第7話
「私、海辺でBBQしてお腹いっぱいになるのが夢だったんだ。」
蒼は両手に持った櫛から豪快に肉にかぶりついている。
その表情はすごく幸せそうだった。
浜辺でのBBQである。
とくれば水着だと思うだろう。
が、残念ながらそれは後のお楽しみだとお預けを食らっちまったっゼ。
夏休みに海に来てお昼にBBQなど生まれて初めてである。
加えて言うと僕と蒼、旭と満月の4人がそろった旅行は実はこれが初めてなのである。
僕たち兄弟にとって旅行とは学校行事でしかありえなく、つまり、いつも蒼だけ仲間外れだったのである。
「美味しぃ、美味しぃ、幸せー。」
蒼の嬉しそうな顔を見るとこっっちまで嬉しくなるものだ。
この心温まるワンシーンであるが、そんな安い夢ならもっと早くに叶えてやればいいじゃねぇか、と思ったあなた。
蒼の胃袋はブラックホールである。
と、聞いてこれが安い夢だなどと思えるだろうか。
とまぁ、こういう風に蒼のことを語ると、蒼に愛着を持ってくれる方もいるだろう。
それは蒼が自慢の妹であるので嬉しいことではあるが、蒼の詳しい描写については後日改めてとさせてもらいたい。
「そういえば仁が持ってきたバケツは何だ。」
「わぁ、お魚がいっぱい入ってる。どうしたのこれ。」
「ここに来る途中で釣りをしてる人がいたんだけど、そいつ坊主なのに大漁だから持ってっけッてくれたんだよ。」
「ボウズなのに大漁?」
「魚屋でおごってくれたんだろ。」
「生け簀に入ってるやつを?」
「こらこら、違うぞ2人とも、釣り人が坊主だったけど大漁だったからおすそ分けをもらったんだぜ。」
「うっわ、仁の上手いこと言ったゼ的な顔がムカツク。」
「フフフ、むしろ私は仁君のドヤ顔がひさしぶりに見れて嬉しいよ。」
「おぉーい、そこは笑った顔がだろ。」
「アホか、どう見てもキモイドヤ顔だよ。」
そう言って僕たちは笑った。
僕にとって本当に久しぶりに心からの笑いだと思える。
僕は神剣の呪だなんだと、そんなことにばかり気を使って、旭にも満月にも目を向けていなかったのだと思う。
きっと、僕一人で問題を抱え込もうとして、「僕は悲劇の英雄です。誰か助けてください。」的な暗い雰囲気を出しては周りを暗い気持ちにしていたのだろう。
だぁがしかぁし、今の僕はそんな暗いやつじゃない。
今の僕はそれなりに悟りを開いて、自分だけのことでなく二人のことに気を使い、その時まで
だから上手いこと言って場を和ませようとしたのだけどな。
キモイ―――か。
だがめげない、いくら傷ついてもその時までの時間を有意義にすると決めたんだ。
いざ!ラッキースケベの実現を、ラブコメの時は来た。
蒼がご満悦なのでそれに合わせて聞いてみた。
「二人は何かこの夏で叶えたい夢とかあるのか。」
「なんだぁ、藪から棒に。私たちの気を引こうってか。」
「ふぅん、つまり仁君が私たちの願いを叶えてくれるってことかな。」
「まぁ、そんなところだ。」
一応これでも男の子なのだし見栄も張ってみる。
そしたら、旭と満月がこそこそと話をし始めた。―――まぁ、聞こえちゃってるけどね。
「なぁどうする、こうは言ってるけど……マジなのを行くか?」
「うぅーん、さすがにそれは、―――ここはひとつ一歩引いたのにしようよ。」
と、いう訳で二人は相談の末に少し遠慮をするみたいだ。
正直男としてちょっと悔しい。
「「それじゃぁ仁(君)、私達と結婚して(くれ)。」」
「幼稚園児の約束か!」
予想以上に可愛いのが来たぞ。
いや、これは場合によってはかなりきついことな気もするが……。
しかし僕の場合は幼馴染の双子から言われたことなので、なんか子供っぽいお願い事に聞こえてしまう。
しまうが、僕も天堂姉妹も中学を卒業したのだからいい年だ。
しかも武士と言う立場の復活により、若くして戦場に立つことになる者も増えるとなって、男子の結婚可能年齢が引き下げられている。
つまりは僕たちは結婚できるだけには大人になっているのだ。
「ふぉにひぃひゃん、しゅぅうほぉんふぁ――――
「蒼、喋るなら口の中のものを飲み込んでからにしなさい。」
モグモグしていた蒼はゴックンと飲み込んでから改めて話し始めた。
「お兄ちゃん、重婚はまだ犯罪だよ。」
蒼の言う通り、重婚は今のところ犯罪だ。
しかし、鬼の問題が早期に解決するめどが立たない今、若い男が命を危険にさらしている以上は強い男に少しでも子孫を残してもらおうという流れができている。
結果がどうなるかは今は分からないが何らかの法改正が近々あるだろう。
しかし、しつこいようだが今はまだ重婚は犯罪です。
「おい、仁。これ、渡そうか悩んでたんだけど。」
「私達から。」
「なんだ、ラブレターか。」
渡された封筒の中には数枚の紙が入っていた。
開いてみると―――
『仁君へ―――
これを読んだならば一か月以内に次の書類に名前を書いて、しかるべき場所に納めなさい。
さもなくば、貴方に呪いが降りかかるだろう。』
中に入っていたのはそう書かれた便箋と、旭の名前が書かれたのと、満月の名前が書かれたものが、各一枚ずつ入っていた。
「って、
中に入っていた
『P,S 貴方が為すべきことを成せば祝いが降り注ぐだろう。』
てか、祝ってもらわなきゃきつい。
その時にはどちらかは―――
「旭、これ受け取ってくれ。」
僕は名前と判子を入れた婚姻届けを旭に渡した。
「…………これってつまり。」
「あと満月も受け取ってくれ。」
「はい?」
僕は旭に渡したのと同じように婚姻届けを渡した。
「お兄ちゃん、だから重婚は犯罪だって。」
「そうじゃねぇよ。これはその時まで二人にそれぞれ預かってもらって、来る時が来たらそれを二人で出しに行こうかと。」
「仁君、それって。」
僕は満月と旭二人に向かって宣言した。
「まだどちらにするかは決まってないけど、覚悟だけは決めたから。」
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