第6話

 僕と旭と満月で見上げていた夜空が突如ひび割れて、音を立てて崩れ去った。


 破片は先ほどの夜空にも引けを取らない、キラキラと輝く破片となって僕たちに降り注いでくる。


 その破片一つ一つに思い出が映し出されていた。


 初めて行った大阪日本橋のオタロード。

 満月に連れられて行ったゲー〇ーズで油断していたところで、連れていかれた二階の虎の〇。

 二階でもかなり圧倒されるものがあったのに、強引に連れていかれた三階には色々見せらんないものが、むしろそんなのしか置いていなかった。

 虎の〇はモチロン、他の店によってはいろんな買い物をした。

 内容については恥ずかしっくて言えないものなのだが、楽しかった。

 満月の好きなものに改めて触れられたのが何よりだった。

 今度は一緒に東京の秋葉原に行けたらいいね。っと笑い合った。


 旭ちゃんは実は結構なラーメン好きだ。

 特にこってり系で油濃いものを好んでいる。

 前に行った日本橋でも家系のラーメンが好みにハマったらしっくてコッソリ1人で通っていたりする。

 そんな旭ちゃんに連れられて、まりお〇なるラーメン屋さんに行ってきた。

 正直言うと女の子だけで入るのがためらわれる店構えだったけど、旭ちゃんは堂々としたたたずまいで店に入って行った。

 ラーメンの名前は日本の名峰をつけられていて、旭ちゃんの勧めで最初は霧島がいいって言うからそれにした。

 マジで後悔した。

 普通のラーメンがあったんだからまずそっちを勧めろ。

 旭ちゃんは富士山を頼んでいたが、空揚げ一緒に食おうぜと言ってサイドメニューも頼んでいた。

 ふざけんな!

 空揚げ一品でもこちとら腹いっぱいになるようなボリュームがあるじゃねぇか。

 何が、今度は一緒にキリマンジャロが食べれたらいいな。だよ。

 無理だってーの。

 こちとら大食いアイドルじゃなぇんだよ。

 あとついかでに、ラーメン屋だから、おひとり様一品はラーメンのご注文を、ってのは分かるが、なんでそのうえでサイドメニューにカレーライスがあるんですか?

 旭ちゃんとの思い出はお腹いっぱいです。


 デートで買い物に出かけた時、やたらと時間がかかるのにけっきょくなにもかわなかったことがあった。


 お父さんに暴力を振られた時、お母さんが必死に守ってくれていた。大きくなったら自分が母さんを守るんだと決めていた。

 しかし、母さんは一人前になる前に死んじゃった。


 お父さんが居なくなってからお母さんと3人で生活していた。

 お母さんが働きに行っているから家の家事を代わりに頑張ってしていたら楽しくなった。


 お父さんが居なくなって、お母さんも死んじゃってから新しい家族ができた。

 おじいちゃんおばあちゃんは優しくていつもにこにこしていた。

 新しいお義父さんとお義母さんは変な人だけど面白くて―――とっても優しかった。


 ある時、嫌いな方のお父さんがやってきたけど―――が追い払ってくれた。


 2人でプールに行った日、満月は複数の男からナンパをされていた。

 満月は可愛いしちょっとトロそうなところがあるからもてるのは仕方がない。けど、迷惑なので追っ払ってやったら、満月からすっごくお礼を言われた。

 当たり前のことをしただけなのに。


 初めてゲームセンターに行った日、旭ちゃんはどのゲームもカッコよくプレイして見せてみんなの人気者になった。

 旭ちゃんは自慢の旭ちゃんだけど私だけのものなのに……


 満月が―――


 旭ちゃんが―――


 満月が―――


 旭ちゃんが―――


 etc—――

 etc—――


 楽しかった数々の思い出が降り注ぐ。

 キラキラ輝き降り積もっていく思い出たち―――



 しかしその思い出は僕の―――草薙 仁の思い出ではない。

 そこに草薙 仁は存在しない。


 世界が―――


 夢が―――砕け散る。



 暗い、暗い世界に僕はいる。

 頭上に星は無く。

 足元にはかがっみのような水面が広がっている。


 僕の前にはしめ縄がまかれた不気味な、大きな切れ目のある大岩がある。


 僕の背後には生贄の姉妹がひざまずいている。


 僕の手の中には一振りの日本刀がある。


 足元の水面に映っているのは、祭囃子に打ち上げ花火、色とりどりな屋台が立ち並ぶ祭りの景色―――――――――――――――――ではなく、

厳かで堅苦しい神前の儀式の風景だった。

 そこには涙をたたえる者が幾人もいるのだが、儀式の主役たる2人はすました顔をしているがまるで結婚式の様な白無垢だった。

 花嫁が2人の神前の儀式。

 これは結婚式でもあり、また異なる儀式でもあった。

 この儀式は神様に嫁を…、生贄を差し出す代わりに大いなる災いから村や国を守ってもらうための儀式なのだ。

 なればこそ主役の2人の境遇に涙するものが多いのは頷ける。

 なっぜならば、2人の内髪に選ばれた方は生贄となり、この場で髪に命を奪われてしまうのだから。

 さらには、選ばれなかった方も……


 生贄候補の姉妹はそんな重い境遇にあっても二人とも穏やかな顔をしてかしこまっている。


 先ほど降り注いだ数々の思い出の中では、2人で苦楽を分かち合い共に笑い合っていた2人を……二重の意味で切り裂かなければならないのだ。


 この僕が、――――草薙 仁が2人のどちらかを殺さなけならないのだ。

 拒否することはできない。

 儀式は淡々と進んでいき最早最後の詰めを残すのみになった。

 僕にできることは――――殺す方を選ぶことだけだった。

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