秋 誕生日プレゼント
毎週練習があるKSも参加できる日もあればできない日もあった。それは俺も月見里もだ。
楽しみにしながらKSの練習場に来るも、彼女が来なかった日は残念に思ったし、彼女が来たとしても彼女は彼女で友達と話しているから、話し掛けることができなかった日もあった。
そんなときはまた来週にチャンスあると思いつつも1週間微妙な気持ちになった。それだけ気の合う友達であったのだ。
そんなことを思っていたら秋になった。
その日はKSの練習日であったが、月見里の誕生日の前日でもあった。誕生日を覚えていたのは、彼女が以前に話していたハムスターが主役のアニメキャラのある1匹の誕生日と同じであるといった話が印象的だったためだろう。
仲の良い友達に誕生日プレゼントを渡すべきだと思っていたし、あわよくば俺も自分の誕生日にプレゼントが欲しいなといった下心も持ち合わせていた。そんな日の午前、俺は月見里への誕生日プレゼントを考えていた。
もっと前から考えてはいたが、お小遣い制が導入されていない小学生が渡せるものなんて限られている。自分が今持っている何かを渡すしか当時の俺には思いつかなかった。
そんな中、思いついたのは折り紙で作られた正二十面体であった。
小学生の感性なんてたかが知れている話で、折り紙で整った形をした立体はかっこいいと感じるものである。俺もそんな例に漏れず何かのきっかけで持っていたのだが、それを月見里に渡そうと決めたのだった。
KSの練習に来ない可能性もあったかもしれなかったが、幸運にも月見里は来た。
だがここで問題が生じた。どうやって月見里に渡すか、である。話せるとは限らないのだ。俺は彼女がよく話す女子達とはあまり話したことがなく、そのため1人でいるところでない限り声を掛け辛かった。
仮に話し掛けることができたとしてもどうやって渡すのか。それも問題であった。ただの正二十面体であり、彼女が本当に喜んでくれるかなんてわかったものじゃなかった。渡しても特に嬉しく思ってくれないなら。そんな不安が俺を包んだ。
そんな不安は他所にチャンスは巡ってきた。
練習が終わって月見里は楽器を1人で片付けていた。
「ねぇねぇ」
俺の呼び掛けに月見里は応えた。それはいつもの通りではあったが、俺自身は不安と恥ずかしさで一杯であった。
「誕生日プレゼント、どっちがいい?」
見せたのは2つの正十二面体であった。どっちか渡してもう片方を自分の部屋に保管する気であったからだ。しかしあまりにもぶっきらぼうな物言いはもう少しなんとかならなかったのかと思う。
「じゃあこっち」
特に悩むこともなく月見里はカラフルな方を選んだのだった。選ばれなかったもう片方――青色の正十二面体は今でも俺の部屋のデスクの奥にある。
彼女はきっと捨ててしまったか失くしてしまっているだろうが、俺にとっては思い出の品である。
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