさにオーガが身体を起こそうと捩っている最中。




そしてアルヴィスの表情はーーー






「ーーー笑ってる?」




何も分からない子供だとしても、3mを超える巨体とその凶悪な顔面。


その恐ろしさに、当然泣く子も黙るだろう。




歳を経たとしても、その体格差に勝てる気がしない、誰しも最初はそう思う。




しかしアルヴィスはどうだ。






初めて対面するオーガ相手に、薄ら笑みを零している。






「さて、見せてくれアルヴィス。お前の力を。」




レオンのその言葉と同時に、オーガの咆哮が轟いた。












◇◇◇








グオォォォォ!!!!








その咆哮を機に、オーガは手元の棍棒を拾い一歩前へ。


そして全力の一振。




その巨体からは考えられないほど速く、力強い。


そしてアルヴィスを完全に捕らえたーー







ドゴォォォ!!





「ーーーーッガ?」






ーーーかの様に見えたその一振りが命中することはなかった。


アルヴィスの残影、シャドウにまんまと引っかかるオーガ。確かにゲーム内でもオーガのパワーやスピードはそこそこの基礎値を誇っていた。

が、他方でオーガの知能については全種族の中でも最低値に近い。



大きな隙を見逃さないアルヴィスは、振り抜いたそばからオーガへと接近し拳で顔面に二度の殼衝乱波を見舞う。




オーガはまだアルヴィスを甘く見ていた。その気になればすぐに殺せる相手だと。


しかしそれがどうだ、アルヴィスの素早い拳は、ほぼゼロのタイムラグで繰り出され、先と同じく、飛距離はないにしろオーガはまたも宙を舞う。






その光景に魅せられたゴブリン達が移動もせずにアルヴィスを眺めていた。


その間アルヴィスはゴブリン達に再度魔力による波動で睨みを効かしたことで我に返り、脱兎の如く森へと紛れる。






「さて、ここからエンジンかけてくぜ。本気ださなきゃ、あっという間に死ぬぞオーガ。」




身体強化は優秀なスキル。だからアルヴィスも優先して獲得しようとしていたがまだ習得には至ってない。


とは言っても、格落ちするものの代用スキルは揃えてある。






グァァァァァァ!!!






オーガが二足歩行で、棍棒を掲げながらアルヴィスへと迫ってくる。




「今更威嚇程度で、俺がビビるとでも思ってるのか?」





アルヴィスはその場でしゃがみ、地面に両手を着く。






「いくぞ……firs、モーラス。」






刹那、アルヴィスからオーガの範囲までの周囲が水で浸された。


突如として足元に水の侵食を受けたためオーガは驚いたような仕草を見せたが、何も起こらないと見るや否や、アルヴィスへ視線を飛ばし見下したように笑みを浮かべる。






「グォォォォォォ!!!」






咆哮を伴い、オーガが一歩、そしてまた一歩と足を進める。




が、五歩目が繰り出されることは無い。




「ーーーー!!?」








オーガは足元が不自然に沈みこんでいることに気が付かなかった。




モーラスは水系統に分類されるfirsランクの魔法。土との親和性の高い水を発生させ、水溜まりを作り出すことで地面を弛めることで簡単な沼を形成させる効果である。






知能基礎値の低さは感覚にも多少の影響を与える。その為オーガは身動きが取りずらくなって漸くそのことに気がついたのだ。






「嵌れよ。」








グルゥァァァ!!!








オーガは沼から出ようと藻掻くが、その度にどんどん沈んでいく。


しかし底の無い沼ではない。オーガの肩下辺りは完全に沼に埋まっているが、裏を返せば肩から上は普通に大気中に出ている。




安堵の心内を誤魔化そうとしたのか、アルヴィスに対して勝ち誇ったような表情をするオーガ。


しかしその実、オーガは冷や汗を流し、明らかに焦った身振り。もちろん誤魔化しきれてなどいなかった。





が、アルヴィスにとってこの魔法は十分な効力を発揮していた。




瞬間、片手を地面から素早く手を引く。すると辺りを浸していた大量の水がそれに応じて地面から引き抜かれる様に飛び出し、一気に水気がなくなる。


そのせいでオーガの埋まっていた沼は泥へと成りを変え、行動が制限され始めていた。








「灯火!!」






間髪を入れず、本来の灯火の威力などと比べ物にならないほど高火力を備え、そして大人の大きさを超える炎が五発顕現する。


速さは無いものの、それが同時にオーガへと放たれーーーー








ゴォォォォォォォオオオオオオ!!!






オーガは完全に炎を喰らい、周囲と共にメラメラと燃える。


しかしオーガは苦しげに暴れ回るが、それにより周りの固まった地面を徐々に破壊していく。流石はパワータイプと言ったところか。




また、泥水ごとオーガを燃やしているためか、けたたましい怒号と共にじたばたと足掻くオーガのダメージは、多少の水が残っている分少ない。


やはりと言ったところか、この程度の攻撃で倒せる相手ではない。




しかしこの場面での炎の魔法のチョイス。その目標は当然相手へのダメージではない。





アルヴィスはコツンと地面を叩いて、次の一手を唱える。






「リペアリング!!」






グォォォォ!!!






