第4話、メインクエスト。


 かくて、地図に歪な丸が出来上がった。

 成果といえば、食糧と薪を確保したくらいだ。残念ながらプレイヤーは発見出来なかった。まあ、最初から上手くいくとは到底思っていなかったので、さほどダメージはない。


 広場から空を見上げる。

 陽が傾き、空は茜色に染まっていた。ゲーム内設定が違っていなければ大体16時から18時くらいだろう。


 採取した薪がコンロの中で、パチパチと音を立てる。

 私は網がいい感じに暖まった頃、洗ったナイフで薄く切った骨付き肉のそれと、二つに裂いた深紫の茸を乗せた。

 じゅうぅ、とお腹を刺激する香りが立ちのぼる。


 茸の名前はマスギ茸。

 この森の至るところに自生しており、おどろおどろしい外見から一見毒と思ったが、鑑定の結果食用と判明したものだった。


 暫くして、本日のご飯が焼きあがる。皿に盛って、軽く塩を振れば完成だ。

 少しだけ冷めるのを待って口にすれば、食べたことのない旨味が口の中で広がった。


「ん~。美味しい。ユグちゃんもどうぞ」

「きゅ~」


 不思議な事にこの世界、空腹描写が現実と同じくらいリアルだった。しかも1日食べないでいるとHPが減る鬼畜仕様があり、こうして毎日ご飯を食べている。ユグちゃんにおいては、勧めてみたら喜んで食べたのでなんとなくだ。


「はぁ。ここに白米とお味噌汁があったら完璧なのに。なんで想像顕現は食べ物NGかなぁ」


 お肉を飲みこみ、愚痴る。

 そう。件の想像顕現だが、家電製品だけでなく食べ物にも使えなかった。手持ち複製品がキャンプ道具寄りなのも、クエストだけでなく、実はこの裁定に引っ掛かった面が大きい。


「っと。ごめん、こんな話面白くないよね。そうだ。明日は魔法の指輪の他に何を作ろうか。椅子? テーブル? それともお布団の方が先かな」


 此方の言葉を正確に解しているのか、ユグちゃんが嬉しそうに目を煌めかせる。本当に早い段階でユグちゃんに会えてよかった。きっとこの子が居なかったら、私は不安に押し潰されていただろう。


「ありがとうね。ユグちゃん」


 そんな時、ピコンと脳内電子音が鳴る。

 お知らせは、新たなクエストの追加だ。

 内容は、ユグちゃんを成獣にしよう。

 クリア条件は不明。

 報酬は、帰還のオーブ。


 私は再度、ウインドウを確認する。


 クエスト:ユグちゃんを成獣にしよう。

 └???

 報酬・帰還のオーブ。現実世界への帰還を可能にする。


「き、き」

「きゅ?」

「キタ――!!」


 ようやく運営からの救助が来た。

 画面に顔を近づける。

 文字頭にビックリマーク。今までなかった、重要を示すサインだ。間違いない。

 けれど肝心のクリア条件は記されていない。


「って浮かれてる場合じゃなかった。クリア条件は!? ユグちゃん、何か分かる?」

「きゅ!?」


 目を見開いたユグちゃんが、手に持っていたお肉を落とす。そのあとは困ったように真ん丸おめめを右往左往させる。

 この様子では何も受信してはいないだろう。


 持っていた食器を降ろし、顎に手を添える。もしへっぽこ魔法授与と同じであるなら、何かしらのアイテムが必要になるパターン。だがしかし、これは運営の救済クエストだ。そう考えると、難易度の高さは自然と抑えられる。


 考えろ。考えろ、私。

 クエストという形で運営は動いた。これ即ち、そうとしか動けなかったから。多分まだヒントは散りばめられているはず。

 がりがりと頭を掻く。


「きゅ、きゅう?」

「ああ、ごめんね。今考え事してるからそのお肉食べてい……い」


 瞬間、私の脳裏に一閃の光が差し込む。

 そうだ。ユグちゃんに関するクエストなら確実にステータス否、ライブラリに新たなテキストが挿入される。


「ごめん。ユグちゃん、ちょっとライブラリ見せて。鑑定発動」



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 Name:ユグちゃん 性別:♂

 Type:マナラタ


 HP:10/10 MP:7/7


 E:なし


 【称号】

 ●ナビゲーター ●神の下僕


【固有スキル】ひっかく

【DATA】幼生体。雑食。


 * 成獣まで 残り *

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


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 テキストはなかったが、確かにヒントはあった。次いで、あの電子音が響き、!マーククエストのクリア条件が書き替わる。



 お世話して星を五つ埋めよ。




 ――ヒント、漠然としすぎていませんかね?



「これは……うん。いや前に進んだといえば進んだけれども」

「き、きゅうぅ」

「ご、ごめんごめん。驚かせちゃったね。もう大丈夫だから」


 一旦落ち着こう。

 子供を見守る母のように、出来るだけ柔和な笑みを浮かべる。流石にいま彼との好感度を下げるわけにはいかない。


「今ね、大事な事が分かったの。それで驚いちゃって、ううん。言い訳だね」

「きゅ?」

「あのね。私が現実に帰る為には君の力が必要なの。いきなりこんなこと頼むのもどうかと思うけど、君の力を貸して貰えないかな?」


 懇切丁寧に頭を下げる。

 すると、ユグちゃんは自分が必要とされているのが理解できたのだろう。肯定のように一鳴きし、私の体に顔を擦り付けた。


 よし! これで協力は取り次げた。

 あとはお世話しつつ、他プレイヤー捜索も平行して行っていけばいいだけだ。


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