第3話
「さて、お前に意識しておいてもらいたいことがもう一つある。」
師匠は亜美さんにお酌してもらいながら付け足した。
「もともとはこの亜美は鬼だった。鬼はどうやってこっちに来るのか調べてるときに偶然に、その力を持った鬼と出会ってとっ捕まえて創ったものだ。」
「うちにはその元になった鬼の記憶はありゃぁしませんのやけどな。」
「亜美とその鬼は別もんだからな。で、大事なのが実はもとになった鬼と同じ様に向こうと行き来できる鬼がまだいることだ。」
「仁君にはその鬼を倒して我々が黄泉でも活動できるようにする礎を築いてもらいたい。」
「そのための神剣なんですか。」
「そうだ、ただ鬼を斬るための刀ならいくらでもある。人1人を犠牲にしてまで欲しいのは黄泉の国を切り開くための力なんだ。頼んだよ仁君。」
「……ハイ。」
「はい、ここで仁坊に悪いお知らせや。こっちでいろいろ調べた結果、目的の鬼さんが近久こっちにきそうなんだわ。まぁ、普通の鬼とは違うはずだからすぐ気づくと思うが、そんときには……決めろよ。」
師匠も、お義父さんも何を…とは言わない。
僕が背負っているのは人類の未来、例えるならアポロ11号の船長を任されているみたいなものだ。
知らず体に力が入ってしまう。
「仁坊、気張りすぎだぞ。てめぇの
「あ、それならもう割り切ってます。そん時までは二人とラブコメ人生満喫しようと決めたんです。」
「い……いつの間に。」
「今朝です。悩んでるときに釣りしてたズラの坊さんに助言をもらって。」
「ズラの坊主、―――不思議ちゃんか!」
「知ってるんですか。」
「あいつも俺の弟子だからな。」
この人何人弟子が居るんだろう、―――なんか全員イロモノの予感がするが。
「ところでなんでお義父さんは泣いてるんですか。」
「パパの見せ場がどこぞの馬の骨にとられたぁ~。」
「娘が嫁に行った父親か。」
僕はさしずめ嫁替わりか?コレでも妹がいるんだが。
「
「ソレは泣いてんのか
「見ての通り泣いてんだよ。こいつ。」
「―――――――――――」
「―――――――――――」
僕と師匠はしばし黙って酒を飲みながらつまみをつつく。
いつの間に肴が変わっていたが、日本酒をちびちびやりながらその肴の豚キムチを摘まむ。
「って、なんで日本酒に豚キムチなんだよ。」
「美味いだろ。これも俺のレシピだ。」
この豚キムチが美味いのは確かだ。汁気が多いのだが、この汁気に出汁が効いているのか濃厚な甘みの利いた旨味を効かせている。
詳しい解説は何かは別の機会に詳しく記したいが、夏場に酸味と辛味が効いた肴に常温の日本酒は、とても良く効く。
酒精が回って頭がふわふわしてきた。
「―――師匠は、なんか、夢とかそんな感じのがあったりしますか。」
僕は酒の席だからとついついそんなことを聞いてしまった。
―――これは、天堂姉妹に一度は聞いてみたことだが、実際は別の意味として聞いていた。
『二人は僕と出会ってなければ、ホントはどんな人生を歩みたかった?』そんなつもりで聞いたのだが、伝わらなかった。
―――いや、正しく伝えられなかった。
―――いや、正しくは、正しく伝えなかった…………だ。
だからだろうか、益体もないことを師匠に聞いていた。
それとも、酔っていたのだろうか。
「俺は―――楽しくありたい。……楽しいとは本来あるべき自然な状態、またはそうあろうとする心から生まれる感情なんだけどな。――――、だからこそ、俺は楽しいことが俺の正しい在り方だと悟っている。悟りを開いたうえで「我思うゆえに、我在り。」と在り続けている。」
「それには、僕は必要だったんですか?僕が存在しなかったら……。」
「『因果応報』、お前の存在した意味はお前が成しえたこと以上は無く、お前が成しえたことはお前が成しえた意味以外の意味はない。」
それは、とてもやさしくて、とても残酷―――いや、とても残虐な答えだったのだが―――
だからこそこの人が師匠と言えるのだ。
だからこそこの人が恐ろしいのだ。
だからこそこの人から得たモノが素晴らしいのだ。
もしも自分が存在しない世界があったら?そんなものは自分には関係ない。ただ、それだけだけのことだと胸に刻んで、酔いに意識を溶かしていった。
「ここ、どこだ。」
頭に鈍い痛みを感じながら目を覚ましたら見覚えのない場所だった。
「…………あぁ、草薙家の別荘か。」
頭をぼりぼり掻きながら見渡してみてやっとここがどこだかわかった。
酔いつぶれた僕はきっと叔父さんと一緒に草薙家の使用人さんに運ばれたのだろう。
旅さきゆえの私物の無い部屋を出る。
「ぎゃーてー、ぎゃーてー、はら、ぎゃーてー。」
「おい、夜中に般若心経を唱えながら徘徊するな。不気味だぞ。」
少し酔いが残っていた僕はつい歌を口ずさんでしまいながら廊下を歩いていた、そこに突然声を掛けられてビビった。
時間は正確には分からないが、真夜中である。
月はこうこうと輝いているが別荘の廊下だと薄暗いものなのである。
そこには鬼に対するものとは違う、未知に対する恐怖があるものだ。
って言うか、ちょっとヤバイ。
「仁君こっちだよ。テラスのほう。」
僕がおろおろしていたら続いて声を掛けられ、テラスのほうを見れば満月が手を振っており、テーブルに肘をついきあきれ顔で僕を見ている旭、お馴染みの二人が居た。
むしろ誰もいなかった方が怖い。
「二人で月見でお茶かい。」
「仁、お前もどうだい。」
「私たちも仁君とちょっとお話したいかな。」
ふむ。
「先にトイレ行ってからな。」
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