オーガが痛々しい悲鳴をあげる。


地面の亀裂が修復されていき、フラットになっていく。


ただそれだけならまだいい、が、その修復は異物を巻き込む。オーガの肉体を圧迫し、さらに圧迫する。大地が皮膚に食い込み、体のあちこちから流血。




firsクラスの土系統の魔法。本来ならちょっとした段差を修正する程度の威力しかないこの魔法だが、ことアルヴィスにかかればこれほどの効果になる。






「ソリッド。」






そうしてオーガはーーーー






「さて、格好の的だぜ、オーガ。」




ーーー動かなくなった。




否、動けなくなったのだ。








リペアリングによる大地の修復。


これにより確かにオーガの身動きを封じた。しかしこの魔法はあくまで修復の魔法であり、異物が挟まった状態では途中でその過程を停止する。




もちろん修復を強引に続けて圧殺する事も出来るだろうが、今のアルヴィスはそこまでの力量と魔力量を持ち合わせてはいない。




つまり、本来ならばリペアリングだけではすぐに破壊されて拘束などできはしない。








そう、本来なら。








アルヴィスは既に魔法を上乗せして行使している。

階級はfirs、魔法名はソリッド。


初歩で、かつ簡単な土魔法であり、ただ土を固めるだけ。




が、もちろんアルヴィスはその術式も例の如くオリジナルに書き換えており、有り得ないほどの魔法力を発揮している。




その上、この魔法の性質だ。




例えば、砂一つ一つにまで規模を縮小した場合、接触している砂どうしにはより強い魔法的力が働く。




岩や土にも同じことが言える。




魔法行使時に互いの距離が近ければそれだけ大きな魔法的な力が働くのだ。


もっと言うなら、力の強さは別にしてイメージは分子間力の様なもの。








ギィァォォォ!!!








グチャッ!


ブシュッ!!






オーガの埋まっている身体、既に地面の中であちこちから血を吹き出している。


筋骨を肥大化させると、逆に皮膚を、更に傷つけることに他ない。




「ほら、さっさと出てこいよ。まさかその程度で死ぬんじゃないよな?」






オーガは比較的頑丈なモンスター。


この程度で死にはしない、そのくらいは弁えていた。




燃え盛る炎の中、オーガも、このままいけば自分の身体が圧で押しつぶされ、こんがり焼けた挽肉になる事は理解していた。






そして優先順位を変えた。火を手で払うのを止め、力の限り、自分の動きを止めているその地面を殴りつける。


たった一度の殴打で、泥水が固まった地面は大破し、オーガがかなりの血を流しながら出てきた。






それを見てアルヴィスが一言。









「お前、オーガの割に弱いな。」








嘲笑。


言葉が通じずとも直感で理解させる。








グォォォ!!!!






またも叫ぶオーガ。


しかし次はアルヴィスを警戒し、用意には近ずかない。






「来ないのか。なら、こっちから。」






家からずっと使ってきたスキル、疾走を再度発動し、4歳の子供ではありえないほどの速さでオーガへと近づく。




オーガの棍棒は先の沼を作ったモーラスという魔法により、どこかに沈んでしまったらしいが、そんなことはオーガにとってさして困るものでもない。




オーガには、自慢の力があるのだから。








アルヴィスはその繰り出される拳を寸で華麗に避け、間合いに入り込む。






が、その刹那に蹴りが飛んできた。






ーーーガッ!!!






