秋 日常――君と俺の恋愛定義
初恋の話をしよう。
小学1年のときが初恋だった。
髪は少し長くて、少し茶色だった。目はくりっとしていてネコのような目だった。
容姿はかなり良かったが、かと言ってその容姿に惚れたわけではなかった。
彼女といると俺は幸せだった。楽しいとか、嬉しいとか、そういう明確な感情ではなく、ただただ幸福を感じていた。小1のときの俺がそうしたものを表現することはできなかったが、彼女の性格を一言で表すことはできた。
優しい。
それが俺が彼女を好きになった理由。
それ以外にも彼女は頭が良かった。俺や周りの人が考えている中、彼女だけは答えを導き出していた。そんな聡明さにも憧れを抱いた。
告白はしたが振られてしまった。それでも良好な関係を築いてくれたのは彼女の優しさか。
そんな彼女は小1の修了式を期に両親の都合で転校してしまった。
だがそれでも年に1回、年賀状でやり取りしていた。とは言っても小6までではあるが。
彼女から貰ったものが1つある。クマの定規だ。いろんな色があったようで、俺が持っているのは青色のクマの定規。俺が好きな青色だ。
今でも持っているそれは俺にとって宝物だ。
そう思うくらいに、初恋の彼女は特別な存在だったのだ。
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夏合宿のことは完全になかったことになってしまった。改めて訊くのもおかしなことで触れることは全くなかった。
そんないつもの会話の中でこんな内容があった。
「おまえにとって好きってどんなもの?」
触れていると言うことなかれ。偶然恋愛の話が出たから、気になって問い掛けた言葉であり、俺自身意識していなかった。純粋な疑問だったのだ。
「うーん、一緒にいたいって思うところかな。あとは抱きしめたいって思えることかな」
「へー」
彼女の答えは半分納得できたが、もう半分はできなかった。
好きな人とずっと一緒にいたい気持ちはわかる。けれど抱きしめたいかって言われたらどうだろう。そう疑問に思った。
好きな人を抱きしめたくないわけではない。寧ろ逆であり、容姿が良い人を抱きしめたいと思うことはよくあるのでは? と思ったからだ。好きな人だけでなく、アイドルやクラスの可愛い子を抱きしめたいと思うのはおかしな話ではないだろう。
それと同時にこんなことも思った。目の前の彼女を抱きしめたいか、と。
きっとその答えはイエスではない、だ。抱きしめてどうこうしようと考えなかった。一緒にいたいと思うけれど、それに加えて抱きしめようとは思わなかったのだ。
「じゃあ広瀬くんはどうなの?」
そんな俺の考えを他所に彼女は俺にも訊き返した。
「ドキッとすることかな」
無論、驚いたときのそれではない。擬態語を変えればキュンだろう。
そういう意味では彼女に当てはまるようで当てはまらなかった。
彼女とは一緒にいて楽しく、落ち着いて話せた。ドキッとすることは夏合宿の一件があったものの、そうした特殊な事例を除くとドキッとすることはなかった。話していてドキドキするような、それが恋愛だと、当時の俺は思っていたのだ。
そしてそうしたドキドキするような人とは初恋の人のような存在であると、そう理解していたのだ。
では俺にとって彼女は好きな人ではなく何なのか。友人なのか。その答えもまた出せずにいたのだった。
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