純愛

一子

第1話

大変一途な少女がいた。その少女はいつも、ただ純粋に相手の幸せを願ってきた。

中学校、高校といつもその恋は報われなかった。何故かいつも都合のいい女になってしまう。何故かいつも思わせぶりな態度を取られてしまう。何故かいつもその愛が返ってくることはない。それでもその女の子はただ真っ直ぐに想い続けた。

高校に入って2年と数ヶ月、ついに奇跡が起きた。生まれて初めて彼氏が出来たのだ。それも、好きな人から告白されて。

少女は綿あめのように、その幸せに一瞬にして溶かされた。


しばらくすると、相手の男から昔の恋の話を聞かされた。彼は自分の過去に酔っていた。好きだった女に贈った花、手紙。一緒に行った喫茶店での出来事など、嫌悪すべきその全てを彼女は最初、彼の人生の一部として大切に受け止めた。


そしてまた数ヶ月が経つと、彼がその女性と今もSNSで繋がっていることが分かった。その女性は美しく、優しく愛に溢れた、素晴らしい人なのだと聞かされていた。そしてまるで鈴蘭のような女なのだと。弱々しそうに下を向きながらもしっかり毒は持っている。そしてまた、真っ白なのだと。

少女は劣等感に襲われながらもその女性のことを尊敬していた。男に洗脳されたのだ。

しかししばらく経つと、彼はさらに頻繁にその女と連絡を取り合うようになった。

彼女はどこかで悟った、彼の気持ちは今もその女性に向いていると。気づいていたはずだった。しかし確信がないためか、信じたくないためか、彼女はその事実を認めようとはしなかった。


付き合ってから半年以上たったころ、彼女の気持ちはついに変わった。そして自分が下に立つことをやめた。彼が2つの恋愛を同時進行させることは、自分が苦しいだけでなく彼にも、悪いことをさせてしまうことになるのではないかというふうに考えたのだ。

そしてようやく彼女は、その女性と必要以上に仲良くしないでくれと彼に伝えた。しかし彼は聞いてくれなかった。その女が好きなのかと聞くと、好きではないと答えた。

少女は少しずつ信じられなくなっていった、昔の話を嬉しそうにする彼の声、表情を見て。彼の心は自分の元にはないと思った。

どれだけ好きだと言われても、どれだけ暖かい両腕に包まれても、彼女の心にその温もりは伝わらなかった。


そして2ヶ月ほどたったころ、彼女はもう一度、昔の女と距離を置くように頼んだ。しかしまた受け入れては貰えない。もう一度頼んだ、涙が零れた。

彼は少し怒りながら、あの女が好きなのだと答えた。少女は雷に打たれたかのようなショックを受けた。自分でなんとなくこの結果を想像していたはずなのに、やはり本人の口から聞くのは耐えられなかった。

彼はさらに追い討ちをかけるように言った、お前は2番目だと。

彼女は塾の帰り道、法を犯した。自分を傷つけたくてたまらなくなり、タバコを買って居酒屋に入った。初めての酒を7杯飲んで、タバコも1箱の半分以上を吸った。電車に乗ると吐き気に襲われて、2駅しか通らず降りることになった。トイレを探すが間に合わなくてホームの隅で吐いてしまった。どうしたらいいか分からず、とりあえずふらふらとトイレへ向かった。個室のドアを閉めると、思わず泣き崩れてしまった。過呼吸で息が出来なくなった、涙も止まらなかった、世界の全てが憎たらしくて仕方がなかった。

重たい足を引きずって、何とか家へ帰ると、遅かったので少女の母は怒った。彼女はごめんなさいと言いながら部屋に倒れ込んだ。また吐き気に襲われてコンビニの袋に吐いた。その夜は眠れず、もうあと何回か吐いた。最後の方が黄色い液体と泡しか出なかった。


しばらく彼との距離を少し置くと彼は少女の方に寄ってきた。そしてまた少し前のように好きだと言ってきた。彼女は思ってしまった、2番目にね、と。もう壊れていた。

彼女の持つ愛情さえ、もう純粋な愛情ではなくなってしまった。悲しみや憎しみ、依存。優しい愛は彼女の心から去っていってしまった。

彼女の持っていた温かさが失われる頃、彼はコロッと言うことを変えた。お前が1番好きだと。彼女はその胡散臭い言葉に涙を流した。しかし壊れたものは戻らなかった。彼女は言った、もうあの女性とは関わらないでくれと。男はそれを認めた。少女はそれでも信じられないので、もしも約束を破れは自分はいなくなると釘をさしておいた。平和が来るかと思っていた。そろそろ報われるかと、この苦しみから解放されるかと思っていた。しかし、彼女の旅行中、彼はまたあの女性と連絡を取り合った。後で知った彼女は、ついに全てを終わらせることにした。

彼が好きな女性に送った花には毒があった。彼女は何度も次裏切られたらこの花の毒で死のうと誓っていた。その時がついにやって来たのだ。

少女は、約束を守ってくれなかったねと言いながら、口元だけ微笑んで彼の元を去った。別れは告げなかった。真っ直ぐ花屋へ向かっていき、そこにある全ての鈴蘭を買い取った。鈴蘭を水にさして毒を水に移す。睡眠薬を飲んでから、コップ3杯分の花の毒を飲み干した頃、ちょうど眠気に襲われた。何だか気持ちが悪い。そう思った頃には眠りについていた。遠くの方で彼の呼ぶ声が聞こえる。泣き声混じりのその声を背に、私は遠くへ遠くへと歩いていった。さようなら、どうか今度はあなたが苦しんで。あなたが悲しんで、後悔してくれたら私は少し救われる。穢れを知らなかったその愛は、どこか遠くへ消えてしまった。


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