第3話

「スセラギノツクモノイワヒメノツルギです。」


 僕は湯船から出されて床板に正座させられた上で神剣の名前を何度も復唱させられた。

 幼馴染の旭と満月、そして妹の蒼からも、「こいつ仕方ねーなぁ。」てな顔で見下されては文句も言えない。

 ここは風呂場なので3人とも裸なのだがそんなことに興奮することもできないくらい冷ややかな目線で見降ろされている。

「いい、仁君。この神剣は由緒正しきものなのです。」

「お兄ちゃん、この神剣の由来は古事記、並びに、日本書紀、旧事記くじきに記されている物なのです。」

「お前はそんなもんで鬼のち〇こを切り裂いた罰当たりだ。」

「そろそろ鬼のち〇この下りは勘弁してください。」

「無理じゃないかな、お兄ちゃんは後世に「神剣をもって鬼のち〇こを斬りて退治せし者。」って、語り継がれるでしょう。」

「そんなの嫌じゃぁぁぁぁぁぁっぁぁ。」

「仁君、むしろ鬼のち…ち…ちん………、――――アレを切らされた彼女のほうが可哀そうなんだから。」

「名前にヒメってついてる時点で気づいてよお兄ちゃん。」

「いや、仁の奴神剣の名前も覚えてなかったからな。」

「最低だね、お兄ちゃん。」


「と、いう訳で、仁君にはもう一度この神剣の由来をおさらいしてもらいます。私たちのことはそれから。

「まずこの刀に宿っているのは岩永姫いわながひめ

「ニニギノミコトていう、天照大神の孫であり、この国の始祖である神武天皇の曽祖父に当たる神様に嫁いできた方。

「しかし、岩永姫は醜かったため、妹の此花咲夜姫このはなさくやひめだけが選ばれて追い返されたそう。

「結果、神武天皇の子孫ったる民には咲夜姫の繁栄はもたらされたが、岩永姫の長き寿命は得られなかったと言われている。

「そしてこのイワヒメノツルギはそんな岩永姫の力と愛と悲しみがやどっているとされている。


 満月の分かりやすくかいつまんだ話で神剣の由来は分かった。

「つまり、この子は女の子なんだから汚れたらお風呂で綺麗にしないとダメなんだよ。」

「いやいや、別に神剣が風呂に入っているわけが聞きたかったわけじゃないんですけど。」

 妹曰く、「えぇーと、つまりどゆこと。」

「要は、仁の奴は何でそんな神剣が双子の片割れを生贄に求めているのかが納得いかないって話だろ。」

「さすがわ旭よく分かってる。」

「ふふん、いいか仁、この刀はな、ブサイクって理由で男に振られたあっげく、妹だけが勝ち組になって一人寂しく生涯を終えたことで、次こそは自分が選ばれたい、という思いから、岩永姫が選ばれる=生贄の娘として選ばれるって条件が付いっちまったんだよ。」

「典型的な呪じゃん。」

 旭の例えは分かりやすいがそれゆえにひどい。

「何でそんなものほっとくの。封印しとけよ。」

「それがそうもいかないのが岩永姫の力。」

「お兄ちゃん、これは陰陽寮のほうで聞いた話なんだけど。」

「なんだそれ、嫌な予感しかしないぞ。陰陽寮っていたら戦闘用の術の研究のほかに災害の予知や鬼についての研究か何かをしてる所だろ。」

「うん、そこが出した予知に近々すごいのがきそうだけど、どうやらその神剣が明暗を分けるって卦に出てたそうなの。」

 卦って確か陰陽術による占いか予知みたいなもんだったっけ。

「だからか。だからこの神剣がらみで手間かけてるのか。」

「それだけじゃなくて、鬼の研究でその剣を使えば鬼が生まれる黄泉の国に侵攻することも可能になって来るだろうって。」

「そんなことになってるのか。」

「知らないのはお兄ちゃんぐらいだよ。」

「いや、旭や満月も知らなかっただろう。」

「いや、知ってるし。」

「うん、知ってるねぇー。」

「いやいやいや、お前ら一緒に「この神剣の名前なんだろな。」ってやってただろう。」

「いやだって仁1人が知らないとか。」

「そうだね。仁君が贄殿遮那とか言い出した時は。」

「「付き合ってあげないと可哀そうかなって思って。」」

「今この時がすごくつらい。」


 改めて湯船につからせてもらった僕は、肩までお湯につかり覚めた体を温める。

「とりあえず話を整理するとこの神剣、スセラギノツクモノイワヒメノツルギ、は長いので以下イワヒメと呼ぶことにして、こいつの力を引き出すことは国益につながると?」

「それもこの後のミッションが上手くいけば歴史に名を残す、うぅん、伝説にだってなれるほどだよ。」

「すごい、お兄ちゃんが伝説になるの。」

「おい、それよりちょっと待て、この後のミッションて何?僕聞いてないんだけど。」

「仁はそれよりも神剣の力を解放することが優先だからだろう。」

「それって要は旭か満月のどちらかを斬れってことなんだろ。」

「ただ斬るだけじゃダメなんだよ。仁君の一番でないとダメなんだよ。」

「一番って何のだよ。」

「L・O・V・E、ラァブゥーー。」

「旭うざい。てかそれだと他の誰かにラブったらどうするんだよ。」

「そこはそれ、ご都合主義ってやつだよ。」

「抜ける人は剣の波長から絞り込めたし、条件の合う双子が都合よく適合者の幼馴染だったこともあってね、後は陰陽寮の術者の意地の見せ所ってところだよお兄ちゃん。」

「それは最早ご都合主義を通り越しいたヤラセだろ。」

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