第28話 「かーしゃーん!!」

 〇神 千里


「かーしゃーん!!」


「おかえいー!!」


 知花が退院した。

 家にたどり着いた時の、子供達の笑顔はそりゃあもう…


「知花ーー!!おかえりー!!」


 …義母さんも。



 大部屋で、聖を囲んでみんなで写真を撮って。

 華月が帰って来れたら…またみんなで撮ろうと話して。

 それから…一連の騒動について、疑っていた事を知花が謝ったが…

 みんな、もうさほど気にしてなくて。

 て言うか、少しは気にしろよな。



「…何だか、みんな前よりずっと仲良しみたい。」


 知花が、小声で言った。


「最強家族だぜ。」


「ふふっ……千里、ありがとう…」


 少し痩せた知花の頬に手をあてると。


「もー…相変わらず、ところ構わずなんだから…部屋でやってよ。」


 麗に突っ込まれた。

 てめぇ…覚えてろよ?


 とは言っても、ばーさんも目を細めてるからな…

 部屋でするとするか。



「それにしても、ベッタリね。」


 華音と咲華は、聖に付きっきり。

 まるで自分の弟のように、世話を焼いている。


「産まれた時から、叔父っていう肩書があるなんてね。」


 誓が、笑った。


 当の聖は、大きな座布団の上に寝かされて、華音と咲華に穴が開くほど見守られている。

 …華月のとお揃いで買ったベビーベッドは、あまり使われていないらしい…



「きーちゃんね、しゃくりゃちゃんと、おはなししゆのよ。」


 咲華が自慢そうに知花に言った。


「そうなの?きーちゃん、もうお話ができるなんて、お利口さんね。」


「しゃくはね、きーちゃんと、かーしゃんと、にかいになゆの。」


 相変わらず二階への夢を捨てきれない咲華は、そう言いながら知花の膝に座った。

 その光景を見て、親父さんがデレデレな顔をする。



「あら、咲華ときーちゃんと母さんだけ?」


 知花が咲華と額をくっつけてそう言うと。


「あっ、ろんとかちゅきも。」


「おいおい。俺は入れてくれないのかよ。」


 俺が、そりゃないぜ‼︎って顔で突っ込むと…


「とーしゃん、おしおとで、しゃんかいになったえしょー?」


 そう言った咲華の…可愛い事‼︎


「…おまえ、可愛いな。こっちに来い。」


 親バカ過ぎるのは分かってるが、咲華があまりにも可愛くて手を差し出すと。


「やっ。かーしゃんとこがいー。」


 咲華は、ぷいっと顔をそむけて知花に抱きついた。


「……」


 俺が無言でショックを受けてると。


「久しぶりだから珍しいのよ…いつもは千里の方ばかり行くでしょ?」


 知花が小声でフォローしてくれた。

 だが…やはり、娘の『ぷいっ』は…堪える!!


