第7話

「おはよう。お目覚めの気分はいかがかな?」

「よう師匠オリジナル、最初に見る顔がアンタじゃなければまだましだったはずなんだがなぁ。」

 目が覚めて一番に僕の―――いや、半端なこれでなくて俺が正しいな。

 神剣「スメラギノツクモノイワヒメノツルギ」に創られた疑似神格の基になった人格オリジナル穿 孔真うがちこうまの顔を俺が最初に見た顔だというのが多少―――いや、結構不愉快だったりする。

「そう言うな。儀式の進行は俺の役目なんでね、無事に神降ろしができたのかを確認する必要があるからな。」

 神剣「スメラギノツクモノイワヒメノツルギ」をヒトに降ろすだけでも難度は高い。

 それに加えて、この神剣には鬼退治のために黄泉の国へと責めるための要にするための機能を追加してある。

 それが草薙 仁という人格である。

 その仁の人格を形成するための基になったのが穿 孔真こいつである。

 とわ言え今の俺がコイツの分身ではないことは自分がはっきりと自覚している。

 俺は、生贄になった女を食らって実体ない神からヒトの体を持つことができるようになったのだ。

 いわば今の俺は穿 孔真こいつ影響が多少あるけど本体は生贄になった少女のものである。


「さて、問題が無いようであるなら儀式の続きに入らせてもらいたいのだが?」

「……続き?」

 よく周りを見渡せば、そこは先ほどの夢―――のような場所で見た水面腰の光景だった。

 つまり、生贄の儀式の場であるはずだが………

「儀式は問題なく完結したのではないのか。」

「ところがどっこい、儀式はまだ続きがあるのだよ、草薙 仁君。」

 この儀式の場を境界越しに見た時には生贄の儀式のほかにもう一つイメージしたものがあったはず……

 隣を見ると白無垢に身を包んだ少女が控えている。―――つまり、

「さてこれからは結納の義に映りたいと思います。」

「まてまてまて、いきなりすぎるだろうが!」

「それはお前だけだ。この儀式は何か月も前から準備してきたことだ。なにも今更ではない。」

「それでも問題があるだろうが、俺も女、相手も女。女同士の結婚とか問題以外に何がある。」

「ふむ、それならば神事や魔術的な意味での結婚ならば同性婚は当たり前だし、最近では法的にもOKな国が増えてるだろうが。」

「ソレはそうだが。」

「それと根本的に勘違いしているようだが……お前付いてるぞ。」

「……………………え?」

「ていうか付け足した。正確には男の子が生えるように細工した。」

「まじかーーー!」

 確かめるために俺は股間をまさぐってみた。」

本気マジだーーー!」

 俺の股間には確かに男の子が付いていた。

 個人的には大きくもなく小さくもなく程よい大きさであった。

 わがままを言うなら膨張率と、あと剥けてることを祈ろう

「つまりこれで何の問題もなく男女の婚姻が成り立つわけだな。ハァーハッハッハッハ。」

「うんなわけがあるか――――


 俺が師匠に文句を言おうとしたら突然襟首をつかまれた―――横にいた白無垢の花嫁に。

「何をここにきてへこたれたこと言ってんだ。生贄に選ばなかった方を嫁にするってお前腹くくったんだろうが。……責任もてや。」

 そうだった。

 あの夢は幻だったけれど、あの場には僕「草薙 仁」と「天堂 旭」と「天堂 満月」が居たのだ。

 あの時2人に渡した婚姻届けは幻のものだったが、あの婚姻届けに込めた思いは間違いなく僕のものだった。―――決して俺のものではないけどだからこそ本物なのだ。


「そして、2人の婚姻届けは確かにここに存在する。」

「はぁー、なんでだよ。」

「一応はこれも儀式の触媒だったのだがな、という訳で二人には儀式の後にこれを役所に届けてもらう。いやむしろそこも儀式の内のかな。」

「――――――お前はそれでいいのかよ。」

「いいも何もそういう約束でしょうが。……それに私たちはもともと好き合っていたんだよ。君がちょっとまじったっぐらいで…変わらないよ。」

 そのセリフに思うところはあるのだが、はにかむ彼女にドキドキしてしまっていては文句も言えない。

「分かった。ここでお前との結婚すると誓う。」

 俺の嫁さんは顔をうつむけているのでその表情をうかがい知ることはできないが、喜んでいてくれているのだろうか。

 それとも、裏腹に心では最愛の姉妹を取り殺した俺に恨みを抱えているのだろうか。

「う、うぅ――――

 参列者のうちの一人がこらえきれずに泣き始める。

 するとつられる様に何人かの女性が泣き始めた。」

「ふむ、ここは儀式を小休止する。婚姻の義において主役が二人とも花嫁衣裳なのはもったいないしお色直しに入らせてもらいます。再開は太鼓の音で知らせますので3つ目までに確認お戻りになるように。」

 そう皆に伝えると師匠は俺を奥の座敷に連れて行った。

 もう一人の花嫁は別の人に別室絵と連れていかれた。


「いいか仁、今のオマエは俺の疑似人格と依り代人なった者の人格と記憶が馴染んでいない状態だ。」

「ソレに何か問題が?」

「今はないと思うがな……—―――それよりお前の役割は―――

「分かってるよ。あの鬼は斬った。アレの体を依り代に要石として黄泉の国への橋頭保を管理するのが俺の役目だろ。」

「それが分かってんなら良いんだ。それじゃいっちょ幸せになってこい。」

 俺は師匠から背中をたたかれて送り出された。


 で、その婚姻の儀については難しいことがあったのでほとんど流されるままになっていたが、なんだっけ?

 そうだ、誓詞奉読之儀せいしほうどくのぎは何となく覚えている。

 キリスト教の結婚式のように神様に新郎新婦が誓いを立てる奴だ。(俺自身が一応神様に当たるのはご愛敬。)


「我、草薙 仁はこの身命にかけて我妻、天堂 満月、改め、草薙 満月をを生涯において愛し一切の不純をなさぬと誓う」

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