ニンフとしてログインしましたが、ログアウト出来なくなりました。GM救助はよ!

べっこうの簪

第1話、突然のバグ。


 これは何だろう。

 私こと櫻木英理は、目の前に映るウインドウを呆然と眺めていた。


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 Name:ラシル age:―

 Type:アルセイド


 HP:235/235 MP:500/500


 E:アイテム収納髪飾り

 E:チュール付ドレスワンピース(水色)

 E:セパレート型カジュアルシューズ


 【称号】

 ●転生者 ●ニンフ


 ◆固有魔法

 想像顕現(0/3)

 複製(0/3)

 消去


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 私は、落ち着いて記憶を辿る。

 確かVRMMO『グランド・ユグドラシル』のサービス開始日で、私は有給を取っていそいそとプレイを始めようとした。そしてプレイキャラの外見やら何やら一時間は凝って、金髪青目の可愛い妖精でいざスタートした。……が、その後の記憶はぱったりと途切れている。


 再度、ウインドウを確認する。

 名前と装備アイテムは間違いなく私が設定したものだが、残りは見覚えがない。


 (これはもしや種族毎に設定されたスタート演出?)


 だがしかし、待てど暮らせど天の声も運営からのアナウンスも何も始まらない。ならばよくある不具合か。

 私は、ログアウトボタンもしくはGMコールマークを探すことにした。ローディング画面にあったやり方、右手を前へ翳す。


 けれどステータス画面が右上に移動しただけで何も現れる様子はない。あるとすれば滴るとまではいかないも、濃い深緑と茶に包まれた原生林だけ。

 木々達が競うように伸び、少しでも太陽に当たろうと枝葉を広げ、下生えの草が暗い大地で僅かに生い茂っていた。


 私は、ぶるりと身を震わせた。

 太陽の光がない所為か、少し肌寒い。

 こういう場合待機が公式ルールだが、この場は移動した方がいいだろう。精神衛生的にも、運営の目にも止まりやすいかもしれない。


 そうと決めたら善は急げだ。

 頭の髪飾り兼アイテムボックスに軽く触れる。確かここに予約特典の装備一式と魔法の指輪が収納されていた筈。

 右上のE:アイテム収納髪飾りの横に新たな項目もとい収納アイテム一欄が表示される。


「……あれ?」


 予約特典がない。

 リストアップされていたのは、妖精のナイフ、チュール付ドレスワンピース色違い二着、肌着3セットの三つだけだった。

 剣と魔法の世界で短剣と着替え三日分とは、なんて斬新なバグだろう。まあ無いよりはマシなので、取り出して装備する。


 刃渡り15センチほど、刀身に小さな妖精が彫られた鉄のナイフ。

 実戦向きというよりどちらかというと、美術品のそれに近い。裏付けるように、三つのEの下に追加されたナイフには攻撃力+10の文字が書かれていた。

 うん、微妙。モンスターにあったら一発で死ねるわ!

 他には何か無いか。私は固有魔法に手を伸ばす。



 想像顕現クリエイト:消費MP100

 └思い浮かべた物を1日限定三回まで、それぞれ三つまでなら具現化できる。但し何でもというわけではない。


 複製コピー:消費MP50

 └想像顕現した物を一つにつき一個コピーできるが、必ずランクダウンした物が出来上がる。仕様回数は1日三回まで。


 消去デリート:消費MP2

 └上記二つで作成した物だけを消し去る。



 神は私を見捨てていなかった。


「想像……いやちょっとタンマ」


 早速使おうと考えて、直ぐに思い留まる。

 私の現MPは500。想像顕現と複製をフルで使用したとして残りは50。回復手段がポーション一択だった場合、ちょっとまずい。

 仮にだ、魔法の指輪と防具を出してコピーしたとしよう。この時点で残りMPは200。モンスター一体くらいなら倒せるかもしれないが、もし群れだったら間違いなく詰む。バグ状態での死は何があるか分からないし、極力避けたい。


「そうだ。予約特典の魔法の指輪は低ランク全属性魔法が使えた筈。サーチとマップがあれば安全に行けるかも」


 PVにもあった魔法の指輪を頭の中に置き、想像顕現クリエイトと唱える。

 一拍後、記憶と遜色ない、中心に虹色の石を据えた黄金の指輪が作成される。こっちにはバグはなさそうだ。

 同じタイミングで体の中から何かがごっそりと抜けていく感覚がした。恐らく魔法の使用演出なのだろう。


 右人指し指に嵌めて、軽く触れてみる。

 魔法一覧表には、サーチやマップだけでなく、ファイアやアイスなどのお馴染み攻撃魔法に加え、攻撃防御アップらしきものなど、かなりの魔法数が並んでいた。おまけに全て消費MP2~10以内というのが、地味に有難い。


「サーチ。マップ」


 視界左斜め上、小さな正方形の地図が出現する。中央に留まった黒い点が、私を示しているのだろう。あとは道のようなものはなく、森を表す深緑が広がっている。


 その時だった。


 ピッという電子音と共に、マップの黒、つまりは私のいる近くに赤い点が浮かびあがる。その方角に目をやれば、右斜め前の小さな茂みが、がさりと揺れた。


 私はナイフを構え、自身に身体強化をかけた。反応は一つ。茂みから大きさはそれほどないが、油断は出来ない。


 可能であればスモークの魔法で即逃走。

 全神経を集中し、音の主だけを注視する。

 三回ほど茂みが震え、遂に何者かが姿を現す。


「きゅっ!」

「……えっ」


 抜け出たのは、グランド・ユグドラシルのマスコットキャラクター、ユグちゃんに似た黄金色の小さなフェレットだった。

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