第6話

 さて、神剣のクソ長い話で忘れられていると思うが、僕たちは鬼退治の真最中です。

 僕たちが駆け付けた時には親父の実家の使用人たちが付かず離れずに牽制して動きを制している。

 ちなみに親父は、いや親父だったものは地面に散乱して染みになっている。

 ザマァねえぇと思う反面、心に思うこともある。

 酒やたばこばっかやっていて、気に入らないことがあればすぐ暴力をふるっていた奴だった。


 だからこそ、今回も何かやらかしたはずだ。


 結界に守られたこの辺りにはまず鬼は発生しない。

 そうでなければこの日本に安心して暮らせる場所は無かっただろう。

 そんな場所に突然に鬼が現れれば何かを疑うのは当然であろう。

 この場合は血だまりに変わった元親父に嫌疑が行くのが必然だ。

 その方法について今は考えている場合では無いが。


 そこにいたのは中型の鬼が2体であった。これが一体ならばここにいた人たちだけでも対処できただろう。

「旭、お前は皆と青黒いほうの相手を任せるぞ。」

「任せろ、お前より先に倒してやるよ。」

「満月は僕と、……あとそこのそうも、こっちの赤黒いのをやるぞ。」

 そう言って僕は満月と妹の蒼を従えて鬼を倒すために身を躍らした。


 僕たちが対峙した鬼は赤黒い皮膚をした2メートルほどの一般的な中型の鬼だった。

 筋肉質で固そうな体表は垢で汚れ汚らしい。

 衣服と言うものを着る知性が無いものなのか肌はむき出しだ、最悪なのがコイツオスなものだからかむき出しの下半身にある気持ち悪いデカブツが目障りで仕方ない。

 足は虎の足みたいな形状をしていて、鋭い爪がのぞいている。

 手は人間のように5本の指があるがサイズが違いすぎる、またこの手の指にも鋭い爪が生えているが、武器の類は持っていない。

 むしろこの2体の鬼には武器を使うという知性はない。

 その証拠が鬼の顔にある。

 鬼の顔は直視するのが嫌なぐらい醜悪なものもいるがこれはまだましだ、口は大きく裂けて不揃いな牙がのぞき臭い息を吐き出している、鼻は大きく固くサイの角みたいにとがっている、そして目であるが、これが真っ暗な伽藍洞がらんどうなのである。

 鬼の顔に眼球が無いものは知性の無い最下級の証である。

 鬼の証の角も眼窩がんかの上にちょこんと小さいのが2本生えているだけだった。


 最下級とは言え中型ならばその図体だけでも脅威になる、油断していると痛い目を見るだろう。

 ここは手堅くいくべきか。

急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう。」

 どう攻略しようかを思案しようとしたら、突如背後から満月の声が響き、眼前の鬼に向かって火の玉が向かっていった。

「ちょっと、満月何やってんのぉ。」

 振り返ってみれば突然のことに固まっている蒼と、魔術で火の玉を放った満月が目に入った。


 ここで一つ補足をば。

 天堂 満月は魔術師である。

 正確には使っているのは陰陽術であるのだが、昨今では陰陽術も広義の意味での魔術扱いされているので陰陽師も魔術師扱いなのである。

 そして、魔術は鬼に対して有効な戦術だ。

 だからこそ魔術師も鬼と戦うために戦場に出る者であり、武士に数えられている。

 とはいえ武士たちとは使う技術が違うために育成機関が別に設けられている、その為に若いものでは前衛との連携が苦手なものが出るのが問題視されて合同訓練が増え始めていく、とややこしいことになってるらしい。

 まぁ、そこらへんは組織の幹部にでも成らなければ関係ない話だろう。

 僕たちにとっては何度も訓練し、共に実戦経験もある。

 前衛の僕は満月が後衛についてくれることに信頼を置いていた。


 その満月さんの目がぐるぐると渦を巻いている。

 完全にパニック状態である。

 何故満月がパニックてるのかは分からないが、これは大変にまずい。

 前述したが銃火気が鬼に効果を上げられにくいのは、そこに人の意志がのりずらいからだ。

 詳しい原理は分かっておらずいくつかの説があるが、強い意志が乗った攻撃は鬼の強度を下げるのか、攻撃の殺傷能力が飛躍的に上がるのだ。

 つまりはパニックになってる状態では意志が練れず、どんなすごい術でもその攻撃力は微々たるものになる。

「急急如律令、急急如律令、急急如律令ぉぉぉぉぉ。」

 狂ったように術を連発する満月、これでは無駄にヘイト値を稼ぐだけになる。

「弾幕薄いよ、何やってぇんのぉ!」

「むしろお前が何やってんのぉ。」

 火の玉に限らず水の鞭や風の刃、石礫などが乱発されていく。

 そこで僕はふとあることに気が付いた。

 術は乱発されているが狙いは集中しているのである。

 そして術の乱発で満月の息が上がったことで弾幕が晴れた。


 そこは鬼の股間だった。


 鬼の股間は乱発された攻撃に耐えるために力を入れられていたのか、アレが大きくそそり立っていた。

 しかも無傷とはいかなかったせいか汚らしい液体がそれから濡らしており、今もびくびくと波打つたびに雫を飛ばしていた。


「ソレかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「きゅぅぅぅぅぅ。」

「あぁ、満月姉さん。」

 女子力が高い反面、そおゆうの(生)には免疫が無かった満月にとっては、モザイクのかかってない鬼のアレを改めて直視したことは相当のストレスになったのだろう

 気絶してしまった。


「だっふんだ!」

 とりあえず言ってみた。

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