既にアルヴィスは両腕をクロスさせて防御を取っていたが、その体格差のせいで遥か後方のグレオン達のところまで吹き飛んだ。




したり顔でオーガはアルヴィスの吹き飛ぶ軌道を眺める。完全に、有無を言わさない直撃。死んでいてもおかしくないからだ。




しかし彼は空中で態勢を立て直して綺麗に着地、オーガの表情は歪む。






「アルヴィス!」




「ん?何、父さん?」




そしてアルヴィスはまるでケロッとしていた。






アルヴィスは防御の瞬間スキル、堅を発動し、防御力を大幅に上げていた。


少々のダメージは入ったものの、大したダメージでもない。




むしろこの世界での初めてのダメージ、それはアルヴィスが立てていた計画の一つ。


実は、わざとオーガに蹴りを打たせるよう動いたのだ。








「行動パターンはちょっと違うけど概ね同じか。」




そう呟くと、アルヴィスはフゥッと細く息を吐く。




「ちゃんと見えてるし、ちゃんと動けてる。

にしてもこの調子だとあのオーガ相手に魔法を使えば訓練どころか、スキルの熟練度上げにもならなさそうだなぁ。体術オンリーの縛りプレイと洒落込むか。」






距離さえ詰められなければオーガ相手など、遠距離からの無限放火で終わる。


アルヴィスの場合は動きながらの魔法行使が出来るため、イレギュラーがない限り負ける要素など皆無。




そしてそのイレギュラーさえ、今の短い戦闘で、可能性は限りなくゼロに近いと判断できた。






とは言え、それでは当初の、戦闘経験を積むという目的を果たせない。




故にオーガが得意とする近接戦に、アルヴィスは敢えて乗っかることにした。










攻撃にはスキルを、防御にはスキルを、そして速さにはスキルを。




どれも身体強化一つで賄える劣化スキルだが、それも運用次第では化ける。








動き出したのはほぼ同時。




アルヴィスは跳躍し一気に距離を詰め、オーガはそのアルヴィスの軌道から逸れるように動く。




オーガの狙いは落下中。


そこならば攻撃から逃れられない、そう直感したのだ。






拳を握り締め、悠々とアルヴィスを待つオーガだがーーーー




「跳躍。」




あろう事か、アルヴィスは空中で方向を変え、一瞬でオーガの眼前に。






跳躍は中々イカれたスキルだ。


踏み込む対象は別に地面でなくても問題ない。


それが例え、水や空気であってもだ。






その予想外の動きと速さに対応できないオーガはアルヴィスの膝蹴りを顔面へと脆に喰らい、また時間差で殼衝乱波がオーガの身体を駆け抜け、またも後方に飛んで転がる。




オーガは顔面から血を流し、体の痺れも取れないまま、両腕を振り上げた。


既にアルヴィスは近づいてきているからだ。






「ーーー!」






流石にこれにはアルヴィスも目を丸くした。


今まで、明らかに見たことの無い攻撃パターン。オーガは自分と同じように戦闘中に学んでいるのだ。




走りながら、アルヴィスもこの世界がゲームの世界では無いことを改めて実感する。




オーガは先と同じように地面を殴り、アルヴィスを寄せ付けない、が、それだけでは無い。亀裂が入った地面の塊を持ち上げーーーー








ガァァァァァ!!!!








アルヴィスへと投げ飛ばす。


半歩後ろへ下がったアルヴィスは地面に落ちている石を手に拾いーーーー






「ストーンバレット!」






かつ、堅を発動させ、バラバラに砕けた巨大な地面の塊の破片から身を守る。




しかしその奥、オーガがいた場所にはその存在は居なくなっていた。








グォォォォォ!!!!!






もらった!!


そう言わんばかりの雄叫びが上空から聞こえる。


地面の塊を投げた瞬間にオーガは跳んでいたのだ。








しかしアルヴィスにとって目くらましなど一切の効果はない。


スキル Sixth sense で全て筒抜けなのだから。










「流華。」












刹那、アルヴィスとオーガの二人の時間、その秒針が正常から外れた遅い速さで時を刻み始める。






宛ら超人にでもなったかのように。








流華、これは防御用のスキルと判定されるが、実際のところはそんな堅苦しいものでは無い。


流れる様な動きを伴い、相手の力を利用して反撃に出るカウンタースキル。






空からの巨体は重力に従って、拳を繰り出しながら落ちてくる。


アルヴィスはその拳に、流れるように手を添える。それはまるで流れる水の如き滑らかさ。


コンマ5秒後、殼衝乱波の衝撃でオーガの腕がアルヴィスとは反対方向に弾かれ、流れるように回転して放たれた裏拳が、落ちてくるオーガの顔面を捉え、コンマ3秒後に衝撃が走る。




さらにアルヴィスはその回転の流れを止めず蹴りを放つ。





見事に胴へと直撃。





最早、殼衝乱波の伝わる衝撃は0.1秒さえを置き去りにしーーーー








ドゴォォン!!






ほとんどタイムラグなしに衝撃が走り、オーガは撃ち落とされたように地面を転がる。




オーガの最初からここまでの戦闘の有様は、まるでピンボールだ。アルヴィスに入ったダメージはほぼゼロ。












対してオーガはーーーー












グ、グルァァォォォォォ!!!!










「来たか、3割。」






オーガには固有スキルが存在する。


その名を、オーガ


機能は単純明快、ただパワーアップするだけ。




しかしその発動には体力が関係する。


オーガは体力が3割を切ると自動的にそのスキルを発動させるのだ。


言わばパッシブスキルである。








オーガは一歩踏み込ーーー






「ーーーッオモッ!!!」






ーーー次の瞬間、アルヴィスは吹き飛んでいた。




にも関わらず、吹き飛んだ先のアルヴィスの真上には既にオーガがいてーーー








ドゴォォォォォォン!!!






振り下ろされた両腕はアルヴィスを直撃し、続けてアルヴィスはぶっ飛ぶ。全てを、堅で防いでいるとは言えかなりのダメージが入っている。




















しかし、口から僅かに血を流すその顔の表情はーーーー














「俺の、安い挑発に乗ってくれて感謝するぜ、オーガ。」


















ーーーー

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