第6話 母と侍女
あれから1時間、相変わらず俺はSixth senseの制御にリソースを割いている。
が、症状もかなり治まって落ち着いてきた。
一度帰るかどうかの話になったけど、それは俺が帰りたくないと断言。
帰ったところで同じ結果なら自然に囲まれてる方が癒されると、死にかけながらも告げた。
で、今、父さんと姉ちゃんは川に足を突っ込んで走り回ってるけど、残念なことに俺はそこに参加出来てない。
もちろん俺は拗ねてる。
正直俺も遊びたかったもん……
因みにあれから謎の生命体の声は聞こえなていない。
どこに行ったのかも分からない。
ほんとに謎だ。絶対に調べないといけない案件です、これ。
それで今、俺は母さんに膝枕してもらっていて、その横にはシュラナさんが座って一緒に川ではしゃぐ父さん達を見ていた。
そんな和やかな雰囲気が流れる中、母さんの言葉を皮切りにそれは瓦解し始める。
「ところでシュラナ、一度ピクニックの誘いを断ったんだってね。」
ゾッとしたよ。さっきのスキル解放時の寒気と同等だった。
まじ怖い……
「クレスタ様、私は一介の使用人です。私一人だけを贔屓にされては反感を買いかねませんーーーー」
「ーーーーシュラナ。」
確かに今のシュラナさんの言い訳は筋が通っている、が、それが本意ではない事を、俺でもすぐに分かった。
普段は穏やかな母さんの目つきも、この瞬間は鋭くなったのを感じた。
「そんな対外的な事を気にしている振りは止めなさい。」
「いえ、私は別にーーー」
「もう……あなたったらアルヴィスよりも手がかかるわね。」
「え?」
「え!?」
いきなり引き合いに出されて、俺は変な声が出てしまった。対してシュラナさんの反応は薄め。
と言うか俺は病弱だったこと以外迷惑かけてないと思うんだけど?あれ?これは気のせいか?
「この子はあと半年もすれば5歳になるけど、病気や風邪……あと作法の講義以外では殆ど手を妬いてないもの。ね?」
俺は母さんに抱えられ頭を撫でられる。
ほら見よ!俺は手のかからない子供なのだ。
「あなたが家に来て、もう8年。
ずっと私はあなたに助け舟を出し続けたってこと、分かってるでしょ?」
シュラナさんは黙り込んで何一つ口にしない。
話が見えないなぁ、って具合に俺はシュラナさんを眺める。
「私に気づかれていないと、本気でそう思ってるの?」
母さんが更に目を細めて一言。
母さんの瞳は確かに綺麗な一方で、その瞳にはどこか覇気があり、睨まれでもしたら何となく恐怖を感じる。
「……いえ、その……」
口吃り、瞳が右往左往と細かく振動するシュラナさん。明らかな動揺……
にしても隠し事か、となると他貴族からのスパイか何かかな?
ま、そんな事もあるかもね。
「ほら、言ってみなさい。さもなければ今日限りでアルヴィスの世話役を交代させます。」
おいおい、マジかよ。
そんな事ある?母さんの独断でいいのかよ?父さんが蚊帳の外だぜ?
ってか即決だな母さん。決断力エグい。
「そ、そんな!」
「私が一体何の為にアルヴィスの世話役につけたと思ってるの、全く。」
母さんが頭を抱える。
というか母さんが俺の世話役にシュラナさんを選んだのかよ。
そりゃ父さんなんて蚊帳の外だろうな。
「シュラナさん、俺はシュラナさんに使用人さんとしていて欲しいんだ。
お願い、話して?
母さんは優しいからきっと分かってくれるよ?」
何の話かは知らんけども。
「そうね、アルヴィスはいいこと言うじゃない。ほら、こんな4歳の子どもにこんな事を言わせてていいのかしら、シュラナ?」
するとシュラナさんは、「ぅうう……」と顔を真っ赤にしながら呻き、「ずるいですよ……」と半泣きに。
「わ、分かりました、確かに私は隠し事をしていました。ですがクレスタ様、お気を悪くしないで下さい。
私は元よりあなた方リアノスタ家にお仕え出来ることを本当に幸せに思っています。
これは本当です。」
「えぇ、分かってるわ。」
……いや、俺には話が読めんなぁ。
ま、4歳だから仕方ないよね。嫌な予感はあるけど、まぁ、母さんもこう言ってるし大丈夫でしょ。
え?前世から数えたらいくつだって?
