第2話、チュートリアル?


 公式マスコットキャラクター。

 それはゲームの顔であり、時に冒険を始めたプレイヤーにチュートリアル係、時に運営からの伝達などを行う存在である。


「これが」


 私は改めて、目の前の生き物を見入った。


 体長は約15~20センチ。頭から尾っぽまで綿毛のようなふわふわした黄金色の毛並みを持ち、くりっとした愛らしい黒い目。

 私の知るユグちゃんとは、若干カラーリングが異なっている。

 これもバグの影響だろうか。


「あ、貴方、もしかしてユグちゃん?」


 恐る恐る呼び掛けると、フェレットは肯定のように一鳴きする。

 どうやら予想は正しかったらしい。

 私はユグちゃんに近寄り、掌の上に乗せる。きっと運営から何らかの指示を受けている筈だ。


「ユグちゃん。私、ログアウト出来なくなっちゃったの。これからどうしたらいいかな?」


 問いかけられたユグちゃんは、目を瞬かせたのち任務を思い出したのか、ハッと私の手から地面に戻る。

 そして二、三歩前に進みと、私の方へ顔をやった。


「えっと着いてこいってこと?」

「きゅ~」



 ユグちゃん主導の元、北西へ進むこと数時間。連れられた場所は、広場のようなところだった。いや広場というのは少々語弊があるだろうか。

 私は周囲を一瞥する。

 木の根に占領された大地に代わり、目の前に映るのは、色とりどりの小さな水晶だ。赤、黄、緑、青。いずれも太陽の光を受けて、宝石のようにきらきらと輝いている。


「綺麗……あ! もしかして」


 私は、此処はセーフエリアなのではないかと気付く。ちなみにセーフエリアとはモンスターの驚異を一切受け付けない安全地帯の事だ。

 その証拠に肌寒かった森と違い、この地はとても暖かく、何処か神聖な雰囲気も感じられた。


 救助を待つにはうってつけの環境だ。

 案内役のユグちゃんにお礼を言って、私は水晶のない地面に腰を降ろした。

 さて、これからどう時間を潰そうか。

 そう考え倦ねていた時、右上のウインドウが一部変化していた事に気が付いた。



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 Name:ラシル age:―

 Type:アルセイド


 HP:235/235 MP:392/500

 【MP回復まで あと04:55:72】


 E:アイテム収納髪飾り

 E:チュール付ドレスワンピース(水色)

 E:セパレート型カジュアルシューズ

 E:妖精のナイフ

 E:魔法の指輪


 【称号】

 ●転生者 ●ニンフ


 ◆固有魔法

 想像顕現(0/3)

 複製(0/3)

 消去


 *クエスト*


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 MPの時間回復表記に、クエスト。

 首を傾げつつ、クエストをタップして、リストを開く。すると幾つかのタイトルが表示される。


 済:ようこそ、異世界。

 └初めて異界の地に降り立った。

 報酬・100ドラ


 済:固有スキルを使ってみよう。

 └どれか一つ固有スキル使用。

 報酬・マナポーション×1


 済:装備は忘れずに。

 └アイテムボックスを開いて装備する。

 報酬・10ドラ


 済:ユグちゃんと合流しよう。

 └報酬・ポーション×1


 ユグちゃんから魔法を貰おう。

 └???

 報酬・予約特典一式


 一日過ごしてみよう。

 └クリア条件:異界の地で一晩過ごす。

 報酬・ナナレスの実×3


 全てに目を通し、私は深く頷いた。

 うん。これバグりながらチュートリアル開始してるわ。

 古くからMMOの中には一定の範囲、例えばオープニングなどでスキップなどコマンド操作を受けつけないシステムが存在する。今回は多分それとバグの合わせ技が効いているのかもしれない。


 (なら逆に一定の範囲を越えれば、ログアウト出来るかも)


 早速済みのクエストから報酬を受け取り、残りの二つに取り掛かる。

 まずは一晩を過ごすの方。

 これは寝具さえあれば問題はない。なので想像顕現でベッドいやテントを拵える。

 思い浮かべたのは、緑の三~四人用ドームテント。かつて友人とキャンプした際に使用したものだ。



「きゅ!?」


 突如出現したそれに、傍に居たユグちゃんが驚きの声をあげる。


「ああ、ごめんね。いまチュートリアルクエストを進めてたの。あとね、君から魔法を貰いたいのだけど、どうすればいいのかな?」

「きゅう?」

「う~ん。分からないかな」


 詰んだか。諦めかけていると、不意にユグちゃんが私の右手、魔法の指輪をじっと見つめる。


「もしかしてこれかな?」

「きゅーきゅー」


 激しく首を振るユグちゃん。けれど指輪をガン見することは止めない。

 何だろう。似ているけども違うと言いたいのか。だが、アイテムボックスにそれらしき物はない。考えられるとすれば、コピーを使ったランクダウン品くらいだ。

 駄目元で魔法の指輪をコピーしてみる。

 瞬間、ユグちゃんが歓喜の鳴き声をあげ、コピー指輪をひったくった。

 そしてそのまま水晶の元まで一目散に駆けていく。


「あ、ユグちゃん、待って!」


 ピコンという電子音。次いで私の視界正面にお知らせが入る。


『へっぽこ魔法の指輪(仮)が、へっぽこ魔法の指輪になりました』

『合計11の魔法を獲得。クエスト、ユグちゃんから魔法を貰おうをクリアしました』


 んんんんん?

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