「か…華音…」


 知花と咲華を見てると、俺も人肌恋しくなって華音に呼びかける。

 が…


「ろん、いしょがしいかや。」


 華音は聖に釘付けになったまま…


「…誓…」


「えっ、嘘でしょ義兄さん。」


「いいから、俺の膝に来い。頭を撫でてやる。」


「や…やだよー!!」


「本気にするな。冗談だ。」


「本気に聞こえたわよね。どれだけ寂しがり屋なのかって思ったわ。」


「麗…おまえ、あの事バラすぞ?」


「なっ!!何のことよ!!」


「えー、千里、麗の秘密って何?聞きたいわ。」


「あのな、麗はな…」


「もー!!義兄さんのバカー!!」


「これ、騒がしい…子供達の前ですよ。」


「まえでしゅよー。」


「義兄さんのせいよ…」



 桐生院家は…平和だ。

 とても。



 俺は、そう…のんきに思っていた。



 その裏で…桐生院家の秘密に思い悩む人物がいると、知らないままで…。



 * * *



「ねえ、おばあちゃま…」


 幸いF'sは若干暇で。

 知花が退院した今、子供達と知花と一緒に居られるのが幸せでたまらない。

 これで華月も退院したら…

 あー…

 高原さん、いっそのこと半年ぐらい休めって言ってくれねーかなー…


 …半年はないか。



 誓は彼女とデートとやらで不在だが、ばーさんも義母さんも麗も、親父さんまでが大部屋に集合。

 まあ、だいたいこの家は寝る時以外、みんな大部屋にいる。

 もちろん、華音も咲華もいて、相変わらず聖を穴が開きそうなほど見守っている。



「何ですか。」


「あたし、お見合いしようかなあ…」


「ぶふっ。」


 お茶を噴き出したのは、俺だけじゃなかった。


「あっ!!じいじと、とーしゃん、きちゃなーい!!」


 咲華にそう言われて、親父さんと二人して口元とテーブルを拭く。


「…何なの…二人とも。その反応。」


 麗は目を細めて、低い声。


「いや…麗に結婚願望があったのかと思って…」


 親父さんは、ゴニョゴニョとそう言って。

 俺は…


「おまえに見合い結婚が向いてるとは思えない。」


 キッパリ。


「し…失礼ね…でも実際話は来てるんでしょ?」


 麗は、ばーさんを振り返って。


「お金持ちで、華の家の跡継ぎで、頭が良くてカッコいい人なら会うわ。」


 真顔でそんな事を言った。

 その言葉に、全員が首をすくめる。


「まあ…話しがない事もないですけどね…」


 ばーさんが溜息をつきながら言うと。


「今度写真持って帰ってよ。選ぶから。」


「……」


 またまた、全員で首をすくめて…何となく顔を見合わせる。



 確かに…

 麗は見た目はいい。

 俺の好みは、じわじわとその可愛さが伝わって来た、第一印象ふわっと。な知花だが…

 麗は一般的に男の目を引く可愛らしさがある。

 だが、あくまでも、見た目だ。

 一度口を開くと…


「不細工と貧乏はイヤよ。あと、バカもイヤ。」


 これだ。

 一度も女友達を連れて来た事がない。と、ばーさんが心配していたが…

 彼氏らしい存在も、ほのめかした事はないらしい。

 まあ…こいつについて行く男がいるとしたら…

 マゾか、こいつ以上のドSだな。



 そして翌日。

 麗のリクエストに応えたのかどうか…

 ばーさんが、どこからか大量の見合い写真を持って帰った。


「…おまえ、本当に見合いすんのか?」


 写真の山の中から一つを選んで開いてみる。

 …麗の好みには程遠いな。


「…するわよ。」


「何やけっぱちになってんだ?」


「別にやけっぱちになんてなってない。金持ちと結婚して、あたしも幸せな家庭作るの。」


「…金持ちだったら幸せになれるとは限らねーぜ?」


「……なるもん。」



 やれやれ。

 どうにかしてくれよ…



 二階堂陸。




 〇桐生院さくら


「母さん。」


「……」


「母さんたら。」


「…はっ…あ…ああ、知花…」


 やだなー…

 あたし、聖を産んでからというもの…

 すごく、眠い。

 気が付いたら眠っちゃってる。

 そして…不思議な夢を見る。



「ただいま。」


「うん…おかえ…あっ…華月ちゃ……!!」


 大声を出しかけて、慌てて口を押える。

 今日は、華月ちゃん退院の日!!


「わー…おかえりー…元気になったね~。」


 もう…すごく可愛い!!

 聖みたいに、サルじゃない!!(ごめん聖)


「おばあちゃんとこ、来て来て~。」


 華月ちゃんを抱っこさせてもらうと…わー…ほんと、聖と比べものにならないぐらい軽い!!


「ああ~可愛い~…食べちゃいたい…」


 ノン君もサクちゃんも、聖にも同じように思うけど…

 華月ちゃん、ほんっと可愛い!!

 食べちゃいたいわ~!!


「食べないでよ?」


 知花がクスクス笑う。

 もう…知花って、あたしよりお姉さんみたいだよ…



「それより、大丈夫なの?最近すごく眠そうだけど…」


 知花に華月ちゃんを返すと、知花はあたしの顔を覗き込んで言った。


「う…うん…単なる横着病かな。」


 首をすくめて答える。

 本当…食べて寝てばっかり!!


「気分転換に外に出てみたら?あまり日に当たらないから、身体がおかしくなってるのかもよ?」


 そう言われると、そんな気もする…

 出産前は、何かと理由を付けて外に運動や調査に出かけてたけど…

 今は、何となく…家の中に閉じこもっちゃってるし…


「うん…そうね。出掛けてみようかな。」


「そうして。大部屋行く?」


「うん。」


 知花と連れ立って大部屋に行くと…


「かちゅき~。」


 ノン君とサクちゃんが、すかさず駆け寄った。

 ポツンと残されたはずの聖には、お義母さんがベッタリ。

 …お義母さん、すごく…聖の事可愛がってくれる。

 もう、それこそ…

 食べちゃいたいって、つぶやいてそうなぐらい。


 それは貴司さんも同じで…

 仕事から帰ると、聖の顔を見てはニヤけて。


「聖は絶対ハンサムになるな。」


 なんて…千里さんに負けない親バカっぷり。



「さ、きーちゃんの隣に寝かせてあげよ?」


 知花がそう言って、子供達が見守る中、聖の隣に華月ちゃんを寝かせた。


「わーあ…かあいい…」


 サクちゃんの言葉に、すごく…和んだ。



 それにしても…

 最近よく見る不思議な夢…

 あれは、何なんだろう。


 優しい手に…頭を撫でられたり…

 すごく、心地いい声の歌が聴こえたり…


 そして…

 まるで映画を見ているかのように…

 銃撃戦が…始まって、あたしは…途方に暮れてしまう夢…。



「かちゅきと、きーちゃん、ろんとしゃくみたいー。」


 ノン君が、知花を振り返って言った。

 知花は笑顔で義母さんとあたしを見て。


「妹と叔父って認識するには、時間がかかりそうね。」


 首をすくめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る