4年目

冬 困惑と期待

 たぶん、俺は月見里真子が異性として好きだ。


 『たぶん』と付くものの、そう認めざるを得なくなったのはいつだったか。おそらく明確な出来事はなかっただろう。自然と、あの夏合宿の一件から無意識の状態から意識していったのだ。


 例えば彼女との会話では時々回答不能な質問があった。


「広瀬くんって好きな人いるの?」


 それはおまえだよ。そう言えるならどんなに良かったことか。


 だがそんな告白があって良いものだろうか。あったとしても格好が悪すぎないだろうか。


「いないよ」


 だからそう答えるしかないのだ。どんなに嫌いな嘘だとしてもそう言う他なかったのだ。


「おまえはいるの?」


 俺が訊けば彼女もまた


「いないよ」


 と答えた。


 その答えを聞く度に、やっぱり俺のこと何とも思ってないのだろうな、と落胆するのだった。



*♪*♪*♪*♪*♪*♪*♪*♪*♪*♪*♪*



 当時の俺は裏付けるものが欲しかった。彼女が俺のことをどう思っているのか。


 そんな指標になり得るイベントがあった。バレンタインデーである。


 女の子が男の子にチョコを渡すイベントであるそれは、もちろん友チョコ義理チョコがあるし、渡すならばKSの練習日しかなく、どうせならみんなに渡すことだってあるだろう。実際みんなに渡す人もいた。


 彼女がもし、俺にバレンタインデーチョコをくれるなら、想うところがあるのかなと期待を抱くことはできる。そう思っていた。


 結論から言えばそんなことはなかった。2月14日が日曜日でなかったこともあるだろう。しかし何もないということは脈なしなのかなと思ってしまった。やっぱり夏の件はズッ友を意味していたのかと考えてしまった。


 クラスの友達やKSの先輩方からチョコを貰うより彼女のそれが欲しかった。そう思うくらいに好きだったというのに、俺はまだそのことにすら気付けていなかった。

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