エピソード2
この文章を読んでくれているあなたと同ように、私も「死にたい」と思っていました。中学生になっても私は学校に通っていませんでした。その代わりにフリースクールに通い、そこで私と同じような子どもたちと勉強をしたり、遊んで過ごしていました。
ある日ふと私は制服を着てみようと思いました。以前まで鉛のように重く感じていた制服がとても軽く感じられました。そのことに勇気を得た私は、試しに家を出ました。もう登校の時間は過ぎていたので、辺りに学生はいませんでした。時折、すれ違う人々に奇異な目で眺められましたが、話しかけられることはありませんでした。
何事もなく学校に着いたものの、私は上履きを忘れてしまいました。白い靴下のまま教室に向かって、廊下を渡って行きました。足の裏は冷たく、自然と速足になっていました。教室のすぐそばまで来ると板書きする音や教科書をめくる音、ひそひそ話をする音が聞こえてきました。その時になると私は緊張のあまり、地震が起きたのかと勘違いするほど手足が震えていました。けれど、私はここまで来れたのなら、教室にも入れると自身に言い聞かせました。そして、勇気を出して教室に一歩踏み入れました。
扉を開けた瞬間、教室中の視線が私に集まったのを感じました。私は顔をあげて、自分の座席を探しました。教室はざわめきはじめ、「誰?」と言う声があちこちからきこえました。辺りを見渡しても全ての椅子は埋まっていて、どこにも空き席は見当たりませんでした。授業をしていた先生が私に近づいてきて、声をかけてきました。
「ええと。悪いけど、一旦職員室に行ってきてもらえるかな?」
返事をしようとしても喉に言葉がつっかえて喋れませんでした。それなら無言で出て行こうとしましたが、身体がうまく動きませんでした。すると、先生は私がまだ座席を探していると勘違いしたらしく弁明をしました。
「ごめんね。君の机と椅子片付けてあるんだ。ほら、学校にあんまり来ないのに、置いてあるとさ、あれだしさ」
あれと言葉を濁していたけれど、何を指しているのかわかり、私はそれ以上言わないで欲しいと願いました。この場にいるみんなが私のことをどうみているのかを知ってしまい、私は悲しいというより、みんなに迷惑をかけたことに罪悪感を覚えました。この世界に私の居場所は用意されていとしても、もうとっくのむかしに取り除かれているのかもしない、それなのに私はいけしゃあしゃあと他人に私の存在が邪魔だと指摘されるまで気づきもしない、そう感じてしまったからです。
私は足を引きずりながら教室を去り、授業を再開する先生の声が響いた教室をもう一度虚しく眺めてから家に帰りました。
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