新青丹句集（俳句のようなもの 第２部）

川波を誰か染めけん花なたね

【読み】

　かはなみをたれかそめけんはななたね

【季語】

　なたねの花（晩春）

【大意】

　いったい誰が川の波を（黄色く）染め上げたのだろうか。なたねの花（＝菜の花）咲くその川の波を。

【附記】

　セイタカアワダチソウの咲いている水路を見てつくった。

【例歌】

　ちはやふる神代もきかず立田川からくれなゐに水くくるとは　在原業平

　ひとかたまり菜の花咲けり春の日のひかり隈なき砂畑の隅に　若山牧水

【例句】

　菜の花や一本（ひともと）さきし松の下　宗因（そういん）

　菜畠に花見顔なる雀哉（かな）　芭蕉

　菜の花や淀も桂も忘れ水　言水（ごんすい）

　尼寺よ只菜の花の散径（こみち）　同

　菜の花の匂ひや鳰（にほ）の磯畑　惟然（いぜん）

　なの花の中に城あり郡山　許六（きょりく）

　遠里の麦や菜種や朝霞　鬼貫（おにつら）

　菜の花のぼんやりと来る匂ひかな　北枝（ほくし）

　菜の花や遠山どりの尾上（をのへ）まで　蕪村

　なのはなや魔爺（まや）を下れば日のくるる　同

　菜の花や月は東に日は西に　同

　菜の花や鯨もよらず海暮ぬ　同

　昼吠ゆる犬や菜種の花の奥　蓼太（りょうた）

　菜の花や海少し見ゆ山の肩　五明（ごめい）

　なの花や盃持て畔（あぜ）うつり　暁台（きょうたい）

　菜の花や行き当りたる桂川　蝶夢（ちょうむ）

　菜のはなを見て来て休む野寺哉　青蘿（せいら）

　菜の花に風こころよき野寺かな　几董（きとう）

　菜の花の飛々咲きぬ小松原　同

　菜の花に大名うねる麓かな　士朗（しろう）

　菜の花にくるりくるりと入日哉　蒼虬（そうきゅう）

　菜の花や行抜ゆるす山の門　一茶

　なの花にうしろ下（さが）りの住居哉　同

　なく蛙溝の菜の花咲にけり　同

　なの花も猫の通ひぢ吹とぢよ　同

　菜の花や屋根に鶏畦に猫　梅室（ばいしつ）

　菜の花の夜は薄らぐ匂ひかな　由誓（ゆうせい）

　菜の花に朧一里や嵯峨の寺　内藤鳴雪

　菜の花の中に小川のうねりかな　夏目漱石

　菜の花や門前の小僧経を読む　同

　菜の花の中へ大きな入日かな　同

　菜の花の遥かに黄なり筑後川　同

　菜の花の隣もありて竹の垣　同

　菜の花に汐さし上がる小川かな　河東碧梧桐