………ふん!
「実は……その、私ーーーーーー」
「ーーーーーーレオン様の事をお慕いしておりますぅ……もぅいやぁ。」
まるでリンゴだ。
真っ赤っか。
そして顔を隠すシュラナさん。
ん?今なんて?
レオン様をお慕い……してる?
えぇと、レオンってのは俺の父さんだからぁ……?
「ぇぇぇぇええええええ!!?」
あっ、やべっ!
スキルの制御がちょっと乱れた!
頭いてぇ!!
「知ってるわよ最初から。もう、私が気を利かせ始めてから5年よ?手がかかる子なんだから。」
「クレスタ様ぁ……」
「か、母さん?
もしかして父さんと別れちゃう?父さん、ショックで死んじゃうよ?」
ぞっこんだからな。
「心配いらないわアルヴィス、お母さんがお父さんと別れることはないから。」
おい母さん、ちょっとその目止めて?
怖いんだけど?
大喧嘩とかしたら「あなたを殺して私も死ぬ!」なんて言いかねない人の目だからね?
「アルヴィス様、私はこのリアノスタ家の皆様にお仕え出来るだけで幸せなのです。なのでこの思いは秘めてーーーー」
「ーーーダメよシュラナ。あなたはもう26歳なの。」
……ぁあ、なんか分かってきた。というか見事に嫌な予感的中だよ。
大丈夫なのか、この流れ?身内のシリアスなんて俺は勘弁だぞ。
シュラナさんがこのピクニックに着いてこないって言ってたのは、父さんから距離を置くためか。
近すぎたら超意識しちゃうからな。
でも、まぁ母さんはこれまた恐ろしいこと考えてるらしい。でもこの国一夫一妻性だけど?
一体母さんは何を考えーーーー
「シュラナ、特別にあなたと私の夫、レオンとの結婚を認めてあげるわ。」
……うん、何となくわかってた。
ま、シュラナさんの救済措置にもなるとそうせざるを得ないからな。
多分この家から追い出したら尚更独り身だろうし、最悪死ぬ可能性も。
この調子だと父さん以外に好きな人も出来そうにないし。
「でも母さん、それだと父さんはお嫁さんを二人貰うことになるから……重婚になっちゃうよ?」
そうなんだよ。
この国では重婚は許されないけど母さんはどうするつもりなんだろう。
「そんなの、シュラナはあの人の愛人で私も容認してるとか何とか言ってればいいのよ。どうせ他の貴族も風俗に遊びに出かけてるんだし、問題ないわ。
何なら愛人に子供が出来ても仕方ないで押し通せるんじゃない?」
あらヤダ、お母様ったら大胆!!
ほら、見てよ。シュラナさんが「わ、私とレオン様に、こ、子ども!?」なんて言ってオーバーヒートしてる……
バタン
プシュー
「「あ……」」
シュラナさん、限界だったんだね。
◇◇◇
「ねぇ母さん。」
俺の膝の上にはシュラナさんの頭が乗ってる。4歳児の膝には少し重い。
魔力で多少は強化できるが、流石にスキル暴走の制御をしながらはキツイ為にしてない。
「どうしてシュラナさんを認めたの?
父さんは言うまでもないけど、母さんも同じくらい父さんにぞっこんじゃん?
それなのにわざわざシュラナさんの席まで考えるなんて。」
そう言って俺はこの小さい手でシュラナさんの頭を撫でてあげる。
「別にシュラナさんが嫌なんじゃないんだよ?俺は別にいいと思ってるし。
でも少し気になったんだ。」
「……そうね。
まぁ、昔のお母さんみたい、だったからかな。」
へぇ、意外だな。
母さんに片思いの時期があったのか?
