第3話、他のプレイヤーを捜しに行こう!


 結局のところ、魔法を貰ってもログアウトは出来なかった。


 ならば、と新たに追加されたクエストを片っ端からクリアすること二日……。


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 ●アイテム一覧● ※㋙:複製品


 ㋙二人用ドームテント×1

 ㋙洗濯用ひしゃげたタライ×1

 ㋙使い込まれたバーベキューコンロ×1

 ㋙台所用石鹸(安物)×1

 ㋙洗濯用石鹸(安物)×1

 お金:1110ドラ

 チュール付ドレスワンピース×2

 肌着×3セット

 ポーション×3

 マナポーション×3

 ナナレスの実×1

 予約特典(隠れるマント、韋駄天ブーツ、力の腕輪×各1)

 骨付き肉×5

 旅セット(水筒、簡易調味料、食器一式、寝袋)×1

 錬金釜

 釣竿

 

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 私のアイテムボックスが、サバイバル特化しただけだった。

 深く息を吐く。

 残るクエストは、『モンスターを倒そう!』の一つのみ。これはセーフエリアにいる以上達成不可であり、攻撃手段の乏しい現状ではクリアは難しい。

 そして、ナビゲーターのユグちゃん。

 地面に寝転がり、導いてくれる気配はまるでない。正に八方塞がりだった。


 不意に考えないようにしていた不安が、ひょっこりと顔を出す。

 運営は本当に動いてくれているのか。実は私だけ忘れているのではないか。

 そんな考えばかりが脳内を占領していく。


「きゅ? きゅー」


 私の異常に気付いたのだろう。寝ていたユグちゃんが、てしてしと私の足を叩く。ハッと我に返ると、心配そうな黒目が此方を見上げていた。


「あ、うん。何でもないよ。ちょーっと考え事してただけ」


 私は安心させるように優しく笑いかける。


 きっとまだ条件を満たしていないか、運営の救済が行き渡ってないだけ。

 ネガティブになったところで事態が好転しないのなら明るく、そう思う事にしよう。

 それにもしかしたら、このエリアにチュートリアルをこなしていない他プレイヤーがいて、それが原因で皆ログアウト出来ない可能性も零ではない。


 私は再度アイテムリストに目をやる。

 隠れるマントと韋駄天ブーツ。そして、ここにへっぽこ魔法の鑑定とマッピング。

 幸い、このセーフエリアは開けている。森の中でずっと飛べなかったが、私は本来蝶の羽根を持つ空飛ぶニンフだ。

 飛翔しつつ、上から見渡せば安全かつ容易にプレイヤー捜しが出来る。


「ユグちゃん。悪いけど、私、他のプレイヤー捜しに行くね」


 宣言した直後、ユグちゃんが、じゃあ僕も!とばかりに私の体をよじ登る。留守番をする気はないようだ。


 ならば仕方ない。


 私はユグちゃんを肩に乗せ、そのまま広場の中心に歩を進める。次いで妖精のナイフを取り出し、地面に旗の絵とAFK(離席中)と刻む。これは留守中、他プレイヤーと入れ違いになった際、私の存在を知らせると同時に留まってもらう為の物である。


 書き終わった後は、装備を整えて飛行の準備を行う。チュートリアルには記載されていなかったが、きっと羽根に意識を集中していけば動く筈。

 心の中で動け動けと念じながら、ひたすら手を握る。だがしかし――


「だ、駄目だぁー」


 飛ぶどころか羽根は一ミリも動かなかった。

 一体何が悪いのだろうか。

 ふっと握った手に視線を傾けた瞬間、人差し指に嵌めていたへっぽこ魔法の指輪が、きらりと光る。


 ……もしかして魔法で翔ぶ?

 試しに魔法一覧をスクロールしてみると、テイクオフという離陸を示す英単語が目に留まった。


「て、テイクオフ」


 恐る恐る呪文を唱える。

 すると何処からともなく、ふわりとした風が吹き、見えない何かが私の体を押し上げた。どうやら当たりだったようだ。


 が、その喜びも束の間。

 地面から10センチ浮上したところで、急に見えない何かが動きを止めた。念の為もう一度唱えてみるが、上にあがる様子はない。恐らくへっぽこ魔法ではこれが限界なのだろう。


「あっちゃー。早速出鼻を挫かれたわ。想像顕現は今日はもう使いきったからなあ……しゃあない。徒歩で行くか」


 ここまで用意して、やっぱり辞めたは性に合わない。だったら、せめて広場に戻れる範囲の探索は行うべきだ。

 私はへっぽこ魔法マッピングを使用し、視界左上に正方形の穴埋め型マップを表示させる。

 初期スポーンから現在地までに伸びるジグザグのミミズ一本。

 超拡大だったが面全て映してくれた魔法の指輪と偉い違いである。


「うん。まずは、この水晶広場を起点に丸を描く感じでマップを広げていこっか。ユグちゃん」

「きゅ!」

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