神剣双娘生贄譚～二者択一の殺意＝愛

第7話

「蒼、満月のフォローを頼む。」

　鬼と対峙して早々にSAN値？チェックに失敗して倒れた満月を蒼に任せて僕が鬼の牽制に入る。

　鬼は満月の執拗な攻撃で完全に狙いを彼女に向けている。

　今の満月は無防備になっているので戦線から離したいが、壁役が少ないのでは安易に動かせない。

「籠目籠目（かごめかこめ）。」

　蒼は満月の前に立つと印を結んで防御の魔術を発動させた。

　うちの妹は刀による白兵戦と魔術を同時にこなせる魔法戦士の才能がある。

　しかし、いかんせん二足の草鞋に加えて、若いことでの経験不足により決定打にかけている。

　今後の成長に期待されていたが、当の蒼は逆に防御や補助系統の習熟を選び単体での戦力よりチーム内での何でも屋に落ち着いている。

　中でも守りに対しては成長著しくてこの下級の鬼の相手ならば十分すぎるぐらいだ。

　だからこそ、僕も無茶をすることができる。

　本当のところは時間稼ぎに徹して助けが来るのを待つだけでいいところなのだが、僕にとっては中型の鬼との一対一の機会は今回が初めてなものだから、やってやりたくなってきちゃうよなぁ。

　戦術は先ほどビール瓶を斬ったものと同じもの。

　小細工無しの一太刀に勝機を見い出す、居合の中でも立ち居合いに当たる自ら間合いを詰めるもの。

　攻め、抜き、斬るを一息に放つ。

　もし災害級に当たることがあれば下級などは一太刀で斬れるぐらいでないとモノにならないだろう。

　だからここは挑戦する時だ。

　今回はビール瓶を斬る時とは違い、気を練り上げて全身に行きわたらせる。

　強い意志をもって練られた気はただ鬼を傷つけるだけではない、人体に行きわたった気は肉体の機能を飛躍的に向上させる。

　この気の練り上げが優れている者が鬼退治の専門家、武士になることができるのである。

　とはいえ、武士でない一般の者でも最低限の戦闘訓練は受けているものである、一部では避難訓練ともいわれているが。

「お兄ちゃん、大丈夫。」

「大丈夫だ、問題ない。」

「時間稼ぎでいいんだよ。それなのに背中が「べつに倒してしまっても構わんのだろう。」って言ってるみたい。」

「……縁起の悪いことを言うなよ。」

　それでは完全に噛ませ犬じゃん、一応は僕が主人公のハズなんだからここではかっこよく勝たせてよ。

　あっ、テンションさがってきた。

　せっかく練った気も霧散してしまった。

　ここは何かテンション上がることを考えないと、いけないんだけど鬼がそれを待ってくれる訳もない。

「がぁぁぁぁぁぁぁっ。」

「くっ。」

　鬼の攻撃を神剣の鞘で受け止める。

　流石は神剣の鞘、中身が呪われてるだけあって頑丈だ、低級の攻撃くらいではビクともしない。

　続く攻撃も鞘で受け流しながらテンション上がることを考える。

　―――しかし、さっきから鬼のデカモツが目障りだ。

「うっとぉしんだよ！」

　大変なことをしてしまいました、ついかっとなったのです、後悔してます。

　僕は鬼のティンコを真っ二つに斬ってしまったのです。

　パンツを履いてないから、もろ出しでなければやられなかったのに。

　僕が斬り飛ばしたティンコはクルクルと回りながら宙を舞って、ベチャリと不快な音を立てて地面に落ちる。

　と、同時に僕の目の前でティンコごと胴を真っ二つにされた鬼の体が裂けて、死体を残さずに黒いモヤになって散って行った。

　しかし、どういう理屈なのか分からないが死体は消えてしまうのに、何故か返り血は消えないのである。

　そう、頭からかぶった鬼のティンコから噴き出した返り血は消えずにそのままなのである。

　マジで後悔してます、ごめんなさい。

「汚ぁーい、仁君汚い、すっごくばっちい。」

　僕より先に鬼を倒していた旭は僕の見せ場として助太刀には入らずに見ていたらしい。

　そして決着がついて固まっていた僕に先の言葉を掛けて来たのだ。

　が、旭は僕を労ったり、励ましたりすることなく、小学生みたいにはしゃぎながら煽って来る。

「そういう旭だって返り血まみれで汚いことになってますが。」

「ちぃみーー、解ってないな、これは鬼の首を斬り飛ばしたことで付いた、いわば名誉の汚れだぞ、君の汚らしいち〇こ汁と一緒にしないでもらおうか。」

「ち〇こ汁言うな、しかもその言いようではまるで僕のち〇こ汁を誰かにぶっかけたみたいじゃないか。」

「なに、仁君は私にち〇こ汁をっぶっかけたいの。」

「んなぁこたぁ言ってねぇー。」

　そんな風に僕と旭が言い合ってた時に、気を失っていた満月が目を覚ました。

「うぅんー、何がなんだかーー、…………って、なにこれぇー、なんか体中がべたベナンだけどー。」

　何を隠そう、満月は気を失ってる間に鬼のち〇こ汁を浴びていらっしたのです。

「いやぁー、なにこれぇー、私、仁君と同じ臭いがするー。」

　そこぉー、表現には気を付けてぇー、今は僕と同じ臭いを発してるかもしれないけど、それは僕の臭いじゃなくて鬼の変えり血の臭いですからぁぁぁぁぁぁ。

「ひーいん、すっごく臭いよぉ。何これぇ。」

　それは鬼のち〇こ汁です、なんて言えるはずもなくて。

「クンカクンカ、うん、マジで仁のと同じアレの臭いがするね。」

　満月の臭いを嗅いだ旭がとんでもないことを言う。

「仁君ぅぅぅぅぅぅぅん、どういうことかな。」

　こら旭、余計なことを言うんじゃない。

「何で旭ちゃんが仁君のアレの臭いを知っているのかな。」

「そっちかよ！」

「わーん、旭ちゃんが私に内緒で仁君のペロペロしてたなんてぇ。」

「してねぇよ。」

「おい、旭、これをどう収集付けるつもりだ。」

「…………よし、風呂に入ろう。」