第8話、錬金釜と錬金術

「きゅうきゅう」


 翌日は、ユグちゃんの声で目が覚めた。

 何かとても大事な夢をみていたような気もするが、なんだったのだろう。

 緩慢な動作で上半身を起こし、考えてみるが、寝起きの所為もあってか上手く頭が働かない。まあそのうち思い出すだろう。

 取り敢えず私は、いつものように盥に水素水を張り、浸した布で体を清める。電子の肉体とはいえ、早くお風呂に入りたいものだ。

 同じようにユグちゃんも拭いてやれば、水の冷たさ故か、少しだけ嫌そうに鳴いた。

 身支度を整えてテントを出ると、既に起きていたディーンが待っていた。


「おはよう。よく眠れたか?」

「ええまあ、お陰様で。それよりディーンさん。その後ろの」

「ああ。これか。昨日は馳走になったからな。そのお返しだ」


 ディーンの斜め上に、ちゃぷちゃぷと音を立てて浮かぶ水球体。そしてその中には、おそらく30は越える川魚が、悠然と泳いでいた。

 引き攣った笑みで、受け取ったそれをアイテムボックスに収納する。うん。干物用素材が手に入ったと思うことにしよう。

 そのあとは昨日と同じように、三人で朝食をとり、私達は別れた。



 水晶広場に戻ったのは、それから約一時間半後のことだ。

 いつものように広場の中央に行き、旗の絵を確認する。他の書き込みはない。他プレイヤーは立ち寄っていないようだ。

 小さく肩を落とし、それでもすぐに気持ちを切り替える。


「さてと探索の前に、頂いたお魚を加工しなくちゃね」


 なにせ30匹弱。生物は時間との勝負だ。

 アイテムボックスを開こうと頭に手を伸ばしたその時、視界右上の私のライブラリ、クエスト欄が切れかけの電球のように点滅しているのに気付く。

 タップしてみると、いつの間にか新たなクエストが追加され、いつの間にか一つ達成していた。


 済:水の精霊に出逢おう。

 └場所は精霊の泉。

 報酬・錬金素材モイモイ草×2、モコモコ草×2


 錬金術で魔除けの粉作ってみよう。

 └錬金釜に錬金素材を入れる。

 報酬・新米錬金術士(称号)


 錬金術で干物を作ってみよう。

 └錬金釜に材料をいれる。

 報酬・魔石(小)×1


 そういえばクエスト報酬にどう使うかわからない錬金釜があった。

 報酬を受け取り、錬金釜を取り出す。私の腰ほどはある大きな釜というより大鍋だ。火もないのに中で紫の液体が煮えたぎり、ぼこぼこと音を鳴らす。

 次いで鍋の横にライブラリが出現し、作れるもの一覧が表示される。


 ▼魔除けの粉

 魔物の嫌う臭いを発し、一定時間どんな魔物も寄せ付けない。

 (材料:モイモイ草、モコモコ草、砂)


 ▼魚の干物

 (材料:生魚、塩、水)


 ▼ポーション

 HPを小回復させる液体。

 (材料:魔石、清水、グリン草)


 ▼マナポーション

 MPを小回復させる液体。

 (材料:スライムの魔核、清水、ヨルベの花)


 などなど沢山のラインナップだ。

 本当に作れるのだろうか。

 恐る恐る鍋の中に、黄色と黄緑の笹の葉(モイモイ草とモコモコ草)とその辺の砂を全て投入してみる。


「あれ? 何も起きない」


 ぐつぐつと泡立つだけで変化はない。

 何か間違っていたのか。今一度ラインナップを見れば、魔除けの粉材料欄に、モイモイ草とモコモコ草が黒文字にかわり、砂だけ白文字のままになっていた。

 察するに砂が足りないのだろう。掬って新たに加えると、予想通り砂の字が黒く染まった。

 一拍後、ぐぎゅるぐぎゅると生理的嫌悪感を催す音が鳴り、鍋の中がひとりでに撹拌される。それを三分ほど繰り返し、鍋からポンと二つの小瓶がお生まれになった。

 手に取り、星の砂のような小瓶を鑑定にかける。

 錬金ラインナップと同じないようの魔除けの粉だった。どうやらマジもんのようだ。ならばと、頂いた川魚を全てぶちこみ、干物を作る。

 三分後、過程はどうあれ美味しそうな干物が大量に出来上がった。


「うっわ、便利。あ、そうだ!」


 私の頭に天啓がくだる。

 魔除けの粉を沢山作って使えば、妖精の集落どころか森中を楽に歩き回れるのではないか、と。

 まだどれくらい効果はあるか分からないが、使いようによっては魔物への武器にもなるし、あって損はないだろう。

 モイモイ草とモコモコ草は、帰りの道中で腐るほど見かけた。材料には比較的困らない。


「よし! ユグちゃん、予定変更。モイモイ草とモコモコ草ありったけ取りに行こう」




 そしてその結果、現在の手持ち。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ●アイテム一覧● ※㋙:複製品


 ㋙二人用ドームテント×1

 ㋙洗濯用ひしゃげたタライ×1

 ㋙使い込まれたバーベキューコンロ×1

 ㋙台所用石鹸(安物)×1

 ㋙洗濯用石鹸(安物)×1

 ㋙木のおたま×1

 ㋙鉄のフライパン×1

 ㋙鉄の鍋×1

 ㋙鉄の包丁(安物)×1

 ㋙出刃包丁(安物)×1

 ㋙砥石×1

 ㋙使い込まれた丸型ヤカン×1

 ㋙レジャーテーブルセット×1

 ㋙布(安物タオル)×1

 ㋙羽毛布団(安物シングル)×1

 ㋙ちょっと解れたウエストバッグ×1


 お金:1110ドラ

 チュール付ドレスワンピース×2

 肌着×3セット

 ポーション×3

 マナポーション×3

 予約特典(隠れるマント、韋駄天ブーツ、力の腕輪×各1)

 骨付き肉×3

 旅セット(水筒、簡易調味料、食器一式、寝袋)×1

 錬金釜

 釣竿

 薪×99

 魚の干物×27 ←New!

 魔除けの粉×99 ←New!

 魔除けの粉×99 ←New!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る