終わりの始まり~~はオヤジたちとの語りから始まった
第1話
「お兄さん、ご注文はお決まりやすか。」
はんなり京言葉の女給さんが注文を取りに来てくれた。
師匠は僕たちが来る前から始めていたし、お義父さんは「まずは何時ものを頼む。」と言って注文を済ましてしまっている。
僕はお品書きを眺めながらもこれ、と決められずにいた。
「ほんに悩みはるんやったら、こっちでおすすめを見繕いましょか。」
「えあっと、ハ…ハイ、それでお願いします。」
この女給さん、見た目はまるで童女、二次成長期前の中学生ともいうべき年下感があるのに、得も言われぬ色香を感じる。
「おぉーい、仁坊。こいつは俺の女なんだから手を出すなよ。」
「出しませんよ。ていうか師匠こそ店の人に手を出したら駄目ですよ。」
「フフフ、かもうしませんのや。うちは店のモンちゃうてからにな。ほんには主様にくっついてきたんどすが、なんや男だけで話したいから引っ込んどれ言い張りましてな、ならばと女給の代わりにちゅうて混ぜさせてもろたんどす。」
「俺にくっついて離れたくないとか、可愛いやつやろ。」
「主様ったら、からかわんでおくれやす。」
なに?この二人の関係って。
そう思ってお義父さんのほうを見てみると、お義父さんは僕の肩に手を置いて黙って首を振るだけだった。
「ほな、こちらをどうぞ。」
お父さんの方を向いている間に用意されたのか、彼の女性が死角からにゅりゅりと蛇のように手を伸ばしてきて、
「梅乃宿ちゅう大和の蔵元はんの吟醸どす。肴はもうちょう待っておくれ、代わりに一杯お酌させてもらうきに。」
彼女は言葉の端々に色気があり、呼気には果実の様な甘い香気がありそれだけで酔ってしまいそうになる。
緊張と興奮でお猪口を持つてがふるえてしまってお酌してくれたお酒がはねて彼女の手に掛かってしまった。
「あっ、すみま―――
「あらあら、これは。……ほな、いただきます。」
微笑んだ彼女は口を開けて舌を伸ばし、手に掛かったお酒を舐め取って行った。
「ねぇろぅん、っぱ。おおきに、ご馳走様どす。」
その色気たるや童貞の僕には刺激が強すぎたのだが、トランスすることはなかった。
だって、彼女の舌先が蛇みたいに二股になっていたからだ。
「……お義父さん。」
お義父さんは僕の肩に手を置いて無言で首を振る。
「…………、ッ―――――――――――――――」
とりあえず飲む。余計なことは考えずに酒を飲み干す。
そうして酔っぱらえば知らずに済むことは知らずに済むか、ただの夢落ちになる。
「おっ、いい飲みっぷりじゃぁねえか、こいつの色香に飲まれるだけの子どかと思っていたんだがなぁ。」
「主様、こん若いもんにそんないけずなこと言ってやらんときいに。」
「おまゆう。とわいえ折角やしコイツの紹介いっとこか。」
背後でお義父さんが「はぁ~~~~~~。」と盛大にため息をついていますが、それは「やっちまったなぁ。」て意味のため息ですか。それともさっきから何も言っていないのに「もはや何も言うまい。」っていみのためいきですか?
「まずはうちの名前からやね。うちは
「こいつに名前つける際に捻り気どう出そうかってそう思ってんけどな、ザルじゃあ可愛くないから網、そいでひとひねりで亜美てわけだ。」
「名前を師匠がつけたんですか。」
「あったりまえだろ、こいつは俺が創った。俺の女だ。」
「うちは主様に創られ、使役されとる式神なんよ。」
「式神って言うかゴーレムとか、蟲毒とか、まぁ色々とな。
「そうですねん。うちは主様の理想が形になっておりまして、特にこの「ろり・きゅん・ろり。」な体型にはとてもこだわりはったんやっけなぁ。」
なにその「ろり・きゅん・ろり。」って新語。犯罪臭しかしない。
しかし、「ろり・きゅん・ろり。」か、語呂はいいねぇ。こっそり使おうかな。
「お前、それ言っちゃう。」
「なにゆうとりはるんや。主様はなんであれ趣味に走りはるお人やあらへんか、とくにあちらに関してはあれもこれもと見境なしにうちの中に無理やり入れはるさかいに、おぼこいうちには扱いきれまへんのやで。」
なんという鬼畜、しかし犯罪臭のするものも鬼畜をかけて人間から外れれば、これは最早合法なのでは?
だって、人間じゃないと解り切れればいいんだし。
「なんや若いのおもろぉ考えしはりますなぁ、「犯罪臭のするものも鬼畜をかけて人間から外れれば、これは最早合法なのでは?」ですかい。若いのはいつか大物に成りはりますなぁ。」
「って、おぉい。亜美さんって人の心が読めるんですか。」
「そうや、
「なんだってそんなもんをこの人に。」
「残念、こいつは人間じゃないぞ。」
「でしょうね。」
「半分は趣味なんやけどな、理由としてはお前さんが持ってるその長ったらしい名前の刀と関りがあるんだよ。」
師匠のその言葉には一瞬反応できなかった。
この呪われているというべき神剣、別称「イワヒメ」とここにいる可愛い童女とに関りがあるなんて全然考えもしていなかった。
「先生、やっと本題に入ってくれましたね。」
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