冬 クリスマス会

 小学生にとってクリスマスとはどういったものであるか。当時の俺にとっては誕生日を含めて年に2回ある欲しいものが手に入る機会であった。


 憐れむことなかれ、俺がサンタクロースを信じていたのはこの歳までである。


 欲しいものはあった。大手ゲーム会社がクリスマス商戦に向けて発売した新型の携帯型ゲーム機である。2画面あり、片方はタッチスクリーンという斬新なそれは子どもの俺にとって欲しくてたまらないものであった。だからこそ、サンタクロースにお願いをするのであった。



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 KSこと小塚弦楽合奏団でもクリスマスにイベントがある。クリスマス会だ。


 俺がKSに入団したのは1月であるから、そろそろ入団して1年が経つ。だからこそ俺には友達や先輩と呼べる人達が多くいたが、入団してまだ1ヶ月経ったくらいの彼女――月見里真子やまなし まこは知り合いが俺を除いてほぼほぼいない状態であった。


 あの一件以来、俺と月見里はKSの練習で会う度に喋っていた。あの日聞かなかった名前、引越して小塚市に来たこと、将来の夢を持っていること、彼女との会話を通していろいろなことを知った。そして何より彼女との会話は何よりも楽しかった。 


 そうしてクリスマス会に至る。


 普段は午後にある練習だが、その日は午前中に練習して午後からクリスマス会であった。


 どこかそわそわしながら練習が終わるのを楽しみにし、終わってはいつもより急いで楽器や椅子を片付けた。


 会場は練習場から少し離れた市民会館であった。練習場付近の土地勘はまだそこまでなかったので他の団員についていく形で向かった。


 俺がわからなかったのだから月見里はもっとわからなかっただろう。いつものように彼女と俺は話しながら市民会館へと向かったのだった。


 会議室の椅子や机の配置を変え、長テーブルを並べて作られた島にはお寿司や揚げ物など好きなものが多く並べられていた。壁際には椅子が並べられており、自由に座る形式はKSの定期演奏会後レセプションと同じであった。


 月見里と共にこの会場に入ったのだから、彼女の隣に座るのは自然な流れだった。


 美味しいものを食べながら気の合う友達といつまでも話し続ける。普段の練習の合間にある休み時間では15分くらいしかないため、いつも以上にいろいろなことを話していた。


 ずっと一緒にいたのは楽しかったのもあるが、俺が月見里を1人ぼっちにさせるわけにはいかないと思った部分もあったと今になっては思う。ただそんな一緒にいるところを他人が見たらどう思うだろうか。


 クリスマス会の様子は保護者達に写真を撮られ、後日、各団員にその人が写っている写真が渡される。


 それとは別に俺に1枚の写真が渡された。青いハートが並んだセロハンの袋に入った写真であった。椅子に座って猫背になっている俺と、浅く座って椅子の背にもたれて座る月見里との2ショットだった。お互い不格好な状態ではあったが、仲の良さを示している写真であったことは間違いない。

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