「母さんに片思いの時期が?」
「そうよ。ま、シュラナとは状況が違ってたけど、気持ちは凄くわかる。
お母さんはね、その人に頑張ってたくさんアプローチしてたのにこれっぽっちも気づいてくれなくてね。」
「うっそだぁ!
シュラナさんは美人だけど父さんを好きになっちゃったんでしょ?身分差とかあったり、母さんって奥さんがいるからだったりして言い出せなかったり距離を置こうとするのは仕方ないよ。
でも母さんはその人にアプローチしてたんでしょ?それを気づかないって……
その人も勿体ないことしたなぁ。」
ま、それで愛想尽かして父さんと一緒になったんだろうな。
で、母さんが自分の事を好きだったって気づいた時には、なんて話、よくあるよねぇ。
「何言ってるの?その人があなたのお父さんよ?」
「……まじ?」
「最後は正面切って鬱憤の端から端までぶちまけてやったのよ。
で、私と付き合えぇ!!って強引にお母さんのモノにしちゃった。」
てへっ、と顔を傾げる母さん。
確かに可愛いが、やはり母親と言うだけあって興奮の類はないな。
「そりゃ、父さんが悪いよ。」
当たり前でしょ?
そんなにアプローチしてもらって気づけないなんて。
「でもアルヴィス、あなたもお父さんの血を引いてるんだから本当に気をつけるのよ。」
「アハハハハ!大丈夫だって!」
流石に、これが後のフラグになってるとは思わなかった、とだけ言っておこう。
「アルヴィス、シュラナはいい子よ。私が認めた理由の一つ。
だからアルヴィス、あなたも彼女のことを宜しくね。」
全く……人が良すぎるんよママンは。
「母さんがそれでいいなら、ね。」
「散々言ったから、もう分かってるはずよね?」
「ま、俺もシュラナさんならいいかな。
でも母さんも仲良くしてよね?」
「あら、今でも仲良いと思うけど?」
母さんは薄ら笑みを浮かべる。
俺も目を伏せて微笑む。
その頃にはスキルの暴走も気にならない程度に制御でき始めていた。
◇◇◇
森でのピクニックは楽しかった。
確かにスキルの強制解放に伴う事故はあったものの、家族と丸一日ゆったり出来たと思う。
母さんの作ったサンドイッチと弁当もすごく美味かった。
俺も姉ちゃんも、そのあまりの美味しさに父さん、母さん、シュラナさんのモノまで少しずつ分けてもらってしまった。
そう言えばエルバさんは最初から最後まで居なくなってたな。
周囲の警戒、って言ってたけどエルバさんもゆっくり休めばよかったのに。
そんなこんなで貴重な父さんの休日は有意義に過ごせたというわけです。
そんな中、俺も少し思うところがあった一日だった。
未知のスキル、未知の生命体、型破りなスキル解放法。
この世界には、まだ俺の知らないことが沢山埋まってるんだ。タダでさえ楽しいのに、その上にまだ楽しみが積りに積もってる。
とここで、俺の脳裏に一つの可能性に思い至る。
俺はゲーム、Trampling On The Victimsのラスボスの力量を知ってる。
が、もしかするとそれよりももっと強い敵が現れる、なんて事も無くはない。
可能性としては十分にあること。
俺はもっと強くなりたい。と言うか、今の俺ならゲームで最強に育てていた頃よりも強くなれる気がする。
それを優先したい。
だから俺は急務で家族に直談判する事を決心した。
魔物狩りをしたい、って。
だがそれは今じゃない。
「この調子だと……一ヶ月あればお釣りがきそうだな。」
俺は帰りの馬車の中で呟く。
ガタガタとうるさい車輪の音にかき消され、その声は誰の耳にも通らない。
遊び疲れた姉ちゃんは俺に抱き着くように眠ってるから、もちろん聞こえるはずもない。
俺は次なるステップに進むべく計画を脳内で練るのだった。
次の話から戦闘描写来ます
強キャラ主人公、守衛に無双!?
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