醜い真夏昼のカラス

@mumumumumumumumu

醜い真夏昼のカラス

夏は暑いというよりじめじめと真夏のカラカラとした気持ちよさをなくし

陰気さを含んだ嫌な肌触りの空気であった。


歩く体はすぐにでもこの蒸し暑さから逃げるべく、

建物を目指す。


スタスタ歩くと不思議なもので歩幅と合わせて

キョロキョロと目を動かし道中の奇妙なものに

目を奪われてしまう。


日陰ではあるがてらてらと、この夏の嫌なところを凝縮

したような路地裏、その奥にぽつんと一個のゴミ?が見える。


ゴミにしてはリアル?

ゴミにしてはひきつけられる


あれはなんだろう わざわざ向かうには無駄足かと

悩むがこのまま無視してしまった後、

気になってしょうがなくなってしまってうのはもっと

無駄足だと頭に結論付ける。


私はその気になるゴミに近づくため細く汚い

場所へ入っていく。



私はアッッと気付く。

ゴミはカラスであった。


全体的にボロボロ、むわっとした嫌な臭気を漂わせている。

元々黒であった全身は所々、傷のせいか茶色く変色しておりみすぼらしさが憐れだ。

もう限界に近いのか呼吸を取り込もうとする仕草は普段よりはっきりとしたものであり、

皮肉なことに死を思わせるそれは、生きているのだと、生き物だと強く絶叫しているようだ。


私はそのリアルを実感し怖くなった、しかしこのリアルは私が去ったらどうなるというのだろう。

使命感、道徳心、私の中には一握りの砂ほどしかないものだと自負し、くだらない人間だと鼻で笑っていたが

この土壇場そういうモノが私をこの場にとどめる。

しかし、コレは触れなぞしないぞ。


カラスがモゾモゾ動く。

「あっあ・・・・落とし物・・・?」


「そんなものはない・・・」


カラスは最後の力をギリギリと振り絞りながら私に話しかけてきた。

意味も無しにおどおどしている私はこの場所に何かを落として、それを探していると思ったみたいだ。


「何か・・・?」


「あんたが見えたから気になったんだ」


私がこのカラスをあんたといったのは、その声がしわがれた老人のようでありながら重い、そんな声だったからだ。







「私・・・見タラ分かりますがこんな状態です、介抱してはくださりませんか・・・・」

「私が生を為すことなど、あなた方からしたらくだらない一生です、しかし欲はありますのです・・・」


カラスがボソボソと私に懇願する。

しかし私はコレに触ることなどできない。


私は少し考えた。

「近くのショップで網を買ってくるから、」


「アァァアアアア 、行ってはダメです、私はあなたを信じていますがそのあとのアナタを信じることなどできません」

「どうか、この場を去らないで」


私はその力ない体から出た、重さとは無縁のれっぱくの叫びは私を怖がらせた。

足が震えた。その警告音は私の意識と行動を停止させる。


ふっーふー急いで呼吸を整える。


「俺はァ・・・アンタには触りたくない」


このカラスに触れることは衛生的にも、助けた後を考えても

面倒なことにしかならない。




「・・・・そうデスカァ・・いえ。分かっていましたとも・・・それならぁ私アナタノ望むことをします。」

「掬ってくださるならどんなことでもあなたの望むことヲ・・・」



「私が望みをかなえる前に逃げないように、お救いいただいた後

 首に鎖を括り付けてもらっても構いません」


「どうかお助け下さい、そして私にお望みを申してください・・・」


すぐに思いつく願いは金とかか、、、このカラスにそれを言ったら盗みでも働くのだろうか

こんなカラスに何ができるのだろう


・・・

いや、あるよ

カラスから望みはあるかと問われた時、すぐ脳裏を支配した願いがある。

これは何かの運命だったのだろうか、私がカラスを見つけた時から引き寄せられた何とも言えぬ力

この現状を結びつける様々な行動が・・・アノ憎い奴を・・・・


「俺の父親を殺してほしんだァ・・・」

「出来るか・・?」


「もちろん、できますとも回復した私ならば貴方のお父さんの寝込みを襲い、くちばしで首をぐちゃぐちゃに

掻き回して殺してしまいますよ」


「そうか・・・分かった俺の家に運んでやる」


私はどこか安心し、この運命に対して喜びに似た達成感を感じていた。

よし助けてやろう、そう思いカラスに近づくとカラスがムクりと起き上がった。



「カぁーカぁー、叶えたい唯一の願いがそれかぁ、、つまらないねぇ、醜いねぇ」

いっひひひひひ、



カラスは嘲笑うためだけの声を上げながら飛びたっていった。

私だけが残った夏の路地裏。

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